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GAFA対G20、仁義なき戦いの勝者はどっちだ?

経済とお金のはなし 竹中 英生

GAFA対G20、仁義なき戦いの勝者はどっちだ?

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2021年7月9日からイタリアのベネチアで開かれていたG20の財務相及び中央銀行総裁会議は10日、2日間の協議を終えて閉幕しました。GAFAなどをはじめとする多国籍巨大IT企業の「課税逃れ」を防ぐためのルール作りについて閣僚レベルでの大筋合意が得られ、このあと10月に最終合意を行い、2023年からの導入を目指すこととなりました。

そこで本日は、今回のG20で大筋合意された「デジタル課税」と「法人税最低税率の設定」の内容について解説し、将来的に私たちの暮らしにどのような影響があるのかについて考えてみたいと思います。

「デジタル課税」と「法人税最低税率の設定」とは

外国の紙幣
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ではまず、今回合意された「デジタル課税」と「法人税最低税率の設定」とはどのようなものなのかを見てみましょう。

「デジタル課税」とは

IT企業は、デジタルデータを用いたサービスを、インターネットを経由してユーザーに提供しています。たとえば、米国の企業が作ったデータを日本に住んでいるあなたが利用した場合、その支払いは米ドル建てで、クレジットカードを用いて支払いを行います。これは別にデジタルデータに限ったものではなく、雑貨やワインなどを海外から個人輸入する場合も同様です。

では、これを販売した会社は、どこで納税すると思いますか?もちろん、米国です。では、もしも日本中の人が、同様のサービスを行う日本企業を利用せず、米国にある会社のサービスのみを利用したらどうなるでしょうか?恐らく日本国内の同業者はすべて倒産し、おまけに日本には税収が一切入らず米国だけに納税されることになってしまいます。これでは困りますよね?

実は今の国際ルールでは、国内に支店や工場など物理的な拠点がない外国企業に対しては原則として課税が出来ない仕組みになっています。そのため、GAFAなどの巨大企業だけが一人勝ちしている状態が続いているわけですが、今回の合意ではそれを変更し、その国で上がった売上高に応じて、その分を現地で新たに課税することを定めました。これが今回の「デジタル課税」です。

これにより、一方的に吸い上げられるだけだった側でも課税することが出来るようになるため、税収が公平になるための道筋が出来たと言えるでしょう。

「法人税最低税率の設定」とは

法人に課税する法人税の税率は、国ごとに異なります。OECD加盟国の法人税実効税率を比べた表をご覧ください。

OECD TAX DATABASEより筆者作成

1位のポルトガルが31.50%なのに対し、37位のハンガリーはたった9.00%しかありません。もし、あなたがITを用いたデータ配信を行う会社を設立するとしたらどちらの国で会社を作りたいと思いますか?もちろんハンガリーですよね。

GAFAなどの巨大企業がこれまで行ってきた課税逃れのための複雑なスキームも、実はこのシンプルな考え方をベースに設計されています。たとえば、税率の低い国に本店を置き、実際に顧客に対して業務を行う支店はその国に設置するのですが、そこで上がった利益の大半は「フランチャイズ料」などの名目で本店が吸い上げてしまうために、その国に納税されることはありません。

その結果、利益の大半は本社に集まるため、税率の極めて低い国で納税されることになります。ちなみに、租税回避地として有名なケイマン諸島の場合は、法人税率が何と0%です。

そこで、各国がこぞって企業誘致のために法人税率の引き下げ競争を行った結果、そのあおりを食って世界中で引き上げ続けられたのが消費税です。言い換えれば、外資系企業が租税回避をして税収が減った分だけ、世界中の消費者が消費税を負担することによってこれまで穴埋めをしていたわけです。

このような事態を食い止めるために今回定められたのが、「法人税最低税率の設定」です。具体的には、法人税の最低税率(ただし、租税特別措置法などによる影響を含めた本当の実効税率)の下限を15%と定め、これ以上過剰な法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけるようにしました。

そして、この「法人税最低税率の設定」を導入することにより、たとえば日本に本店のある会社の子会社がケイマン諸島にあった場合でも、その子会社が負担すべき法人税の税率が最低税率15%に等しくなるように、本社に負担させて日本国へ納税させることが出来るようになりました。

税率をどれくらいにするかは国家が決めることであり、他国がそれに対して干渉することは出来ません。したがってG20に参加していない国であれば最低税率よりも低い税率に設定することは出来ますが、少なくともG20参加国及びその地域内に本社を置く企業であれば、税率の高低差を用いた国際的な租税回避のスキームがこれで利用出来なくなったわけです。

私たちの生活に与える影響について

スマホ
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では、今回の合意によって、私たちの生活にどのような影響が及ぶのかを考えてみましょう。

各種利用料金の値上げ

今回の合意によって、GAFA側が負担すべき経営コスト(税金)が増えることが決まりました。したがってその影響は、彼らが提供するサービスの利用料に及ぶことになります。

そういえば、最近「これまでは無料だったものが有料になった」とか、「これまでは無制限に利用できたものに制限がかかった」というようなことが増えてきたと思いませんか?

恐らく、今後もこの傾向は続くでしょうから、iPhoneなどの製品が長期的に値上げを続けたり、ある時いきなりGmailが有料になる日が来るかもしれません。

いずれにしても、ユーザー側には分かりにくい形で、GAFAの提供するサービスは、広く浅く値上げされていくものと考えられます。

消費税の税率の引き上げが起きにくくなる

これまでは、消費税率を引き上げるための理由として、国家間の法人税引き下げ競争が挙げられてきました。「法人税の引き下げ競争で出来た税収の穴を埋めるための消費税率の引上げ」が、財務省を中心とした増税派の拠り所だったわけです。

しかし、今回の合意によって、今後は法人税率引き下げ競争が消費税率引き上げの理由には使えなくなってしまいました。したがって、今後消費税率を引き上げるための正当な理由が見つからなくなってしまいました。

これは、私たちの当面の生活にとって、大変大きな安心材料となり得るでしょう。

最悪の可能性が起きないようにするために

今回のG20での合意により、GAFAをはじめとする巨大企業の「税金逃れ」と「法人税率引き下げ競争」には一定のピリオドが打たれることになりました。しかしその結果、私たちが日々利用しているGAFAが提供するサービスの利用料金は、長期的に引き上げられる可能性が高くなりました。

その代わりに消費税率の引き上げには歯止めがかかるはずですが、本当にそうなるのかどうかは分かりません。

法人税率の引き下げ競争はなくなりますが、少子高齢化やインフラ整備など、消費税率引き上げの理由はいくらでも簡単に探すことが出来ます。しかし、内需主導型の日本で、所得が上がらない中で消費税率を上げれば消費が冷え込むのは誰の目にも明らかです。

政府が行う経済政策を注視し、選挙で有権者として権利を必ず行使することを忘れてはいけません。なぜなら私たちの生活を変えることが出来るのは、私たち自身以外にいないからです。