50代のiDeCo運用「運用指図者」が注意すべき点をFPが解説
今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、毎月の掛金は拠出していない個人型確定拠出年金(iDeCo)の「運用指図者」になった場合の運用方法や運用方針について、50代女性からのご相談です。運用商品を何にするか、また利益が出ている場合はどのように対処すべきか、運用指図者として取るべき行動などについて詳しく解説します。
50代パート勤務女性からの相談
仕事を退職し、企業型DCをiDeCoに移しました。現在扶養内のパートのため毎月の拠出は行っておらず、運用指図者として運用しています。インデックスファンドに6割ほど移しましたが、今後の運用について迷っています。そのまま様子を見た方がいいのか、それとも利益が出た時に元本保証型に一旦移して利益確定し、株が下がったらまた買うのを繰り返すのが良いのでしょうか。毎月拠出して積み立てないと複利のメリットはないと聞きました。どう運用するのが良いのでしょうか?
iDeCoの基本と「加入者」と「運用指図者」の違いについて
まず、iDeCoについて基本的なことからおさらいしていきましょう。
iDeCoは老後資金を自分で積み立てるもので、運用商品を自分で選択して老後は年金か一時金で受け取ることができる年金制度です。このiDeCoには以下の3つの税制優遇があります。
【iDeCoの税制優遇】
1.掛金全額が所得控除の対象となる
2.運用益が非課税となる
3.受取時の税負担が軽減される
iDeCoの利用には「加入者」と「運用指図者」という2つの立場があります。
加入者:毎月一定額を積み立てることで資産を増やす立場
運用指図者:積み立てを行わず、既存の資産のみを運用する立場
今回の相談者は、退職後、毎月の掛金を拠出せず既に保有する資産のみを運用しているため、運用指図者としての運用となります。この場合も加入者と同じように運用商品を自分で選択する必要があります。そしてその運用成果次第で将来受け取る金額が変わってきます。
運用指図者としての注意点と手数料
運用指図者になっても加入者同様、様々な手数料の負担が必要です。
1.移換時の手数料
まず企業型DCからiDeCoへ資産を移す際、国民年金基金連合会に対して加入時・移換時の手数料として2829円がかかります。
2.口座管理手数料
iDeCo加入者は口座管理にかかる手数料として国民年金基金連合会に対して月額105円かかりますが、運用指図者はかかりません。ただし、事務委託先の金融機関に対して月額66円の手数料がかかります。
3.運営管理手数料
運営管理手数料は金融機関によって異なります。手数料が無料の金融機関もあれば、月額400円程度かかる金融機関もあります。
4.信託報酬(投資信託の手数料)
運用する投資信託商品には信託報酬という手数料もかかります。運用商品ごとに費用の額は異なりますが、インデックスファンドの方が一般的に信託報酬は低く、アクティブファンドは高くなる傾向があります。
上記のように運用指図者として積み立てを行わなくても、口座維持には費用がかかります。金融機関によってこの手数料が異なりますので、出来る限り手数料が低い金融機関に切り替えることを検討しましょう。ここで一番大切なのは金融機関選びです。
iDeCoの運用パターンと基本方針
iDeCoの運用方法には、インデックスファンドやアクティブファンド、元本確保型商品などいくつかの選択肢があります。以下に、それぞれの特徴を簡単にまとめました。
「インデックスファンド」
市場全体の動きに連動して資産を増やすことを目指す投資信託です。信託報酬が低く、コストを抑えながら長期的な成長を期待できます。株式や債券に投資する商品があり、特に株式ファンドであれば株価の変動に左右されやすいですが、高いリターンを期待できる場合もあります。債券ファンドであれば株式ファンドに比べて安定した運用が可能です。
「アクティブファンド」
運用のプロが個別銘柄を選定し、市場平均を上回るリターンを狙うファンドです。一般的にインデックスファンドより信託報酬は高めなので、長期間の保有はコスト負担が増える可能性があります。こちらもインデックスファンド同様、株式ファンドや債券ファンドがあります。また、株式や債券を組み合わせたバランスファンドというタイプもあります。
