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スーパーが牽引する第四次ピザブームの背景、今後の新商品にも期待

経済とお金のはなし 工藤崇

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ピザは普段の食事と比べると少し特別感がある食べ物です。値段の高さは難点でしたが、ピザの持つ高級感はそのままに「手が届きそうな、ちょっとした贅沢品」となれば、ピザの消費はさらに増加することでしょう。2020年前後から盛り上がった第四次ピザブームはインフレと嗜好品の多様化を受けた消費者のニーズをうまく拾ったことが背景です。詳しく分析してみましょう。

第四次ピザブーム

日経新聞によると、日本に初めてピザが持ち込まれたのは1944年です。それから様々な要因で3回のブームが起きます。

そして第四次ピザブームは2020年頃が起点とみられています。コロナ禍で家庭での食事の機会が増え、配達員と非接触で受け取れる「置きピザ」の方針も受け入れられました。2020年にピザ市場は、前年比21%増と急伸しています。

ここにスーパー各社が攻勢をかけます。宅配ピザ業者だとMサイズで1500円から2500円のところ、スーパーやコンビニにおけるピザは数百円台が主流です。宅配ピザとスーパーのピザは、値段のほかに何が異なるのでしょうか。

品質の違い 

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スーパーのピザをよく見ると、宅配ピザより見劣りすることは間違いありません。ただ相対評価ではなく「数百円でどこまで期待できるか」と考えた場合は十分に満足できるものが多いです。また定期的に商品が変わることで、新発売の訴求効果も合わせて「新商品が出ているな、手頃な値段なので買ってみるか」という消費者判断を誘引します。

テレビ東京など経済寄りのメディアで定期的に放映されるスーパー特集を見ると、担当者の涙ぐましい努力の結果、私たちはスーパーの格安ピザを手に入れていることが分かります。厳格な製造コスト維持はもちろん、セントラルキッチンなどの製造集約化によって低価格を実現しています。

個別注文を捨てる判断

宅配ピザは注文後、自宅への配送か店舗への訪問を前提とします。当然ながら価格には配達員の人件費も高い割合を占めます。スーパーはピザコーナーに並ぶことによって、多数の顧客の目に触れます。スーパーには家族層が多く来客することも、ピザにとっては追い風です。

スーパーに対抗する宅配ピザ店の代表格「ピザハット」は、持ち帰りに特化した新型店を増やしています。一人用のセットや、Mサイズのピザなど個食向けの商品ラインナップも拡充しています。

一般的に宅配ピザは、人件費や宣伝費など原価以外の面で大きな負担があります。注文から配達までの時間を短縮化するために、製造部隊も配達部隊も多めに手配しておくことが不可欠です。ましてや夜から深夜にかけて割高賃金となる人件費は、コストパフォーマンスの追及にとって高い壁となります。スーパーは個別注文ではないため、これらのコストに配慮する必要はありません。

スーパーの成熟期と今後考えられる横展開 

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では、第四次ピザブームは今後も続くのでしょうか。メディアで取り上げられている通り、スーパー勢力と挽回を期す宅配ピザ業者でのせめぎ合いは続くことでしょう。

一方で、スーパーは「ピザに対してそれほどこだわりが無い」と読むこともできます。スーパーにとっては、宅配ピザ店との価格競争になるより、ピザのように「現在価格レートが高めに設定されているフードメニュー(もしくは店舗に取りに行くことが自然な商品)」に切り替えるタイミングもあるのではないでしょうか。

例えば、中華料理です。中華型ファミリーレストランがあり、宅配ビジネスも受け入れられています。注目分野ですが、スーパーの総菜コーナーに既に商品があることを考えると、新鮮味に欠けるでしょうか。ラーメンや蕎麦も同様です。

そう考えると、数年前にセブンイレブンが開始したコーヒーは着眼点が良いといえますし、販促強化しているドーナツも同様です。ハンバーグや天婦羅は今後横展開が期待できるかもしれません。消費者が「高くても仕方が無い」と考える商品を、ピザで培ったノウハウを活用して、多くの人に絶対評価される商品群を提供するという展開です。

スーパー復権のきっかけとなるか 

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第四次ピザブームは、スーパーを救うきっかけになるかもしれません。中でもスーパーの雄であるイトーヨーカドーは業績不振が続いており、2024年2月期は259億6300万円の赤字となっています。北海道や東北などの東日本を中心に、店舗撤退の大ナタも振るわれ始めています。

その流れに一筋の光を射したのが今回の第四次ピザブームです。今回のピザに代表される取り組み、そして他商品への横展開が続けば、スーパー復権のきっかけにも繋がるのではないでしょうか。

今後数年間、日本はインフレが進行する可能性が高いです。繰り返しになりますが「1円でも安い商品を」といった相対評価ではなく、「この品質でこの価格帯は素晴らしい」という絶対評価が進むことによって、今後新たな市場として認められることでしょう。国や日銀は、インフレに追従した賃金上昇を掲げており、「今年の新入社員の初任給は〇〇円アップ」という報道も増えてきました。

絶対評価の価格面だけではなく、ピザのように「給料日のような特別な日だから食べよう」といった特別感も味わうことのできる食材ならば、ピザの後を継ぐものとして期待できそうです。それは、今回のピザブームがきっかけとなった「スーパー復権」を、さらに現実のものとする入口と言えるかもしれません。