年末調整で忘れたものは確定申告を!チェックしておきたい節税方法
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いよいよ年末も近づいてきました。2025年は新NISA2年目を迎え、投資家の裾野がさらに広がった年でした。新NISAが引き続き人気を集めたのは「利益に対する課税がない=非課税」という、税金についての優遇措置があるということが大きな要因だと思います。
今回は来年に向けて新NISA以外にも、会社員や公務員という働き方をしている人が税金を賢く節税する方法を改めてご紹介します。特に令和7年度税制改正では基礎控除や給与所得控除が大きく見直されていますので、しっかりと押さえておきましょう。
会社員や公務員の税金はどうやって決まる?計算方法
会社員や公務員の方の所得税や住民税は、毎月の給与から天引きされています。この天引きされる金額は一体どのようにして決まっているのでしょうか?
所得税の計算の流れ
①給与所得の算出:給与収入から非課税の手当や給与所得控除を引いて、給与所得を算出します。
②課税所得の算出:給与所得から社会保険料や各種の所得控除を引いて、課税所得を算出します。
③所得税額の計算:課税所得に応じた税率を掛け、定められた控除額を差し引いて、最終的な所得税額が決まります。
給与所得控除は給与額に応じて変わり、給与所得控除額を控除した後に、各種の所得控除を行って所得税を算出するための課税所得が決まります。算出された課税所得の額に応じて、所得税率が変わります。
※1 令和7年分からは、基準所得金額(確定申告を要しない配当所得等を含めるなどした一定の所得金額)が3億3,000万円を超える場合で、その超える部分の金額の22.5%相当額が、その年分の通常の所得税及び復興特別所得税を上回るときは、その上回る部分の所得税額が加算されます。
※2 平成25年から令和19年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1パーセント)を併せて申告・納付することとなります。
会社員や公務員の方は年末調整で各種控除を行い、年間の所得税額を確定します。これにより、年間を通して支払った所得税と実際に支払うべき所得税との差額が調整されます。
節税につながる控除12種類
会社員や公務員にとって、節税のカギは各種控除をどれだけ有効に活用できるかにあります。令和7年度の税制改正では、基礎控除・給与所得控除・扶養控除などが大きく見直されました。そのため、まずは自分が利用できる控除の種類を確認しておくことが大切です。
また、控除の適用方法には 年末調整で自動的に反映されるものと、自分で確定申告をして手続きするものがあります。控除によって対応が異なるため、自分に当てはまる控除とその手続きを正しく理解しておきましょう。
【令和7年度税制改正の主なポイント】
・基礎控除額の引き上げ: 48万円 → 58万円(合計所得2350万円以下の場合)
・基礎控除の特例: 所得に応じて最大37万円を加算
・給与所得控除の最低保障額の引き上げ: 55万円 → 65万円
・特定親族特別控除の創設: 大学生年代(19-22歳)の子を持つ親への新たな控除
1.基礎控除【令和7年度改正の対象】:年末調整
基礎控除について、令和7年分から特例的な加算措置が実施され、合計所得金額に応じて段階的に控除額が引き上げられます。
・合計所得⾦額132万円以下:95万円
・合計所得⾦額132万円超336万円以下:88万円
・合計所得⾦額336万円超489万円以下:68万円
・合計所得⾦額489万円超655万円以下:63万円
・合計所得⾦額655万円超2,350万円以下:58万
ただし令和9年分以後は58万円(改正前:48万円)が基本
参照/国税庁
2.給与所得控除【令和7年度改正の対象】:会社員は自動適用
給与収入が190万円以下の場合、最低控除額が10万円引き上げられ、65万円になります。
なお給与収入が190万円以上の場合は改正前と同じで変更はありません。
3.特定親族特別控除【令和7年度改正で新設】:年末調整
令和7年度改正により新しく設けられた控除で、大学生世代の子どもを持つ家庭の教育費負担を軽減することを目的としています。
対象となるのは19歳以上23歳未満の親族で、合計所得金額が58万円超123万円以下の場合に適用されます。(子ども自身の給与収入が123万円超188万円以下)
4.扶養控除:年末調整
配偶者を除く16歳以上の親族を扶養している場合に利用できる控除です。「生計を一にしている」ことが条件であり、遠方に住んでいても仕送りなどで生活を共にしていると認められれば対象になります。
なお扶養親族の所得要件が変更されています。
改正前: 合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)
改正後: 合計所得金額58万円以下(給与収入123万円以下)
5.配偶者控除:年末調整
配偶者を扶養している場合に使える控除です。
なお令和7年度改正で配偶者の所得要件が緩和されました。
改正前: 合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)
改正後: 合計所得金額58万円以下(給与収入123万円以下)
この改正により、パートやアルバイト収入のある配偶者が従来よりも控除対象になりやすくなりました。
6.生命保険料控除:年末調整
生命保険に加入し保険料を支払っている場合は、年間の支払保険料に応じて生命保険料控除を受けられます。
生命保険料控除の対象は、3つの区分に分けられます。
新生命保険料控除(死亡保険など)
医療保険料控除(医療保険・がん保険など)
新個人年金保険料控除(個人年金保険)
死亡保険・医療保険・個人年金、それぞれの区分で最大4万円が控除(保険料8万円以上で4万円控除)され、3区分の合計で最大12万円の所得控除が利用できます。
7.iDeCo(個人型確定拠出年金):年末調整
