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名門校が定員割れ!?「寝屋川ショック」に見る高校無償化の功罪は

経済とお金のはなし 織瀬 ゆり

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全ての子どもに平等な学びの場を提供するため、全国で広がりつつある「高校授業料の無償化」政策。しかし、先進的な取り組みで知られる大阪では「寝屋川ショック」と呼ばれる現象が話題になっていることをご存じでしょうか。教育格差の解消や家庭の負担軽減が期待されたはずの無償化政策ですが、名門校までもが定員割れを起こすという予想外の事態が起きているのです。

この記事では、この現象から見えてくる高校無償化の効果と課題、これからの教育政策に必要な視点についてまとめてみました。

名門校で定員割れ、「寝屋川ショック」とは

大阪府寝屋川市では今、「寝屋川ショック」と呼ばれる驚くべき現象が起きています。大阪府は公立・私立問わず高校の授業料を無料にする政策を先駆けて導入しましたが、これまで人気のあった公立の名門高校までもが定員を満たせなくなっているのです。このことは教育関係者に大きな衝撃を与えています。

本来、授業料負担がなくなれば経済的な制約から解放され、より多くの生徒が希望する高校へ進学できると期待されていました。しかし実際には、無償化後の学校選択には異変が生じています。長年「名門校」として地域に根付いてきた公立高校ですら生徒確保に苦戦するという現実は、教育政策の複雑さを改めて浮き彫りにしていると言えるでしょう。

高校無償化がもたらした3つの効果

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高校無償化政策には、以下のような効果があります。

教育格差の解消

特に経済的に恵まれない家庭の子どもたちにとって、無償化は大きな希望であることは間違いありません。経済的理由で高校進学を諦めざるを得なかった生徒の数は確実に減少し、家庭の収入に関わらず学びの場が保障されることで、家庭の経済状況に関わらず平等にチャンスが与えられるようになりました。社会的格差が教育機会の不平等につながるという負の連鎖を断ち切る大きな一歩となります。

家庭の教育費負担軽減

授業料が無償化となることで、各家庭に経済的なゆとりが生まれ、浮いた費用を他の教育費用に回せるようになります。また、教育にかかる費用の心配が減ることで、保護者の精神的な負担も軽減されるでしょう。特に複数の子どもがいる家庭では、その効果はより大きなものとなっています。

社会全体の教育水準向上

高校進学率の上昇は、長期的には社会全体の教育水準の向上に繋がります。高校教育を受けた若者が増えることで、将来的な雇用機会の拡大や経済発展、社会の安定にもプラスの効果をもたらすでしょう。教育への投資は、社会全体への投資でもあるのです。

高校無償化が進む中で見えてきた3つの課題

高校無償化には期待される効果がある一方で、以下の課題もあります。

公立から私立への生徒流出

これまで経済的理由から公立を選んでいた層が、授業料無償化によって私立高校に流れる現象が顕著になっています。特に特色ある教育プログラムや充実した施設設備を持つ私立高校への生徒流出により、一部の公立高校では「寝屋川ショック」のような定員割れが生じています。

学校選択の多様化への対応不足

現代の生徒や保護者は、学校選択において授業料以外の要素をより重視するようになっています。通学の利便性、特色ある教育内容、ICT環境、進路実績など、多様化するニーズに対応できていない学校は、たとえ「名門」というブランドを持っていても、生徒を引き付ける力を失いつつあります。

行政の財源確保問題

高校無償化は理念としては素晴らしいものの、自治体や国の財政に大きな負担をかけていることも事実です。少子化が進む中でも継続的に予算を確保し続ける必要があり、限られた教育予算の中での資源配分の最適化が求められています。長期的に持続可能な形で無償化政策を維持していくための財政的基盤の確立が急務となっています。

教育改革にこれから必要な「質」と「量」の両立 

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「寝屋川ショック」が示唆しているのは、教育の無償化は単なる経済的支援に留まらず、教育の質や内容、そして生徒や保護者の多様なニーズに応える総合的な教育改革の一環として位置づける必要があるということです。

経済的な壁を取り除くことに加えて、各学校が独自の教育の質向上に取り組み、多様な学びのスタイルを提供することが求められています。また、地域社会や産業界との連携を強化し、生徒の将来を見据えた教育環境の整備も欠かせません。

無償化という「量」の拡大と、教育内容という「質」の向上を両輪として進めること。つまり、全ての子どもたちが自分に合った教育を選べる環境づくりこそが、これからの教育政策に求められる視点ではないでしょうか。「寝屋川ショック」は、私たちに教育の本質を問い直す貴重な機会を提供していると私は考えます。