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中国の経済成長を意識、日米首脳会談のポイントは?

経済とお金のはなし 伊藤 寛

中国の経済成長を意識、日米首脳会談のポイントは?

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監修・ライター

日米首脳会談が4月に開かれ、半世紀ぶりに台湾に言及するなど中国への対決姿勢が鮮明になった。共同宣言のポイントは中国をにらんだ同盟関係構築と気候変動対策とされるが、日本が中国にやや配慮していることも見逃せない。今回の共同宣言に透けて見える日本の思惑や今後の展望を整理しよう。

日本は会談直後に「脱炭素」目標数値を引き上げ

4月16日の日米共同宣言において、最も注目が集まったのが脱炭素の数値目標だ。バイデン大統領は就任直後から環境対策に積極的で、日本をはじめとした各国にも具体的な目標を出すように求めていた。

会談で日米は「気候パートナーシップ」を結び、再生エネルギーの普及促進を目指すとした。これを受け、直後にオンラインで開催された40の国・地域が参加した気候変動サミット(同月22、23日)で、日本は2030年までに二酸化炭素の排出量を2013年と比べて46%減らすと宣言。当初の26%減から目標を引き上げた。

今回の会談が、国内産業に大変革をもたらすのは必至

環境に優しい車
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アメリカに促されて宣言はしたものの、もともと再生可能エネルギーの活用が進んでいなかった日本は自動車産業などに協力を求めてきた。

温暖化ガスを出す新車を30年までにゼロにするとの政府目標に自動車業界は賛同。EV(電気自動車)や FCV(燃料電池自動車)などに切り替える構えだ。ただ、一般的にガソリン車をEV、FCV(燃料電池車)に切り替えると大幅に部品が減り、雇用が大きく減るとされる。

自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は3月に「100万人の雇用が減り15兆円の貿易黒字が失われる」と急激な変化に懸念を示している。「46%宣言」の直後、ホンダは2040年までにガソリン車を売らずに、EVやFCVに切り替えると目標を定めた。ただ、具体的な取り組みはこれからといったところだ。

いずれにせよ、他の国と比べても急ピッチで脱炭素の取り組みを進めなければ目標は達成できない。政府が目標を上げたのに伴い、国内の産業構造はこれから急激に変化するのは間違いない。

経済面でも中国との対決姿勢を鮮明にしたが…

共同宣言で日米は「海峡の安定が重要」と述べ、台湾に対する中国の圧力姿勢を暗に批判。新疆ウイグル自治区や香港を巡る中国の振る舞いにも疑問を呈した。また経済面でも日米は中国への対決姿勢を打ち出している。

これに加え日米は、中国を経由せずに半導体の供給網を構築するとも宣言した。今、世界は自動車やパソコンなどハイテク機器に欠かせない半導体不足に悩まされている。半導体シェアの上位に立つのは台湾、韓国、日本などだが、今後は中国が日本を追い越し世界トップの台湾に迫るとも予測されている。日米は半導体分野においても中国包囲網を敷いたのだ。

また日米は計45億ドルを拠出して5G、6Gの最先端通信技術を開発するとした。今年中に50万基の基地局を設置するなど中国は5G関連の技術開発、インフラ整備を加速させている。日米は5G、6Gの技術開発に関し他国も巻き込んで中国に対抗する構えだ。

中国に寄り添う必要も…日本の立ち位置は難しくなった

中国とアメリカ
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一方で、米国だけと協力関係を構築するのは経済面でリスクもある。日本は米国以上に中国経済に依存しており、輸出先の中では中国への輸出額が最も大きい。その中で米国の対中対抗策に同調するのは違和感も残る。

今回の首脳会談ではファーウェイ排除も続け、半導体を中心としたサプライチェーン(供給網)の育成、保護に努めるとしたが、過剰に中国を威嚇すると他製品を含め、中国との輸出入に支障が出る可能性も否定できない。実際、今回の宣言では「共通の利益を有する分野で『中国と協働する必要性を認識した』」と一定の配慮も見せた。ほか、台湾問題に関する「平和的解決を促す」とのトーンがやや弱めとの指摘もある。

いずれにせよ、政治面はもちろん経済面でも、日本は対立する中国、米国との間に挟まれた形なのは間違いない。共同宣言に台湾を盛り込んだことで日本は少なからず中国に刺激を与えた。日本政府は今後も難しい舵取りを迫られているといえよう。