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ここ数年、大阪や東京で話題の「間借りカレー」をご存知ですか?既存の飲食店の空き時間を利用してカレーを提供する新しい営業スタイルのことで、最近は福岡でも増えてきています。
福岡市南区大橋にあるカレー店マサラキッチンで働く松岡美和さんは、月に一度お店を”間借り”してオリジナルのスパイスカレーを提供するイベント「みわCurry」を開催しています。毎回欠かさず食べにくるお客さんもいるほど美味しいカレーを作る松岡さんですが、もともとは食と関係のない仕事をしていました。未経験から飲食業界に進んだきっかけや間借りスタイルのメリット、仕事への考え方などを伺いました。
添乗員からカレー屋さんへ、まったく違うジャンルへの転身
もともと旅行業界で20年ほど働いていた松岡さん。添乗員として国内外をあちこち飛び回る生活をしていましたが、ふと老後を考えたときに「自分のお店があれば、好きなことをしながら元気な限り働き続けられる。そういう人生を送りたい」と考えるようになりました。
そんなとき1冊の本と出合います。偶然手にとったスパイスカレーのレシピ本を読んで試しに作ってみたら、本当に美味しいカレーができて感動。「カレーを追究したい!」そう決心し、45歳で飲食業界へ転職しました。
「さまざまな仕事に携わってきましたが、添乗員時代に世界の食を楽しんだことがカレー作りに活かせています。経理や事務など、今まで経験したすべてのことが役に立っています」
今は週3日をマサラキッチンで、残り4日は食品工場で働いています。マサラキッチンではホールと調理補助を担当。開業希望なので、通常のアルバイトではできない調理業務を担当することもあります。
間借りには大きなメリットが。一方のデメリットは?
もともとマサラキッチンは間借りスペースではありませんが、店主のご厚意で定休日に間借り利用できることになりました。
調理器具やお皿もお店のものを借りられるのでとても助かっているそうです。間借り料は発生せず、水道光熱費を実費で払っています。「自分でお店を持つとなれば数百万円はかかるところ、材料費のみで挑戦できるのでとてもありがたいです」と松岡さん。
その一方で、利益が少なくなりがちという一面も。悪天候でお客さまの入りが少なかったり、お客さまに満足してもらいたくてつい大盛りにして提供してしまったり…。利益は安定せず、黒字の日もあれば赤字の日もあるそうです。
ただこれもすべて「間借り」だからこそ。失敗しても大きな赤字にならずにカレー店経営のノウハウを学べ、それを経験として確実に自分の中に取り入れていくことができるのだとか。
「間借りは貴重な経験ができる修業の場。資金面のリスクが少なく、実際にお店を持つのと同じような経験ができるのがいいですね」と松岡さん。
年間600食のカレーを食べる、研究の日々
「心も体も元気になるカレー」をコンセプトに、毎回違うカレーを提供する松岡さん。今回の「冬のポークカレープレート」(税込1000円)は、10種類以上のスパイスを使ったポークカレーをメインに、2種のひよこ豆のヨーグルトカレーとかぼちゃのカレーをあいがけ。青菜のサンボルと3色ピクルスを添えたカラフルなプレートです。栄養バランスはもちろん、SNS映えするよう彩りにも気を配ります。
毎日カレーのことを考えているという松岡さん。家で作ったり、お店で食べたりして、年間で600食ほどのカレーを食べているそう。「玉ねぎの炒め方ひとつで味が大きく変わるくらい、カレーは奥が深くて、理科の実験みたいでおもしろい」と言います。味噌や醤油など和の調味料を隠し味に使ってみたり、初めてのスパイスを使ってみたりと無限に組み合わせは広がります。
研究ノートは1年半で5冊目に突入。理想のカレーを目指して、試行錯誤の日々です。
月1間借りカレー営業のためのタイムスケジュール
「みわCurry」開催日の2週間前にはメニューを決定し、試作を重ねます。多いときには10回以上試作することも。告知のチラシも自分でデザインしています。
前日の営業が終わる22時ごろから仕込みを開始し、作業が終わるのが朝の4時ごろ。一度帰って仮眠をとってから出勤と大忙し。昼夜営業するときは5キロのお米が一日でなくなります。荷物が多いので、搬入搬出にはタクシーを使い、通販で購入した台車とコンテナが大活躍します。
「仕込みから調理、接客まで一人でこなすのでなかなかハードな一日ですが、すごく楽しいです」
今までに16回開催した「みわCurry」のこれから
2017年11月から始めた「みわCurry」は、順調に回を重ね、これまでに16回開催しました。初めて自分のカレーをお客さまに出したときはすごくドキドキしたそうです。「こんなの初めて!」「美味しい!」の声がすごくうれしかったと松岡さん。
今後は「みわCurry」をもっと味わってもらえるように、開催日を増やしたり、イベント出店などマサラキッチン以外の場所にも出てみたいと語ります。「さらに味をブラッシュアップしてファンを増やしたい。トライアンドエラーの日々を繰り返して、ゆくゆくは自分のお店を持ちたいです」
松岡さんの挑戦は続きます。