「牛丼御三家」に突如起こった“コロナ禍バトル”、勝ち組はどこ?
監修・ライター
コロナ禍の真っただ中にあった4月、吉野家と松屋の間で火花が散ったーーー。
新型コロナウイルスの感染拡大で大幅な打撃を受けた飲食業界。前年の同じ時期と比べて9割売り上げが減った飲食店もあった一方で、大手牛丼チェーンは4、5月の売上高、来客数の減を最小限にとどめた。影響は小さかったものの、一部ではし烈な競争があったのも確かだ。4、5月におけるすき家、吉野家、松屋の施策とその結果を見てみよう。
吉野家対松屋でテイクアウト値引き競争
集客が見込めない緊急事態宣言下で、値下げの先手を打ったのは吉野家だった。2月の段階から4月1~22日、牛丼・牛皿のテイクアウト価格を全品15%引きにすると発表した。すると松屋も対抗。9~28日、プレミアム牛めしと生野菜をテイクアウト限定で18%引きにしたのだ。
2社が安さを前面に押し出してPRした一方、静観を決め込んだのはすき家だった。目立った施策は、「オニオンサーモン丼」「ケールレタス牛丼」の投入程度。昨年10月の消費増税時に店内飲食、テイクアウトで統一した価格(ともに牛丼並盛350円)を据え置き、幅広い年齢層がターゲットの「すき家de健康」メニューを引き続き強化した。
競争に勝った吉野家、静観決め乗り切ったすき家
急きょ起こった値下げ競争の結果はどうだったのか。3チェーンの既存店売上高、来客数を見ると、緊急事態宣言下では吉野家、すき家に比べて松屋の落ち込みが目立った。
吉野家はコロナ禍にもかかわらず、4、5月の売上高、来客数をわずかな減少幅にとどめた。客単価に至っては、5月に入ってから前年の同じ月を上回った(4月同3.0%減、5月2.1%増)。2019年に「超大盛」と「小盛」、「ライザップ牛サラダ」をヒットさせた吉野家が、昨年度からの「V字回復」パワーを持続させたと考えていいだろう。すき家も堅調。4、5月の既存店売上高、来客数をそれぞれ10%減前後にとどめた。
一方、松屋は4、5月の既存店売上高、来客数が20%を超える落ち込み。値引き幅で吉野家を上回るとアピールしたものの、消費者には受け入れられなかった。
ただでさえ安い牛丼を持ち帰り用に値引いても消費者は動かなかったともとれる。ことコロナ禍においては、単なる値引きは必要のないものだったのではないか。
松屋にも巻き返しのチャンスあり?
6月の緊急事態宣言解除で各店とも売上高、客数もある程度戻ることだろう。ただ、新型コロナの第二波、第三波の影響が心配される。
松屋は第一波の「二の舞」とならないかーー。いや、売り上げ減を最小限にとどめる策はいくらでもある。
各社アンケートによると、消費者がテイクアウトで重視する項目は「近さ」安さ」。加えて、自宅では作れないメニューを外食に求めているようだ。
その意味で、松屋にもコロナ禍を乗り切るチャンスはある。松屋は毎月「シュクメルリ鍋定食(ジョージア)」、「カチャトーラ定食(イタリア)」など各国の特色を活かした特異なメニューを投入。「ごろごろチキンカレー」では熱狂的なファンを生んだ。吉野家の「ライザップ牛サラダ」のような大ヒットには及ばなくてもいい。持ち帰り客にも配慮した特徴あるメニューで細かなヒットを積み重ねれば4、5月のような失敗は犯さなくて済むはずだ。
第二波、第三波到来で吉野家は路線変更?
コロナ禍で静かだったすき家もうかうかしてはいられない。昨年度に投入したメニューは牛丼にのせる具材を入れ替えて幅広い年齢層への普及を目指したが、牛丼以外のアピールも必要そうだ。すき家は今年から新カテゴリーに「牛カルビ丼」を設け、メニューの幅を広げている。家では食べられない新メニューの開発は必須だろう。
吉野家にも不安要素はある。ここ数年くつろぎやすさを重視した新モデルの「クッキング&コンフォート店舗」を増やし続け女性客増に貢献しているが、コロナ流行期では感染リスクから店内飲食を避けるようになるはずだ。吉野家は2020年度以降も新モデル店舗を増やす方針としているが、人件費がかさまないような店舗作りを迫られ、場合によっては路線変更を余儀なくされるかもしれない。
いずれにも不安要素はあり、第二波、第三波が到来すると各社は大幅な戦略変更を迫られる。コロナ禍において、牛丼界の「勝ち組」はどこになるのだろうか。