老後資金づくりに有効な制度のひとつが iDeCo(個人型確定拠出年金)です。毎月一定額を積み立て、原則60歳以降に老後資金として受け取ることができます。
最大の特徴は、積み立てた金額の全額が所得控除の対象になることで、会社員の場合は退職金制度の有無によって異なりますが、一般的には毎月2万3,000円を上限に積み立てることができます。例えば年収500万円の人が30歳から65歳まで毎月2万3,000円を拠出し、扶養親族がいないとすると、35年間で約193万円の所得税・住民税が節税でき、1年あたりではおよそ5万~5.5万円の節税効果が見込めます。
さらに、2024年12月に掛金の上限額が拡大されました。これまで公務員など確定給付型年金制度(確定給付型企業年金、国家公務員共済組合、地方公務員共済組合、私学共済、厚生年金基金など)に加入している人は、iDeCoの上限が月1万2,000円でしたが、改正により月2万円まで拡大され、より多くの金額を老後資金に回せるようになりました。
これにより控除対象額も大きくなり、節税効果も従来よりも高まっています。例えば年収500万円で30歳から65歳まで拠出した場合、月1万2000円では節税額は約100万8000円ですが、月2万円では約168万円となり、単純比較で70万円近くの差が生じます。もちろん実際には昇給や扶養親族の有無などによって変動しますが、節税効果が大幅に高まることは間違いありません。
一方で、受け取り時の課税ルールについては2024年の改正で見直しがありました。これにより、退職金とiDeCoの受け取り時期が近い人は控除額が減るケースもあるため、受け取り方や時期を計画的に考えることがより重要になっています。
8.医療費控除:確定申告
1月1日から12月31日までの1年間に、自分や生計を共にする家族が支払った医療費が10万円を超えた場合、その超えた部分について医療費控除が受けられます。
※基準額は原則10万円ですが、総所得金額が200万円未満の人は所得の5%が基準になります。
計算式
医療費控除額 = 実際に支払った医療費合計 - 保険金などで補てんされた額 - 10万円
計算例
窓口で支払った医療費が20万円、医療保険で給付を5万円受け取った場合
20万円 - 5万円 - 10万円 = 5万円が医療費控除額となります。
対象となる費用
医療費控除の対象には、病院や薬局での支払いに加え、医薬品の購入費用、補聴器の購入費、医師の指示によるマッサージやはり治療なども含まれます。
9.セルフメディケーション税制:確定申告
セルフメディケーション税制は、医療費控除の特例として設けられた制度です。通常の医療費控除が病院や薬局での医療費を対象とするのに対し、この制度は特定の市販薬(スイッチOTC医薬品)を購入した費用を対象としています。
対象となるのは、生計を共にする家族のために1年間で1万2000円以上の対象医薬品を購入した場合で、さらに健康診断やがん検診、予防接種などの健康維持・増進の取り組みを受けていることが条件です。なお、医療費控除とセルフメディケーション税制は同じ年に併用することはできず、どちらか一方を選択して申告します。
10.地震保険料控除:年末調整
不動産や家財を対象に地震保険へ加入している場合、地震保険料控除を利用できます。年間の支払保険料が5万円以下なら全額、5万円を超える場合は一律5万円が控除額となります。
11.ふるさと納税:ワンストップ特例
ふるさと納税は、住民税の前払いにあたる仕組みであり、厳密には節税ではありません。ただし、寄附した自治体から食料品や地域の特産品などの返礼品を受け取れることから、実質2000円の自己負担で利用できる制度として人気があります。
なお、これまではふるさと納税ポータルサイトを経由すると、楽天ポイントやPayPayポイントなどの還元が受けられましたが、ポイント付与は2025年9月30日で終了しました。したがって、2025年10月以降は各ポータルサイトの利用ポイントの還元は受けられません。
利用の際の注意点
・寄附できる上限額は年収や家族構成によって決まり、上限を超えて寄附すると自己負担が2000円を超えるため注意が必要です。
・ワンストップ特例制度を利用すれば、確定申告をしなくても寄附金控除を受けられます(寄附先が5自治体以内で、かつ会社員など確定申告が不要な人が対象)。
・確定申告をする場合には、ふるさと納税の寄附金受領証明書を添付することで控除が受けられます。
・クレジットカード会社のカード利用金額に対するポイントは従来通り付与されます。
12.住宅ローン控除:初回のみ確定申告、2回目以降は年末調整
住宅の購入やリフォームで住宅ローンを利用した場合に利用できる制度で、税額控除として適用されます。所得控除のように課税所得を減らすのではなく、実際に支払う所得税額から直接差し引かれ、所得税の還付(払い戻し)を受けられます。
ただし、住宅を購入した年度によって制度内容が異なる点に注意が必要です。たとえば、2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅では、国の省エネ基準に適合していないと住宅ローン控除を受けられません。さらに、省エネ性能の水準によって、控除対象となる住宅ローン年末残高の上限(借入限度額)が変わります。
※2026年1月以降の取り扱いについては、2025年10月1日現在まだ発表されていません。
まとめ
会社員や公務員にとって節税の基本は、各種控除をどれだけ有効に活用できるかにあります。iDeCoや生命保険料控除は節税効果が特に大きく、おすすめできる方法です。
また、医療費の領収書や薬局のレシートも忘れずに保管しておきましょう。意外な支出が医療費控除の対象になる場合もあります。
控除を上手に活用すれば、納税額を抑えられ、結果として手取り収入を増やすことに繋がります。年末調整で手続きし忘れたものがあっても、確定申告を行えば控除を受けられるケースがあります。
会社員や公務員にとって、節税という言葉は少し難しく感じるかもしれませんが、身近な控除を活用するだけでも十分に効果があります。気軽に取り組んでみましょう。