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4月から65歳定年が義務化!?退職と継続雇用どちらを選ぶべき?

ふやす 白浜 仁子

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60歳目前になると、退職金の受け取り方はどうするか、年金は繰り上げて早めにもらうか、雇用保険から給付金がもらえるので給与が下がっても働いた方が良いかなど、今後の働き方やお金のことを考えることが何かと多くなります。近年は労働人口の減少に伴い、高齢者の雇用を確保するため、定年延長や継続雇用制度の導入など60代以降も働きやすい環境を整備しようという動きもあります。

今年2025年に改正される「高年齢者雇用安定法」では、対象者を一部限定できる経過措置があった「65歳までの継続雇用制度」が完全義務化されます。今回は改正の内容を確認しながら将来のライフプランやワークプランにどのように向き合っていくと良いか考えていきましょう。

定年退職の法律上の定義、定年年齢は何歳?

定年退職と聞くと以前は60歳でしたが、今は65歳が定年年齢という人も少しずつ増えてきました。高年齢者雇用安定法では定年について以下のように定めてあります。

=定年を定める場合の年齢=
(第八条)事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。ただし、当該事業主が雇用する労働者のうち、高年齢者が従事することが困難であると認められる業務として厚生労働省令で定める業務に従事している労働者については、この限りでない。

つまり法律上、定年退職は「60歳以上」と定められています。厚生労働省の「就労条件総合調査結果の概況」(令和4年)によると、定年制を設けている企業の96.9%が一律の定年制を定めており、そのうち定年年齢を60歳とする企業は72.3%、65歳とする企業は21.1%です。

社会の流れや法改正などにより定年退職が引き上げられている印象がありますが、現状では依然として「60歳定年退職」とする会社が多いようです。

ただし、高年齢者雇用安定法では、定年退職制度の定年退職年齢を65歳未満にしている会社は以下のいずれかの「高年齢者雇用確保措置」を講じなければならないと定めている点は押さえておきたいところです。

企業は上記3つのいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければならないとされているため、①「定年制の廃止」と②「65歳までの定年の引き上げ」を講じた場合は、実質的に定年退職が引き上げられて雇用延長となり、60歳以降も働けることになります。

ただし③「希望者全員に対する65歳までの継続雇用制度の導入」については、「定年退職は60歳だけど、それ以降も再雇用や契約形態の変更で65歳までは働ける」という仕組みになるため、会社は必ずしも定年年齢を引き上げなくても良いのです。

なお2021年の高年齢者雇用安定法の改正では、定年を70歳に引き上げる、または70歳まで働ける環境を整えることが「努力義務」とされました。働きたい人がより長く働けるよう整備する方向です。

【2025年4月】高年齢者雇用安定法の改正ポイント 

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ここまで、60歳以降の働き方や企業側の従業員の雇用について定めた高年齢者雇用安定法について紹介してきました。現行の法律では、60歳以降もそれまでと同様の雇用形態というわけにはいかないかもしれませんが、高年齢者雇用確保措置によって少なくとも65歳までは働くことができます。

高年齢者雇用確保措置における経過措置

この高年齢者雇用確保措置は現在、経過措置が取られています。例えば男性の場合、1961年(昭和36年)4月2日以降に生まれた人は、老齢年金を65歳から受給することになります。しかし、それ以前に生まれた人は誕生日等によって「特別支給の老齢厚生年金」を60代前半から受給できる場合があります。この特別支給の老齢厚生年金を受給できる人に対しては継続雇用の基準を別途定めることができます。これが経過措置の中身です。

かみ砕いて説明すると、「基本は希望する人を65歳まで雇用します。ただし、〇さんの場合64歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できるため64歳以降は一定の基準を満たしていれば65歳まで雇用します」という条件付きになるのです。

2025年4月の高年齢者雇用安定法改正によって、この経過措置が2025年3月末に終了します。この点が、今回の改正のポイントとなります。

この継続雇用における経過措置が2025年3月31日に終了するため、2025年4月1日以降は、企業側は希望する人全員に対して65歳まで継続雇用することが義務化されます。つまり2025年4月1日以降は「65歳までの雇用確保の完全義務化」ということになります。

高年齢雇用継続給付も見直し

また2025年4月1日より「高年齢雇用継続給付」という給付金の内容も見直されます。この制度は60歳以降も継続雇用される労働者の賃金が大きく下落した場合に、補填するという制度です。

