今話題のMMTって? 打ち出の小槌? そんなに刷ってもOK?
監修・ライター
こんにちは、金融メディアライターのマドレーヌです。
最近TVや雑誌・一部メディアなどで頻繁に取り上げられ、話題となっているのが「MMT」です。MMTはマクロ経済学理論の一つであり、提唱されてまだ間がない新しいものですが、内容が従来の経済学と比べるとセンセーショナルなため、米国はもちろんのこと日本でも、経済学者や政治家などの間でさまざまな議論を巻き起こしています。
そこで本日はこのMMTを題材に、借金による通貨流通の仕組みについて解説してみたいと思います。
「MMT」って何?
「MMT」とはModern Monetary Theoryの略称で、ニューヨーク州立大学教授のステファニー・ケルトンが提唱しているポスト・ケインズ派の新しい経済理論の一つです。日本語では現代貨幣理論といいます。
MMTの主張をひと言で説明すると、「国はどれだけ国債を発行してもインフレ率にだけ気を付けていれば財政破綻しないから大丈夫!」という超ポジティブなものです。
それではまずMMTを正しく理解するために、マクロ経済学の歴史からざっと復習していきましょう。
MMT誕生までの道程
マクロ経済学とは、GDPや物価・失業率などの統計結果を、数式を用いて分析することによって経済を解明しようとする経済学の分野のひとつです。その歴史は意外にも浅く、1929年の世界恐慌の時に誕生したと言われています。
当時の米国政府はアダム・スミスが理論化した古典派経済学を採用しており、「政府は経済に介入すべきではない」という自由放任主義を採っていました。しかし世界恐慌による世界同時株安により大量の失業者が発生し、多くの人が飢えや貧困に苦しむことになりました。
この状況に対して有効な手段を持たない古典派経済学に対し、「政府は経済に積極的に介入し、完全雇用を実現すべきである」と主張したのがイギリスの経済学者ケインズです。
具体的には、政府が国債を発行し、公共投資により民間に資金を流して失業者を雇い入れるといった内容でした。発表当時は「トンデモ理論」として呆れられましたが、ケインズ主義を採用したルーズベルト大統領のニューディール政策が米国経済を見事にV字回復させたことにより、一躍マクロ経済学において不動の地位を確立することになりました。
1970年代に米国で大インフレが発生した時には、ケインズ主義と古典派経済学を融合した新古典派経済学の政策が採用されたこともありましたが、その評価は決して芳しくなく、最近では再びケインズ主義を評価する声が上がっています。
ケインズ主義の限界
しかしこのケインズ主義にも限界がありました。いくら政府が国債を発行しても良いからといっても財政破綻をしたら元も子もないわけですから、ケインズ主義下においては「国債を発行した負債は、景気が回復したら租税によってまかなうこと」と考えられていました。
しかしこうなると、賢い消費者は景気が回復した後の将来の増税を予測し、消費を控える行動に出てしまいます。つまりケインズ主義に基づく政策では、最悪の状況は脱出できるものの、国債の発行残高を減らすほどの経済成長は期待できないという限界が見えてしまったのです。
その後現在に至るまで、米国の財政赤字が増大し続けていることはみなさんご存知の通りです。
この状況の中で誕生したのが「MMT」なのです。
「MMT」が効果的に働く条件とは
MMT理論が有効に機能するためには、2つの前提条件が付けられています。一つは独自通貨を発行できる国であること。そしてもう一つは過剰なインフレが起きないことです。
独自通貨を発行できる国とは
独自通貨を発行できる国とは、米国や日本のように中央銀行が紙幣を発行できる国のことをいいます。米国ではFRB、日本では日本銀行が紙幣を発行していますね。このような仕組みを持った国であることがMMTを実現するためには必要だと主張しています。
逆にヨーロッパのユーロ加盟国やモナコなどの自国通貨を発行していない小国、またハイパーインフレを起こして事実上自国通貨の信用が崩壊してしまっているジンバブエなどの国では、MMTを実現することはできないことになります。
過剰なインフレとは
インフレとは通貨の価値が下がることを意味します。インフレが起きると物価が上昇していきます。いくら通貨を発行できるからといっても、発行しすぎればインフレが必ず起きます。そこでMMTでは、インフレ率が2%以内であることを条件としています。
ここまで読んでみていかがですか?「(インフレにならなければ)いくら借金をしてもOK」とか「借金を借金のまま放置しておいても大丈夫!」なんて嘘くさい理論だと思いますか?実はそうでもないのです。
借金とは何なのかを理解すると、この話がまんざらホラ話でもないということがご理解いただけると思います。
借金の本質
MMT理論を理解するためには、借金の本質を理解しなければなりません。政府が国債を発行する意味について正しく理解するために、銀行を例に説明してみようと思います。
借金はお金を生み出す
今から借金に関する少し極端な例を挙げます。理解しやすいように条件をシンプルに設定してありますが、基本的には全てこの通りです。
例えばA銀行の金庫に1億円があるとします。ではこのA銀行にあなたが5億円を借りに行ったとすると、どうなるでしょうか?
