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先進国の中でも低賃金の日本、円安が続いている驚愕のワケとは?

経済とお金のはなし 竹中 英生

先進国の中でも低賃金の日本、円安が続いている驚愕のワケとは?

【画像出典元】「ilikeyellow/Shutterstock.com」

9月24日にiPhoneの最新機種が発売されました。今回のiPhone13に搭載されるチップはA15 Bionicとなり、カメラやディスプレイ、そしてバッテリーの性能も旧型と比べ大幅にアップされました。現在はAndroid端末を使っている筆者ですが、やはり最新型のiPhoneは気になります。

そこで、値段を確認してみたところ、驚きました。iPhone13 Pro Maxを選んだ場合、一番安いもので134,800円、そして一番高い1TBの容量を選択すると税込みで何と約20万円。もはや大卒の新入社員の初任給(手取り)では買えないほどの金額になっているではありませんか!!

これ、皆さんは普通に買っているのでしょうか?世界中の方はこれが気楽に買えているのでしょうか?

そこで本日は、iPhone指数を足掛かりに、日本の賃金と為替レートの問題について考えてみたいと思います。

iPhone指数で見る世界各国の収入基準

スマホで株式チャートを確認
【画像出典元】「stock.adobe.com/peshkov」

iPhoneを購入するためには何日間働く必要があるのかを国別に比較する「iPhone指数(iPhone index)」という経済指標があります。このiPhone指数はそれぞれの国の平均月収や現地で売られている値段をベースに算出されているため、iPhone指数を用いると世界各国の収入基準を比較することが出来ます。

では、日本のiPhone指数はどれくらいあるのでしょうか?

日本のiPhone指数からみる日本人の収入基準

下図が、2020年の10月に発表されたiPhone指数です。ちなみに機種はiPhone12Proを購入する場合の指数となります。

 
引用元 Picodi.com reports and analytics
https://www.picodi.com/sg/bargain-hunting/iphone-index-2020)より一部抜粋

首位はスイスで、4.4日間の労働でiPhone12Proが買え、2位のアメリカで6.1日、14位の日本は9.8日労働しなければ買えないわけですから、スイスの2.2倍、アメリカの1.6倍もiPhoneが高いということになります。

iPhone指数が高くなればなるほど賃金に対する物価の数値が高くなるため、その国で暮らす人々の生活は苦しくなります。このiPhone指数で各国を比較すると、日本の物価に対する賃金は世界で14番目の高さで、スイスやアメリカで生活するよりもかなりの努力と我慢を強いられていることになります。

iPhone指数の違いは何が原因なのか?

では、iPhone指数は何が原因で高くなるのでしょうか?一概には言えませんが、平均賃金の高さと為替レートが最も重要な要素であることは間違いありません。

平均賃金が低くなり貧困率が高くなればなるほど、iPhone指数は高くなります。また、為替レートが安くなればなるほど、iPhone指数は高くなります。

というわけで、平均賃金と為替レートについて、もう少し深く掘り下げてみましょう。

日本の平均賃金と貧困率

下図は、2021年にOECDが発表した加盟国の平均賃金を米ドル建てで比較したものです。
 

引用元 OECD date Average wages
https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

細かい図ですが、ざっくり把握いただければ大丈夫です。右端、緑色の棒グラフが首位のアメリカで、年収69.4千ドルなのに対し、黄色のグラフが日本で、順位は36カ国中23位、そして年収は38.5千ドルとなっています。

このグラフより、アメリカの平均賃金は日本よりも1.8倍高いことが分かります。また、上述のiPhone指数から、両国の物価はアメリカの方が日本よりも約4割程度安いことが分かります。

つまり、アメリカで働く労働者は、日本で働く労働者の1.8倍の賃金を貰い、生活費は日本で暮らす場合と比べ6割程度の支出で暮らしているわけです。羨ましい限りです。

日本の貧困率

下図は、同じくOECDが2020年に発表した加盟国の貧困率の最新レポートです。
 

引用元 OECD date Poverty rate
https://data.oecd.org/inequality/poverty-rate.htm

首位が左端の青印のアイスランドで、右に行くにつれて貧困率が上がっていきます。赤印の日本は中央よりも右側、39ヶ国中29位です。日本の貧困率は首位アイスランドの2.9倍で、30位のメキシコとほぼ同じ程度となっています。

日本で暮らす私たちは決して豊かではない

日本はOECDに加盟している先進国ではありますが、平均賃金や貧困率などの指標から見ると、決して豊かな国ではありません。むしろ、悪い方です。

「でも、日本のGDPは世界第3位でしょ?」と言われるかもしれませんが、それは単に現在の人口が多いからで、一人当たりの収入や暮らしの豊かさは、先進国の中でも後ろから数えた方が早いくらいです。

平成のはじめ頃は世界一の経済力を誇った日本でしたが、平成の終わりにはご覧のように斜陽国に転落してしまいました。

日本円の為替レートについて

ハンバーガー
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次に、日本の為替レートについて考えてみます。どれくらいが適正レートかを調べるのは大変難しいのですが、ここでは一般に広く用いられているビッグマック指数を用いて適正レートを算出してみます。

