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この先どうなる?生活への影響は?米国株式市場が下落のワケ

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

この先どうなる?生活への影響は?米国株式市場が下落のワケ

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米国株の下落の最大の理由は「インフレ」

2022年になって、米国株式市場が下落しています。その最大の理由は、物価が上がるインフレに対する懸念です。物価の上昇・下降などの変動を表し、米国民の生活水準を示す消費者物価指数(CPI)は昨年の同時期よりも上昇して過去39年でもっとも高い水準となり、物価が高い状態が続いています。

この物価上昇には地政学的な理由も影響しています。ウクライナ情勢の緊迫化によって原油の価格が高騰し、1バレル100ドルの大台に乗るのではないかというシナリオも現実味を帯びてきている今、米国の金融政策を決定する3月のFOMC(連邦公開市場委員会)までに物価はさらに上がる可能性があります。

一般的にインフレを抑制するためには、国の中央銀行が金融引き締めを行い、金利を上げて消費や投資などの経済活動を抑制します。市場関係者の間では「通常の0.25%の利上げではなく、0.5%の利上げをするべき」だという意見もあり、米国野村証券では3月の利上げ は通常の2倍にあたる0.5%になると予想しています。

0.5%の利上げとなれば、2000年5月以来、22年ぶりとなります。当時の大幅利上げは、ITバブルの崩壊につながりました。マイクロソフトのウィンドウズ95が発売され、インターネット株ブームが始まった1995年を契機に、1998年から1999年にかけてIT関連企業の株価が急上昇し、ITバブルへと発展していきましたが、2000年以降はIT関連企業の業績が伸びず、1999年6月から2000年5月にかけてFRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利を4.75%から6.5%へ大幅に引き上げたことが、バブル崩壊へとつながっていった歴史があります。

FRB(米連邦準備制度理事会)は3月に利上げの方針

米国の中央銀行であるFRBは2020年の新型コロナウイルスの感染拡大で米国経済が大きな打撃を受けたため、今年2022年1月にFOMCを開催し、インフレ率が2%を緩やかに上回るまでは、金利をゼロ近辺で維持する金融緩和政策を行って景気を上向かせようとしました。

しかし、40年ぶりの高インフレに直面している今、FRBは、「物価安定に全力をつくす」ため、金融引き締め政策として利上げを行う方針に転換したのです。パウエルFRB議長は、次回3月のFOMCで利上げに踏み切る準備ができているとし、「もはや経済は継続的な金融政策の支援を必要としていない」と述べています。

40年ぶりのインフレ鎮圧局面

インフレ
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「インフレ退治」を目的とした金融引き締めは、1970年代末のボルカーFRB議長の時代以来の政策となります。当時の市場は10%を超える悪性のインフレに苦しんでおり、引き締め政策のおかげで市場の混乱はあったものの、インフレ退治に向けた対応は一定の支持を集めました。

1994年には当時のグリーンスパンFRB議長がさらに大幅な利上げを行いました。当時3%だった政策金利を、1994年2月からの1年間で2倍の6%まで引き上げたのです。そして、一度に0.5%や0.75%といった大幅な利上げも行いました。この利上げは「インフレ予防」を目的とした引き締めでしたが、大幅利上げでも景気は落ち込まず、結果的に長期の景気拡大につながりました。

2004年と2015年に行われた直近2回の利上げ局面でも、米国株式市場は上昇しました。このように、金利を引き上げることは、利上げ直後に多少の株式市場の混乱は予想されるものの、長期的には株価が上がる可能性もあるのです。

ただし、今回の利上げに対する懸念点は、今の株式市場や景気が本格的な引き締めに耐えられるだけの強さを持っているかどうかです。10%超の想定以上のインフレが進み、景気が停滞する中で、高インフレが定着する「スタグフレーション」になると、株式市場は上値の重い展開になります。

スタグフレーションとは「stagnation(景気停滞)」と「inflation(インフレーション)」の合成語です。通常、不景気の時は需要が落ち込むのでデフレ(物価下落)になりますが、原油など資源価格の高騰により、不景気でも物価が上昇することがあり、こうした状況を「スタグフレーション」といいます。景気が後退して、賃金が上がらないのに物価が上昇することは、生活者にとって厳しい経済状況となります。日本では1970年代のオイルショック後にこの状態となりました。

スタグフレーションになると景気が悪化して個人消費も落ちるので、企業業績も悪化します。その結果、株価も下落する傾向にあるのです。

まとめ

コインと働く人達のミニチュア像
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FRBは今後2022年内に7回の利上げを行うだろうと予想されています。インフレに対応するために何回の利上げを行うのか、それが今年の株式市場のもっとも大きな焦点になるでしょう。

米国の株式市場が下落している最大の理由であるインフレですが、今後の金融引き締め政策により、インフレがスタグフレーションになる可能性も否定できません。そうなると生活への影響も大きくなってきます。米国の景気は日本にも大きく影響します。今後、日本でもスタグフレーションへの恐れが高まっているという点には注意が必要です。

インフレやスタグフレーションの時期は、金や原油価格などの商品(コモディティ)が上昇する傾向にあります。資産運用の観点からは、金や原油などを対象にした投資信託を購入するのも有効です。「インフレ対策」としての資産運用も考えたいものです。