トラブルは嫌!実家を相続する前に知っておきたいポイントと注意点
いつかはやってくる相続の時。不動産相続に関しては特に注意が必要で、遺産分割協議や相続登記、相続税など多くの手続きが関わります。今回は実家を相続する際に知っておきたいことや注意すべきポイントを整理していきます。
不動産相続の方法~遺言書に基づく相続~
不動産を含め、相続には2つのパターンがあります。1つは「遺言書に基づく相続」、もう1つは「法定相続分に基づく相続」です。
遺言書に基づく相続
遺言書は、主に「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。遺言書がある場合、基本的にはその内容に準じて遺産分割されます。なお遺言書が有効であるためには、法的な要件を満たしている必要があるので注意しましょう。
「公正証書遺言」
法務省が管轄する公証役場で作成する遺言書です。裁判官や検察官などの法律実務を経験した公証人が、遺言を作成する人から内容を聞き取り作成します。作成時には公証人の他に最低2人の証人が立ち会うことが条件で、法的な要件を満たした遺言書を作成できます。なお作成する際は財産の価額に準じた手数料が必要です。
「自筆証書遺言」
遺言書を作成する人が自分で作成する遺言書です。遺産を一覧にした財産目録はパソコンで作成できますが、それ以外はすべて自筆で書かなければなりません。なお相続が発生した場合、相続人は開封する前に家庭裁判所に自筆証書遺言を提出し、検認を受けなければなりません。
自筆証書遺言は手軽に作成できますが、法的な要件を満たしていないと遺言として認められないこともあります。自筆で書いていない、印鑑が押されていない、訂正方法が違う、日付がない、遺留分を侵している等の不備があると法的要件を満たしていないと判断されます。
*遺留分:法定相続人(兄弟姉妹以外)に最低限保証された遺産取得分
不動産相続の方法~法定相続分に基づく相続~
遺言書がない場合、民法に基づいて法定相続人が定められた割合で不動産を含め相続します。法定相続人には、配偶者、子ども、両親、兄弟姉妹などが含まれます。具体的な相続の割合は、相続人の組み合わせによって異なります。
自宅不動産の相続では、土地や建物を複数の相続人で相続すると利用しにくくなるため、通常は相続人の誰かがまとめて相続することが一般的です。その際は不動産を相続した相続人が他の相続人にお金を渡したり、他の遺産を受け取らなかったりしてバランスを取ることが多いようです。
不動産相続の流れ
次に不動産相続の流れについて解説します。具体的には以下のステップで進められます。
1.相続の開始
亡くなった人を被相続人と呼び、相続手続きの詳細は下記の通りです。
2.法定相続人の確定
誰が法定相続人になるかを確認します。亡くなった方(被相続人)の出生時から死亡時までの戸籍謄本などを取り寄せて確認することが必要です。なお、被相続人の戸籍を集めることは個人でも可能ですが、亡くなった方が引っ越しなどを繰り返したり、離婚経験があったりすると難易度が上がります。そのため司法書士や行政書士などの専門家に戸籍を集めてもらうということもよくあります。
3.遺産の調査
被相続人の遺産の内容を確認します。不動産のほか、預貯金や有価証券、借金なども調査対象です。また生命保険の死亡保険金や死亡退職金なども、みなし相続財産として遺産に含まれます。この遺産の内訳と総額、法定相続人の人数などで、相続税が課税されるかどうかが変わります。
4.遺産分割協議
法定相続人が確定し遺された財産が分かったら、相続人全員で遺産をどのように分割するかを話し合います。この際、遺言書がある場合はその内容を尊重します。ただし遺言書があっても遺留分を侵している場合もあり、そのようなケースでは相続人でどのように分割するかを話し合う必要があります。なお認知症などで判断能力などに問題がある相続人がいる場合、遺産分割協議はそのままでは行えず、家庭裁判所に申請し、代理人を立てるケースが増えています。
5.遺産分割協議書の作成
遺産分割協議がまとまったら、その内容を協議書にまとめます。全相続人の署名と押印がされた協議書は相続人の人数分を作成し、各自で保管します。各自の遺産分割協議書は金融機関や不動産などの名義を変更する際に使用します。
6. 相続登記
不動産の所有権を相続人に移すために登記手続きを行います。2024年4月から相続で取得した不動産の登記手続きが義務化され、不動産を相続した相続人が必ず登記手続きをしなければなりません。この登記手続きは相続人本人でも可能ですが、司法書士に依頼することが一般的です。
7.相続税の申告・納付
相続財産が多く、納税が必要な場合は相続税の申告と相続税の納付を行います。相続開始から10カ月以内に手続きを完了させる必要があります。
相続税と不動産の関係
相続という言葉を聞くと相続税を思い浮かべます。また「家族が亡くなったら相続税は必ず納める」と考えている人も多いのですが、相続税を納税しているのは額全体の約10%です。これは相続税に基礎控除があること、また配偶者への優遇措置があること、不動産についても特例があることなどが影響しています。