答えは簡単で、金庫の1億円は全く手つかずのままで、あなたの預金通帳に5億円の数字が印字されておしまいです。つまり、実際の紙幣は1億円しかないにも関わらず、5億円の預貯金が銀行によって生み出されたわけです。これを「信用創造」といいます。
このように借金とは、世の中に流通する通貨を増やす働きを持っており、銀行は誰かにお金を貸すことによって通貨の流通量を増やす機能を果たしているわけです。
ちなみにA銀行から5億円を借りたあなたが、その場で5億円の現金を引き出そうとしたらどうなるでしょうか?もしそうなれば銀行はパニックになります。これが大掛かりになったものが、いわゆる「取り付け騒ぎ」です。
そもそも銀行は、現物として持っている通貨の数十倍もの量を信用創造しているわけですから、預金者が預貯金の引き出しを始めたらひとたまりもありません。
このようにお金を借りる人が増えると世の中に流通する通貨の量が増え、その結果緩やかなインフレ状態になります。
借金の返済はお金を消滅させる
では逆に、借りたお金を返すと何が起こるでしょうか?借金を返済すると、銀行預金という名の、信用創造によってこの世に生み出された通貨も同時に消滅します。つまり借金を返済するとこの世からお金がなくなり、これがデフレを引き起こすわけです。
政府の借金である国債の発行と償還も基本的にはこれと同じで、発行すればインフレに、返済すればデフレになります。
借金を減らすとデフレが加速する
政府の借金が増えると、何となく貸してくれた誰か(=国民)の貯金が減るように思えるため、財政赤字の増加のツケは国民が取らなければならないように感じますが、事実は全く逆です。
政府が借金をするからお金が増え、逆に借金を返済すればお金が消滅します。その結果、デフレに陥ってしまうわけです。デフレ下で借金を返してしまうとお金の流通量はさらに減るため、当然のことですがデフレは加速していきます。
この章のまとめ
自国通貨建ての国債は市場の通貨流通量を調整する役割があり、インフレにならない限り破綻することはありません。逆に返済を進め過ぎてしまうと通貨の供給量が減り、デフレを加速させてしまうことになります。
個人の借金と政府の借金とはその本質が全く異なるということを正しく理解しなければなりません。
ふたたびMMT理論について
借金の仕組みとその本質をご理解頂ければお分かりのとおり、MMT理論は「ゆるやかにインフレを起こしていれば経済成長が維持できるので、その範囲内で財政赤字が増えたとしても問題はない」と言っているにすぎません。
MMT理論についての反論は大きく分けて以下の2点です。
- 国債の発行により金利が上がる
- 急激なインフレはコントロールができない
国債の発行と金利の上昇とは相関関係がない事は、日本の国債発行残高が証明しています。日本は国債を発行し続けていますが、金利が上がるどころか一時はマイナス金利にすらなっています。
また急激なインフレがコントロールできない点についてはその通りですが、現時点で日本はデフレ下に突入しつつあるわけですから、少なくとも日本に関してはこの論点は当てはまらないと思われます。
いずれにしても、MMT理論はまだ生まれたばかりですから現段階で評価するのは難しいですが、正しく理解するためには借金の本質と仕組みについて理解しておく必要があるでしょう。
最後に
MMT理論について本日ご紹介した部分は、まだまだほんの入り口に過ぎません。入り口に立つための予備知識程度ではありますが、個人の借金と通貨発行権を持つ政府の借金とは全く別であることを理解しておくことは、今後MMT理論を正しく理解するために必要な知識といえます。