「元本確保型商品(定期預金や年金保険など)」
元本の安全性を重視した商品です。利回りは低いものの、元本が減るリスクがないため、安全志向の方に適しています。ただし、成長が見込みにくい点がデメリットです。
運用指図者としての運用方針に関するアドバイス
相談者は、インデックスファンドに資産の6割程度を移行されたということですが、おそらく株式タイプのインデックスファンドのことだと思われます。これはFP私個人としては妥当な選択と考えます。残りの4割については、リスクを抑えた、もしくはリスクを取らない安定運用を目指して、債券ファンドや元本確保型商品に振り分けることをおすすめします。
50代という年齢を考慮すると、あまりリスクは取らずに受け取る年齢(60歳以降)が近づくにつれて段階的にリスクを減らすことを検討してください。具体的には、60歳手前で株式ファンドを5割、4割、3割と減らしていき、逆に債券ファンドや元本確保型商品の割合を増やしていくと良いでしょう。
また、運用指図者から加入者へ変更することも検討してみてください。2022年の制度改正により、iDeCoの加入可能年齢が65歳未満まで拡大されました。そして第3号被保険者(専業主婦やパート勤務で一定の収入以下の方)もiDeCoに加入できるようになりました。
相談者が現在パート勤務で扶養内収入であっても、再度「加入者」としてiDeCoへの掛金拠出を再開することも可能です。所得税の節税効果は期待できませんが、将来受け取る年金を非課税で運用できるメリットは享受できます。積立金額も月々5000円から設定できるため、無理のない範囲で資産形成を継続することができるでしょう。
利益が出た際の対応と定期的な資産配分の見直し(リバランス)
今後利益が出た場合、利益確定すべきかとも悩まれていますが、大きな利益が出た際には一部を債券ファンドや元本確保型商品に移すことは有効です。しかし、利益を確定させて再投資のタイミングを待つことはとても難しく、また頻繁に売買を行うと手数料もかさむため、年に1回程度の見直しに留めておきましょう。
参考まで簡単なリバランスの方法をご紹介します。
現在の資産配分を株式ファンド:債券ファンド(もしくは元本確保型商品)=6:4で保有されているとします。1年後この割合が7:3になっていれば、株式ファンドを1割売却して、その売却した1割のものを安定運用の債券ファンドに移すという方法です。これを誕生日の月など決めた月に事務的に行います。マーケットの動向を気にしすぎると売買のタイミングを逸してしまうので、あらかじめ時期を決めて行うと良いでしょう。
また、積み立てを行わないので複利効果のメリットがないと考えておられますが、そんなことはありません。今保有されている資産を株式ファンドで運用することで、そこから得た利益はまた株式への投資に回っているので十分複利の効果を享受できています。
いずれにせよ大きなリターンを短期間で狙うよりも、長期的な視点での資産の成長を期待しましょう。
まとめ
今回は運用指図者としての注意点や運用方針の考え方についてFP目線でお答えしました。最後にもう一度運用指図者として資産を有効に運用するためのポイントをまとめましたので参考にしてください。
・手数料に注意して金融機関を選ぶ
運用指図者であっても管理手数料は発生します。可能であれば手数料が低い金融機関への切り替えを検討し、コストを抑えましょう。
・運用方針の見直しとリバランス
年齢に応じてリスクを軽減させていき、利益が出た際にはリスク分散を意識して一部を元本確保型商品に移すなど、年に一度のリバランスを行うことで資産の安定性を確保しましょう。
・加入者への変更も視野に入れる
収入に余裕がある場合は、再度加入者として掛金を拠出し非課税での運用を再開することで、老後資金のさらなる積み増しが可能です。
確定拠出年金は豊かな老後を送るために有効な手段です。自身のリスク許容度やライフプランに合わせた柔軟な運用方針を持ち、定期的な見直しを行いながら資産を着実に育てていきましょう。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。