年金の繰下げ、受給額はどれくらい増えるの?税金対策もできる?
今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、公的年金の繰下げ受給について。税金対策や公的年金の他に個人年金も受給する場合、どのようにすればお得なのかという50代女性からのご相談です。年金の繰下げ受給は受給額が増えますが、収入が増えると税金などの負担が増えるという問題も出てきます。税金対策や個人年金の受け取り方も合わせて考えてみましょう。
50代女性からの年金に関する相談内容
公的年金についてですが、受給時期を少しでも先延ばしにしたいと思っています。同時に税金対策も考えています。個人年金や他の収入があれば、かなりの税金を持っていかれると言う話も聞きます。
今後、繰り下げ受給と税金対策どちらも総合的に考えていきたいと思っていますが、個人年金の受給を遅らせた方がいいとか、公的年金は65歳から受給した方がいいなど、どのように考えていけば良いでしょうか?
公的年金繰下げ受給のメリットとデメリット
老後資金の対策として、公的年金の受給を先延ばしして受給額を増やすという方法があります。受給額が増える一方で、収入が増えると税金や社会保険料の負担が増えるという問題も。また、個人年金を積み立てていた場合、さらに収入が増えますのでどのように受け取るか、また税金対策をどのように行うかは非常に重要な問題です。
まずは公的年金繰下げ受給のメリットについて見ていきます。
公的年金(老齢基礎年金や老齢厚生年金)は、受給開始を65歳から1カ月刻みで75歳まで繰り下げることができます。繰下げ受給の最大のメリットは「年金受給額が増える」ことです。
1カ月繰り下げるごとに0.7%増額されるので、70歳まで繰り下げると42%、75歳まで繰り下げると84%も年金額が増額されます。例えば、65歳で年間120万円の年金を受給できる人の場合、70歳まで受給を繰り下げると年間約170万円になります。この年金額を一生涯受け取ることができるので、長生きすることを考えれば繰下げ受給した方がかなりお得ということになります。
逆に公的年金繰下げ受給にはデメリットもあります。
最大のデメリットとしては、受給開始までの生活費を他の収入源で補う必要があるということです。繰り下げる期間が長ければ長いほど、その間の生活費を確保する必要があります。相談者の場合、個人年金に加入しておられるので、その期間に必要な収入を補うことができそうですね。
さらに繰下げ受給によって年金額が増えることで、税金や社会保険料の負担が増えるというデメリットもあります。せっかく年金額を増やしたのに手取り収入が少なくなっては繰り下げた意味がありません。仮に70歳まで年金を繰り下げても、手取り収入が42%増えるとは限りません。
個人年金保険の据え置きのメリットとデメリット
個人年金保険はあらかじめ契約した年金受給開始年齢になると年金が受給できる商品ですが、保険会社や保険種類により据え置くこともできます。(保険会社により取り扱いが違うのでご注意ください)
もしあなたの個人年金保険が受給開始年齢を据え置くことが可能な場合、据え置き期間中の利率がどれくらいなのか確認してください。据え置いた場合、保険会社が運用を続けてくれますので運用益を得ることができ、将来の受給額が増えるメリットがあります。また、個人年金保険は公的年金とは異なり、それまでに支払った保険料を収入から控除できるので、受取年金額すべてに課税されるわけではありません。
一方で、個人年金保険の据え置きにもデメリットがあります。保険の種類にもよりますが、年金受取年齢を据え置くことにより支払期間が延長になる場合もあります。保険料の支払期間が長くなるため、その間の経済的負担が増える可能性があります。
また、この低金利時代なので運用益が思うように上がらないということも考慮する必要があります。さらに、据え置き期間中に保険会社が破綻するリスクもゼロではありません。
「公的年金」と「個人年金」、どちらを先に受け取る方がお得?
個人年金の受給を遅らせるか公的年金の受給を繰り下げるかは、受取年金額がどれくらい増えるかという受取額だけでなく、所得税や住民税を考慮しなければいけません。
公的年金を受け取る際は、公的年金等控除の所得控除があります。65歳以上の場合、年金収入が330万円以下の人は110万円の控除を受けられます(公的年金等以外の合計所得金額が1000万円以下の場合)。
一方、年金保険を受け取る場合は、払い込んだ掛金の総額が必要経費となり利益の部分しか課税されないので、税金面だけ考えると年金保険を遅らせた方がお得かもしれません。
しかし、受取額を比較すると圧倒的に公的年金を遅らせる方がお得です。公的年金を遅らせると年間8.4%増えますが、個人年金の場合据え置き利率は年1%程度です。
さらに健康保険料や介護保険料などの社会保険料の負担も併せて考える必要があります。課税所得が増える分、税金だけでなく社会保険料も増えます。社会保険については、毎年の保険料が増えるだけでなく、70歳以上になると医療費の自己負担割合が増えることにも注意が必要です。
年間課税所得が145万円を超えると自己負担割合が2割から3割に増え、医療費の窓口負担が1.5倍も増えます。また、高額療養費制度も年間課税所得額145万円を境に自己負担の限度額が増えます。
よって年金額を増やすことばかり考えるのではなく、税金や社会保険料の負担も含めて総合的に考える必要があります。
まとめ
税金や社会保険料の負担まで考えると、その方の年齢や所得、家族構成やお住まいの地域まで勘案して試算しなければなりませんので、一概にどのような受け取り方がお得かは結論が出ません。
とはいっても公的年金を遅らせることによる年金受給額の増額のインパクトは大きいです。今回の相談者の場合、個人年金は契約通りの年齢で受け取り(受け取り方法も従来の年金方式で受け取るのか一時金で受け取るのかどちらがお得なのかは試算が必要でしょう)、公的年金を遅らせて受け取る方が生涯年収も増えるのではないでしょうか。
詳しくはお近くのファイナンシャルプランナー(FP)までご相談ください。