60歳以降の賃金が60歳時点の賃金に比べ75%未満になった場合に対象となります。賃金が61%未満に下落した場合の支給率が最大となり、賃金の15%が給付されます。ただし、この最大支給率が2025年4月1日以降は10%に引き下げられます。高年齢者雇用確保措置が強化される分、高年齢雇用継続給付の役割を小さくしようという方向です。

退職と継続雇用のメリット・デメリットを比較

以上のようなことから、今後は65歳または70歳が退職の一つの節目となりそうです。人生100年時代において、長寿化が進むとその分の生活資金も必要となります。何より現在の60代は若々しく元気な方も多く、自分や家族、そして社会や経済、地域への貢献などそれぞれの目的で60歳以降も働き続ける人が増えていくでしょう。

ただし、必ずしも働き続けることが良くて早くリタイアすることが悪いというわけではありません。最近はFIRE(Financial Independence Retire Early)といって、経済的に自立し早期退職をするという価値観を持つ人も増えていることは分かりやすい一例です。

以下に、「退職を優先に考える場合」と「雇用継続を優先に考える場合」の経済的なメリットとデメリットをまとめました。 

筆者作成

少しでも早く退職することを選ぶと毎月の給与がなくなるため、不安に感じる人も多いでしょう。しかし、一括で受け取った退職金を早めに運用できることは大きなメリットです。退職するタイミングや金融資産の状況にもよりますが、60歳以降は年金を繰り上げ受給するという選択肢もあるでしょう。

一方で可能な限り働き続ける場合、安定した収入が見込め、長く勤務すればするほど退職金の額が増えることもあるでしょう。ただし、その分負担する税額が増えたり、年金が一部または全額支給停止になったりと、税や社会保険面でデメリットを感じることがあるかもしれません。

60歳の退職金を5年間運用したケースを試算

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退職か継続雇用かを判断する際に、お金の現在価値や将来価値を考えることはとても大切です。「5年長く働くと退職金が300万円増える」という前提であっても、必ずしも5年働く方が有利とは限りません。以下のケースで考えてみましょう。

【ケース1】60歳に退職した場合:退職金2000万円
【ケース2】65歳に退職した場合:退職金2300万円

【ケース1】
当然、ケース1の方が早めにお金を運用することができます。全額を一定の利回りで運用した場合、以下のようになります。

もし3%程度で運用できれば5年後の65歳で退職した場合に受け取ることができる退職金とほぼ同額となり、5%で運用できればそれを上回ります。

ただし、退職金全額を株式や投資信託などで運用するのはリスクが高いと感じる人も多いでしょう。よって、2000万円の半分を安全資産として残りの半分を運用に回した場合はどうなるでしょうか?

5%で運用できれば、5年後の見込み退職金と同額程度が期待できますが、それよりも利回りが低いと大きく下回ってしまいます。

【ケース2】
また、当然ケース2は5年間給与があるため引き続きコツコツ積み立てを行うこともできそうです。例えば毎月2.5万円、年間にすると30万円を積み立て投資に回したとしてみていきましょう。

この金額はケース1の60歳で退職した場合は期待できないものになります。このように退職金や給与の一部をどのように運用するか、どれだけリスクを取れるか?こういった視点から考えると60歳以降の働き方や退職のタイミングをどうしたいのか見えてくるものもありそうです。

まとめ

今回の要点をまとめます。

今回は経済的な視点を中心に紹介しましたが、実際はこれからの時間をどのように過ごしたいか、リタイア後にやりたいことなど、生きていく上での価値観が最も重要です。

お金が少なくても、のんびり日々過ごすことで満足度が高まる人もいるでしょう。一方、頻繁に旅行を楽しみたい、などである程度お金が必要なら働けるうちは働くという考え方になるかもしれません。自分らしい楽しいセカンドライフを想像しながら退職と雇用継続、どちらを優先すべきか考えると良さそうです。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします

定年退職に関するQ&A

Q:定年延長など60歳以降の雇用が確保されると若手社員への影響は何が考えられますか?

A:上司や先輩社員で会社に残る人が増えるため、組織の新陳代謝が低下し、若手社員の昇進などに影響が出る可能性があります。

Q:勤務している会社の役職定年が55歳です。その後60歳まで勤務して退職金を受け取る場合、役職定年により退職金が減額することはありますか?

A:50代半ばで役職定年を設け、その後は給与が下がるという企業は多いですが、退職金は一般に勤続年数をもとに計算するため、それ自体が退職金へ影響することは限定的です。