ネット通販の荷物が届かない!?他人事ではない「2024年問題」とは
監修・ライター
経済産業省が2022年8月に発表した、電子商取引に関する市場調査のレポートによると、電子商取引は2013年の調査開始時より順調に増え続けており、その中でも特に物販系のBtoC取引は圧倒的なシェアと伸び率を見せています。
筆者も新型コロナウイルスの第1波以降外出をできるだけ自粛した結果、現在では購入する食材や食料品のすべてを、インターネットを使ったEコマースで完結させています。
このように、デジタル化社会の広がりとともに私たちの生活に欠かすことができない存在となったネット通販ですが、2024年以降は、購入した荷物が現在のようには届かなくなる可能性が出てきました。
そこで本日は、私たちの生活に大きな影響を及ぼす2024年問題について解説していきます。
2024年問題とは
働き方改革関連法の成立により、2019年に日本で初めて時間外労働の上限規制が定められることになりました。時間外労働の上限は原則として月45時間(年360時間)となり、特別な場合でも年間720時間以内、月45時間を超えることができるのは年間6カ月までと定められたのです。
ただし、本法案成立後も、自動車運転の業務に関しては一定の猶予期間が設けられていました。しかし、2024年4月1日からは自動車運転の業務に対しても本法律が適用されることになり、これまで通りに業務が行えなくなります。
こうしたトラックドライバーをはじめとする、自動車運転業務者における時間外労働の上限規制から発生する諸問題を、2024年問題といいます。
トラックドライバーの過酷な労働環境
国土交通省が発表した「自動車運送事業の働き方改革」によると、運送業で働くトラックドライバーは、全業種平均と比べて労働時間が1~2割多く、時間外労働も2~3割長いにも関わらず、年間賃金は1~3割低い過酷な状況での労働を強いられています。
引用元:国土交通省作成「自動車運送事業の働き方改革」
引用元:国土交通省作成「自動車運送事業の働き方改革」
引用元:国土交通省作成「自動車運送事業の働き方改革」
こうした過酷な労働環境が事故や過労死を引き起こす大きな要因となっており、それを改善する目的で今回の労働時間の規制が導入されることとなったわけです。
2024年問題で起こり得るトラブルや問題
2024年問題の影響は、民間シンクタンクのNX総合研究所の試算によると、1年の拘束時間を3300時間とした場合、2019年度で14.3%、荷動きが減少した20年度でも12.7%輸送能力が不足することになると言われています。
2024年4月の改正後は1年の拘束時間が原則3300時間以内になることから、現状と同じ量の荷物を運ぼうとするならば、運送業者の現在のキャパシティーでは補いきれません。
ではその結果、どのようなトラブルや問題が起こることが想定されるのでしょうか?
ドライバーの人手不足が深刻に
トラックドライバー1人あたりの労働時間が減れば、ドライバー1人が運べる荷物の量は減ります。また、これまでは1人で運んでいた長距離区間も、今後は2人で運ぶことになると言われています。
このような状況に反し、ネット通販の取引は今後さらに増えて行くことが予想されているため、現在でも深刻な人手不足を抱えている運送業界が、2024年以降はさらに厳しい人手不足に悩むことになると思われます。
荷物の運賃が大幅に値上げされる
トラックドライバーの深刻な人手不足の結果、運送会社各社の間でドライバーの奪い合いが続き、また業界内で組織再編を目的としたM&Aが活発に行われることが予想されます。
ドライバー確保のため、賃金をはじめとする各種待遇の改善を行ったコストは最終的に荷物の運賃に転嫁されるため、ネット通販で利用者が負担する送料は大幅に増える可能性があります。
利用者にとって利便性の高いサービスが受けられなくなる
現時点でネット通販は、配達日や配達時間の指定、再配達の依頼など大変便利なサービスを受けられます。しかし、こういったサービスはトラックドライバーにかなりの負担をかけているため、2024年以降は縮小・廃止、もしくは別料金となることが考えられます。
法規制が厳しくなればさらなるコストアップ
運送業者は業務の特質上、どうしても駐車違反と背中合わせで毎日の配達を行わざるを得ません。現在はグレーゾーンとなっている運送業者の駐車違反問題に対し、今後法規制などが厳しくなれば、配送のたびにコインパーキングを利用するか荷役場所を各地に設置する必要が出てきます。
こうした状況が起これば、荷物の配達コストはさらに上がることが予想されます。
タクシー業界にも大きな影響が起こる
2024年問題の影響は、トラックドライバーだけに限定されるものではありません。自動車運転業務はタクシーやバスの運転手も含まれるため、2024年4月から労働規制が厳しくなるのは彼らも同様です。
タクシー業界もトラック業界と同様に人手不足が長年続いており、またドライバーの高齢化も年々深刻になっています。このような状況の中、昨今の新型コロナウイルスの影響により、高齢化したドライバーの多くは職場復帰を果たしておらず、街中を走るタクシーの数は以前より明らかに減っています。
タクシードライバーの労働環境を改善し、働きやすい環境を作ることはタクシーの安全性を高めるためにも必要なことではありますが、2024年4月以降はさらに人手不足の影響が大きくなることから、タクシー台数の減少やタクシー料金の値上げが行われる可能性は高くなると言えるでしょう。
2024年問題の解決に向けた取り組み
最後に、2024年問題の解決に向けた取り組みについて紹介します。こうした取り組みは、運送業者側と荷主側の双方で行われています。
運送業者側の2024年問題解決に向けた取り組み
2024年4月以降は長距離の単独運送が困難になる可能性が高いため、運送業者の一部では東京と大阪の中間地点にあたる浜松で荷物の受け渡しを行う方法で、長距離運搬を開始しています。
また、このような荷物の受け渡しを行う場所を確保できない場合には、荷物を積み替えるための倉庫を用意し、そこで荷物の受け渡しを行い、法定労働時間内の勤務で荷物を運搬するための工夫を開始しているようです。
荷主側の2024年問題解決に向けた取り組み
一方荷主側でも、2024年問題解決に向けた取り組みが実験的に行われています。日用品などを扱う通販サイト「LOHACO」では、毎月特定の日に限り、標準より遅いお届け日を指定した利用者にポイントを付与するサービスの実証実験が行われていました。利用者が3~7日後の配達日を選ぶことにより、急ぎではない荷物を分散し、運送業者の負担を軽減することが狙いです。
その結果、納品は遅くなるもののポイントの付与率が高くなるため、多くの人が遅めの配達日を積極的に選択していたことが分かりました。
利用者側の協力も必要
運送業者や荷主だけが2024年問題の解決に取り組むだけでは、すべてを解決することは難しいでしょう。やはり、利用者である私たちが、運送業者にできるだけ負荷のかからないように配慮することも大切です。
再配達は、運送業者に大きな負担を与え、労働時間の長期化や時間当たりの賃金を低下させてしまいかねません。玄関や宅配ボックスへの「置き配」やスーパーなどに配置されている「宅配ロッカー」をできるだけ積極的に利用したり、可能な範囲でまとめてオーダーするなど、ドライバーの負担軽減に協力しながら現状のサービスが維持できるように協力することが大切でしょう。
運送業者と荷主と利用者の三者が協力し、お互いに配慮しながら荷物の受け渡しを行えば、2024年以降も現在の素晴らしいサービスを維持できる可能性は高くなるはずです。