お金

亡くなった家族の未支給年金は確定申告が必要?受取後の手続きは

FPにききたいお金のこと 中村 賢司

【画像出典元】「stock.adobe.com/Andrey Popov」

ご家族が亡くなると様々な手続きが必要になります。その一つが、年金に関する手続きです。特に亡くなった方が年金を受給されていた場合は、未払い分の年金が遺族に支払われることがあります。この未払い分の年金は、相続ではなく遺族の「一時所得」として扱われます。

今回の「FPに聞きたいお金のこと」は、50代のAさんから、亡くなられたお父様の年金の未払い分を受け取った際の、確定申告の必要性や手続きについてご質問をいただきました。確定申告の要否や手続きについて解説していきます。

50代女性Aさんからの相談内容

父が他界した際に国から振り込まれた父の厚生年金に関する質問です。年金事務所に届け出た際、後払いの年金が私の口座に振り込まれてきました。それが相続でなく、私の収入としてみなされるようです。妹が1人いるので、妹とは半分の額を渡す約束をしています。振込額を確定申告する必要があるのか?それとも、半分の額で確定申告出来るのか?翌年の住民税等にも影響するので、どのような手続きを取ったら良いか教えてください。

厚生年金の「未支給年金」とは

お父様が他界された際に振り込まれた厚生年金の後払い金は、「未支給年金」と呼ばれるものです。この未支給年金は、亡くなった方が生前に受け取る権利があったものの、まだ受け取っていなかった年金のことです。この未支給年金は遺族が請求できます。

未支給年金の対象となる期間は? 

【画像出典元】「stock.adobe.com/ktktmik」

老齢年金は年6回、原則として偶数月(2月、4月、6月、8月、10月、12月)の15日に支給されます。支給対象(金額)は、前月と前々月の2カ月分です。また、15日が土日・祝日の場合はその直前の平日に支給されます。そのため亡くなった時期により受け取れる未支給年金額は異なります。

①6月5日(偶数月の前半)に亡くなった場合
6月15日に支給される予定だった4月と5月、亡くなった6月分の3カ月分の未支給年金が発生
②6月20日(偶数月の後半)に亡くなった場合
6月15日に4月と5月分は受け取り済み。亡くなった6月分の1カ月分のみ未支給年金が発生
③7月5日(奇数月の前半に亡くなった場合)
8月15日に受け取る予定だった6月と7月の2カ月分の未支給年金が発生
④7月20日(奇数月の後半に亡くなった場合)
8月15日に受け取る予定だった6月と7月の2カ月分の未支給年金が発生

年金は受給権者が亡くなった月の分まで支給されます。偶数月に亡くなった場合は3カ月か1カ月、奇数月に亡くなった場合は月の前半・後半に関わらず2カ月分の未支給年金が発生します。

未支給年金を請求できる条件・対象者

亡くなった方の未支給年金を請求できるのは、亡くなった方と生計を同じくしていた以下の親族たちです。数字は順位を表しています。

未支給年金を受け取れる順位は1から7までの順になっており、先順位者がいる場合には後順位者は請求できません。

またAさんのように同順位者が2人以上いる場合、そのうちの1人が行った未支給年金の請求は、同順位の全員のために行ったものとしてみなされます。

未支給年金は所得?それとも相続?

Aさんが気になっている税金上の取り扱いですが、未支給年金は相続の対象ではなく「一時所得」に該当し課税される所得となります。確定申告が必要かどうかは、基本的な条件として、給与所得や退職所得以外の総所得が一時所得を含めて年間20万円を超えているかどうかで判断されます。

今回のケースでは受け取った未支給年金の全額がAさんの一時所得になり、基本的には確定申告が必要です。なお確定申告は姉妹で別々ではなく、Aさんお一人で行います。ただし、以下の条件に該当するケースではAさんの確定申告は不要です。

『Aさんが給与所得者で給与以外の所得が未支給年金の一時所得のみで、未支給年金の額面が90万円以下である』

課税対象となる一時所得の金額は、下記の計算式で算出されます。

総収入から経費と50万円の特別控除額を引き算し、引き算して算出した金額に1/2をかけて算出します。給与以外の一時所得が90万円であれば、仮に経費が0円だとしても「(90万円-50万円)×1/2=20万円」となり、確定申告が不要な所得金額内に収まります。そのため給与以外の一時所得が90万円以下であれば所得税の確定申告の必要はありません。

住民税は申告が必要なので要注意

【画像出典元】「stock.adobe.com/umaruchan4678」

所得税には一時所得に対する特例があるため、給与所得者では副業や一時所得などの合計金額が20万円以下であれば確定申告は不要です。一方、住民税には所得税に対する特例のような制度がありません。

そのため1円以上の所得があれば、市町村の役場で住民税のみの申告が必要です。なお住民税を計算するための総所得金額に加算する一時所得の金額は2分の1の額です。なお申告方法の詳細はお住まいの自治体にお問い合わせください。

未支給年金の分割は贈与税の対象?

受け取った未支給年金を妹さんと分割予定とのことですので、分割するのは上記の住民税の申告が終わり、最終的な手取りの金額が確定したタイミングが良さそうです。

未支給年金は既述のとおり相続財産ではなく所得になるため、妹さんにお渡しになる年金は贈与税の対象です。ただし贈与税には基礎控除の枠が110万円分あります。妹さんが未支給年金以外の贈与を受けていなければ、贈与税を納税するというケースは考えにくいと思います。

まとめ

家族が亡くなると様々な事務手続きが発生します。今回の未支給年金もその一つです。受け取る年金の金額にもよりますが、相続財産ではなく一時所得になるため確定申告が必要なこともあります。ただし一時所得を算出する際は50万円の特例もあり、もし課税されることになっても、それほど大きな金額にはならないでしょう。

その他の注意点としては住民税です。確定申告済みであれば問題はありませんが、確定申告が不要な場合は他の所得との関係もありますので、お住まいになっている自治体にご相談されることをおすすめします。