東証の市場区分が見直されるのはなぜ?株式市場と企業に与える影響を解説
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監修・ライター
東京証券取引所(東証)の市場区分見直しが2022年4月に行われます。市場はどのように変わるのか、実際に取引をするとき、どのような点に注意すればいいのかについて解説します。
東証市場区分の見直し
東京証券取引所は、2022年4月に市場区分の再編を行います。現在の市場区分は、以下の5つです。
- 東証1部
- 東証2部
- ジャスダック・スタンダード
- ジャスダック・グロース
- マザーズ
これを以下の3市場にするのです。
プライム
グローバルな投資家との対話を中心に据えた企業向けの市場。「流通株式(=投資家が市場で売買できる株式)の時価総額が100億円以上」、「売上高が100億円以上」などの基準が設けられます。
スタンダード
投資対象として十分なガバナンス(企業統治)と、流動性を備えた企業向けの市場。
グロース
高い成長性がある企業向けの市場。
現在の東証1部が「プライム」に、東証2部とジャスダック・スタンダードが「スタンダード」に、ジャスダック・グロースとマザーズが「グロース」になります。
出典:JPX
市場区分見直しの理由
東京証券取引所は、なぜ市場区分を見直そうとしたのでしょうか。その理由の一つは、東証1部企業が増えすぎたということです。現在の市場に上場している企業数は、以下の通りです(2021年5月時点)。
東証1部 2186社
東証2部 473社
ジャスダック・スタンダード 662社
ジャスダック・ グロース 37社
マザーズ 353社
このように、最上位である東証1部の企業数が圧倒的に多くなっているのです。また、東証1部企業の約3分の1が時価総額250億円を下回っており、半分の企業がPBR( 株価純資産倍率)1倍を下回っているなど、東証1部上場企業の質の低下が問題となっていたのです。
時価総額とは「株価×発行済株式数」で計算され、その企業の規模を表しています。またPBR とは株価を一株当たり純資産(BPS)で割ったもので、現在の株価が企業の資産価値に対して割安か割高かを判断する指標です。PBRが1倍を割れていると、割安であるという目安になります。
プライム市場のハードルは高い
現在の東証1部に上場している企業がプライム市場に入るためには、市場で流通する株式の比率が35%以上、流通株ベースでの時価総額は100億円以上などの条件を満たす必要があります。日本経済新聞社の調べでは、東証1部企業でプライム基準を満たしていない企業数は、3割弱の570社。ただし、東証はプライム基準に満たない企業でも、改善計画をだせばプライム市場への移行を認めるなど、経過措置を設ける予定です。
市場区分移行のスケジュール
実際に企業がどの市場に行くかは、2021年9月~12月に企業自身が判断して東証に申請します。6月末を基準日とし、4~6月の終値平均に基づいた流通時価総額などから、東証が7月9日に各市場への適用状況を企業に通知するのです。
現在のジャスダックやマザーズ市場に上場している企業がプライム市場を目指す時の課題としては、単に流通時価総額や流通株比率などの数値基準を満たすだけでなく、「プライム市場に求められる企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)に対応した社内体制の整備」が挙げられます。コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針です。とくに気候変動などの情報開示は、ESG(環境・社会・企業統治)への対応を重視している海外投資家が注目しており、投資マネーの獲得に結びつきます。ですから、東証は企業のESGへの対応を急いでいるのです。
市場区分見直しがマーケットに与える影響
現在の株価指数も見直されるので、投資する際は注意が必要です。代表的な株価指数である「日経平均株価」は変わりませんが、そのほかの指数は以下のように変わります。
TOPIX(東証株価指数)
TOPIXは、日経平均と並ぶ国内を代表する株価指数です。現在のTOPIXには、東証1部の全銘柄が組み入れられています。しかし東証は、TOPIXを「選別型」に改革します。2021年6月末と翌決算期末で流通株式時価総額が100億円未満の銘柄を「ウエイト低減銘柄」にし、2022年10月から段階的にTOPIXへの組み入れ比率を下げ、2025年1月に完全に除外する方針なのです。東証によると、2020年3月末時点で東証1部の約3割が除外される可能性があるとされています。TOPIXから除外されると、インデックス投資を行っている機関投資家からの売りがでる可能性があるので注意が必要です。
また、その他の株価指数は以下のような対応になります。
東証2部指数
2022年4月で算出終了。
東証マザーズ指数
2022年10月から定期入れ替えを行い、「東証グロース市場250指数」に名称を変更する予定。
ジャスダック指数
2022年4月で算出終了
市場再編で企業はどう変わる?
「東証1部上場」というのは、企業にとって大きなステータスです。また、就職や転職を考えている人も、「東証1部企業」というのは魅力的でしょう。そして、自分が勤めている企業が今後、どの市場になるのか気になる人もいるのではないでしょうか。
ただ、現在の東証1部よりも、プライム市場に入るハードルは高くなります。ですから、プライム市場に入れるよう努力している企業もでてきています。
具体的には、プライム市場に入るために株価を上げたり、ROE(自己資本利益率)を高めたりする経営をするのです。これからは、よりマーケットを意識した経営が求められるでしょう。
投資家が銘柄選びの際に気をつけたいこと
現在プライム市場の基準を満たしていない企業でも、多くがプライム市場を目指すと考えられます。東証 1部上場企業がプライム市場に残れなければ株主から敬遠され、株価が下落する可能性もあるからです。上場企業としての信用性だけでなく、株式の取引において、プライム市場に残る意義は大きいのです。
今後は株式市場を意識した経営を行い、自社株買いを行ったり、IR( 投資家向け広報)を強化したりする企業が増えるでしょう。 そうした企業はマーケットで評価され、株価も上がることが期待できます。 ただ今回の市場区分見直しでは、上場を維持するための必要株主数は減少します(東証1部2,000人、プライム市場800人) 。そのため、株主を増やすために株主優待を導入していた企業は、株主優待を廃止する可能性もあるので注意が必要です。
まとめ
企業にとって プライム市場の壁は現在の東証1部よりも厚くなるものの、プライム市場に行けるように努力をする企業もでてきます。そうした企業は厳しい上場基準を満たそうとするので、中長期的な投資対象として魅力です。一方、これまで東証1部に安住していた企業は、自ら変わるか、プライム市場から降格かといった厳しい選択を迫られる可能性があるのです。
今後、個別企業を選ぶ際は、各市場の上場基準を満たしているかどうかといったことも判断材料として重要になってくるでしょう。