ビッグマック指数で算出する円の適正レート

下図は、2021年の7月に発表されたビッグマック指数(Big Mac index)です。

 
引用元 The Economist The Big Mac index (https://www.economist.com/big-mac-index

ビッグマック指数とは、イギリスの「エコノミスト」誌が毎年発表している経済指標の1つで、ビッグマックの品質が全世界同一である点に着目して指数化することで各国の経済力を比較することが出来ます。

このビッグマック指数を利用すると、比較する国の通貨が実際よりも過小評価されているのか過大評価されているのかを知ることが出来ます。

このチャートのレポートによると、2021年7月の日本円の為替レートは1ドル109.94円で、これは37.2%過小評価されていることから、日本円の本来の適正な為替レートは以下のようになります。

  • 日本円の適正な為替レート=109.94円×(1-0.372)≒69円

もし1ドルが69円になったら、海外旅行は超激安です。航空機の燃油サーチャージ代は無料になりますし、ホテル代も食事代も何もかも、今より4割程度安くなります。デューティーフリーの買い物の場合は更に税金分も安くなりますから、ブランド物の商品は今の半額近くで買うことが出来るようになります。

夢のような話ですが、残念ながら現在の為替レートは110円前後ですから、これでは気楽に海外も行けませんし、決してお値打ちに感じることもありません。

ここまでのまとめ

ここまでの話を簡単にまとめると、以下のようになります。

  • 日本の労働者の平均賃金は、他の先進国と比べて低い
  • 日本の物価は、他の先進国と比べて高い
  • 日本の貧困率は、他の先進国と比べて進んでいる
  • 日本円の為替レートは、実態よりかなり円安に設定されている

これらを踏まえた上で、これからどうすべきかを考えてみます。

オンリーワンの製品やサービスの提供を目指す

星印
【画像出典元】「stock.adobe.com/ktsdesign」

日本経済がこのような状況になってしまった理由は、円安に設定されている為替レートで誰が得をしているのかを考えれば簡単に理解することが出来ます。

円安になったら何が起こる?

日本の企業が海外で製品を売る場合、円高になると、海外の消費者が現地通貨で支払う金額が増えてしまいます。したがって、日本製品は売れにくくなります。いっぽう円安になると、同じ商品が安くなるため、海外で売りやすくなります。

実は、日本円の為替レートが長期間にわたって事実上円安に固定されてきたのは、経済界からの強い強い要望があったためです。日本政府や日銀は、単にそれを実現しただけです。

しかし、不思議ではありませんか?

日本は資源国ではありません。原材料や食料品、そしてエネルギーの大半は海外からの輸入でまかなっています。したがって、円安になると、商品は売れたとしても原材料費が高騰し、商品の利益率は低下します。これでは円安効果の大部分が相殺されてしまいます。

そこで手を付けたのが、人件費です。人件費は経費の中でもかなり大きなウエイトを占めています。これが増えてしまっては、どれだけ円安に誘導しても利益を確保することは出来ません。しかし、派遣社員や外国人実習生を増やして人件費をカットしていけば、円安でも簡単に利益が確保できるようになります。

諸外国の為替政策

では、日本以外の先進諸国はどのような為替政策を進めていったのでしょうか?自国の企業が輸出しやすくなるように通貨安を推し進め、同時に労働者の賃金を抑制し続けたのでしょうか?

下図をご覧ください。日本を含む主要先進国8カ国の1997年の実質賃金を100とし、その後20年間でどのように推移していったのかを表しています。
 

引用元 全労連 (http://www.zenroren.gr.jp/jp/

赤いグラフの日本のみ、この20年間で100から89.7へ低下していますが、それ以外の国はすべて右肩上がりで増え続けており、労働者の実質賃金は確実に増えています。日本の実質賃金の低下は消費税の増税による物価高の影響もありますが、それを差し引いても、諸外国は通貨安にしなくても企業は利益を上げ、その結果従業員の賃金も上がり続けています。

iPhoneを売るのにドル安政策は必要か?

冒頭でお話ししたiPhoneを思い出してください。高いですよね?多分、誰にとっても高いと思います。でもやっぱり売れるのです。そう、iPhoneは高くても売れるのです。

フェラーリは値下げなんて一切しませんが、それでも世界中で飛ぶように売れています。PlayStationやNintendo Switchや日本の高品質なフルーツも、やっぱり高くても売れています。

いっぽう、「安ければ売れる製品」は、確かに為替安へ誘導すればとりあえず売れるかもしれませんが、その方法では労働者の賃金が上がらないため、長く続ければ国内市場が冷え込んで最終的にはその商品は国内でさえ売れなくなってしまいます。

日本経済がかつての輝きを取り戻し、日本で働く人々の賃金を他の先進国並みにするためには、iPhoneのように世界中の人々を魅了する製品やサービスを日本企業が生み出す以外に方法はないのです。