1.不動産の評価について
不動産を評価する際には土地と建物に分けて評価を行います。
「土地」
路線価という実際に取引されている値段(実勢価格)の7割程度で評価します。そのため、相続財産としては実際の価値よりも低く計算されます。ただし路線価はあくまでも相続税を計算する際の目安であり、相続人同士の遺産分割協議とは分けて考える必要があるでしょう。
「建物」
市区町村から送られてくる固定資産税評価額を建物の価値と読み替えます。古い木造住宅などは税法上の価値の下落が早いため、相続税の計算では大きな影響がでないことも多いです。ただし、遺産分割協議の中では一定の価値があるものとして取り扱います。
2.小規模宅地の特例
条件がありますが、亡くなった方が所有していた土地の相続税評価額を最大80%下げる特例があります。土地を相続するのが配偶者や同居していた法定相続人などのケースでは、この特例を使うことができます。
上記のように相続時の不動産に対してはさまざまな制度が用意されています。
不動産を相続する際に必要な費用
不動産を相続する際に必要な費用がいくつかあります。
必要書類の取得費用
相続登記では戸籍謄本などの添付書類が必要です。この必要書類を取得するための費用が5000円から1万円程度必要です。
登録免許税
固定資産税評価額の0.4%を納税します。仮に固定資産税評価額が2000万円であれば、8万円です。
司法書士費用
不動産の登記を司法書士に依頼すると、10万~30万円程度の報酬が発生します。報酬は司法書士が自由に設定でき、居住地域や依頼の内容によって変わります。
相続税の納税
相続税の仕組みには配偶者への優遇措置や、小規模宅地の特例、路線価での計算などさまざまな優遇措置があります。その優遇措置を超えた部分については相続税が発生します。
不動産相続で起こり得るトラブル・注意点
不動産相続には多くのトラブルがつきものです。以下に代表的なトラブルとその注意点を挙げます。
遺産分割協議の難航
相続人同士の意見が合わず、遺産分割協議が難航することがあります。特に、不動産は分割が難しいため、共有名義にするか、売却して現金で分割するかなどの選択を迫られます。
相続登記の遅延
相続登記を放置すると不動産の売却もできません。また未登記のまま次の相続が発生すると相続人が増え、手続きがより複雑になります。早めの手続きを心掛けましょう。
相続税の未払い
相続税の申告・納付期限は相続開始から10カ月以内です。期限を過ぎると延滞税などが発生するため、早めに手続きを進める必要があります。
不動産の相続は誰が相続するかを決めることが難しいケースが多いです。特に子どもたちが独立し、それぞれが持ち家を取得していたり遠方に住んでいたりすると、実家の不動産を誰も相続したくないということが多くなっています。また登記が何代か前の世代のままになっていて、いざ登記をしようとしたら会ったこともない法定相続人が関係してきたといったこともあります。
相続の相談で困った場合の対処の仕方
相続に関する疑問や不安がある場合は各専門家に相談するのが賢明です。
弁護士
相続トラブルや遺産分割協議のサポートをしてくれます。遺言書の作成や相続人の調査も依頼できます。
税理士
相続税の申告や節税・納税対策を相談できます。相続財産の評価や税務申告書の作成も依頼できます。
司法書士
相続登記の手続きを代行してくれます。登記に関する書類の作成や手続き全般をサポートしてくれます。
相続が発生した際は専門家である弁護士や税理士、司法書士などに相談することをおすすめします。なお市町村役場や年金事務所、税務署、法務局などでは担当分野の手続きの案内はしてくれますが、相続全般という形では対応を行っていません。
相続について事前に準備できることは?
家族間の仲が良ければ、事前に遺言書や財産目録などを書いてもらうと良いでしょう。また法定相続人が限られているのであれば、金融機関の情報や万が一の際の連絡先などを含んだエンディングノートを書いてもらうのも有効だと思います。
なお家族間の関係が良好でない場合、事前に対策を講じることは難しいと言わざるを得ません。特に兄弟間の関係が不和であると、相続が発生した後に、弁護士を通じた遺産分割協議や家庭裁判所による調停を利用することが多くなります。
まとめ
相続は発生すると沢山の手続きが必要になります。その中でも不動産はいろいろな困りごとが発生しやすい項目です。特にご両親が亡くなり、独立した子どもたちが既に持ち家を所有しているような場合、誰が相続するのか?相続後に所有するのか?売却するのか?などの選択が必要になります。
また売却を希望しても、買い手がつかずに「負動産」になることもあります。家族仲が良ければ事前にできることもありますが、そうでなければ相続発生後に弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。