個人金融資産は2000兆超え!でも日本が喜べない深刻な理由は
監修・ライター
日銀(日本銀行)によると、個人の金融資産にあたる「家計の金融資産残高」は2021年に初めて、2000兆円を突破しました。家計の金融資産が増えたということは、個人が持つお金が増えたということで、本来なら喜ばしいニュースです。しかし、統計の内訳を丹念に見てみると、違った事実が浮かび上がってきます。
統計開始以降初の2000兆円を突破、一人あたりの資産は1600万円!?
日銀が2022年3月17日に発表した「2021年10~12月期の資金循環統計(速報)」によると、2021年12月末時点の家計の金融資産残高は、前年同月比4.5%増の2023兆円に上ることが分かりました。家計の金融資産残高が2000兆円を超えるのは初めてのことです。
家計の金融資産とは、個人が保有する預貯金や株式などの資産の合計額。家計の金融資産は、2017年から2020年1~3月期までは1800兆円台で推移していました。ところが、わずか1年ほどで、200兆円以上膨れ上がったことになります。その理由としては、新型コロナウイルスの影響で、外出控えなどによる支出の抑制や、この間の株式価格の上昇などが考えられています。
このニュースは一見すると、日本人がお金持ちになったと読めなくもありませんが、実際に日本人はお金持ちになったのでしょうか。日本の家計の金融資産残高の2000兆円を現在の日本の人口である1億2534万人で割れば、日本人1人あたり約1600万円の金融資産を持っている計算になります。しかし、1600万円もの金融資産を持っている方は少数派ではないでしょうか。
また、昨年1年間で日本の家計の金融資産は200兆円ほど増えていますが、これを人口で割ると約160万円になります。この記事をご覧になっている方の多くは現役世代の方だと思いますが、現役世代の方の中でこの1年で160万円の金融資産を増やしたという方も少ないのではないでしょうか。
日本でも進む二極化
何が言いたいかというと、一見景気の良いように見えるこのニュースに、実感が伴わない人が大多数ではないかということです。それもそのはずで、日銀の発表を丁寧に見てみると、個人の預貯金が大幅に増えているわけではないということが分かります。日銀によると、家計の金融資産の内訳は、現金・預金が3.3%増の1092兆円でした。それに対して、株式は15.5%増の212兆円、投資信託が20.4%増の94兆円。
預貯金の伸び率は3%程度なのに対して、株式は15%以上、投資信託に至っては20%以上伸びています。つまり、一見すると日本人がお金持ちになったかのように思えるこのニュースは実は、もともと資金力や能力があった一部の投資家が、一昨年から続く株高の影響で、さらに資産を増やしたということを示したものでしかないというわけです。
金融広報中央委員会の調査によると、一人暮らしの「貯金ゼロ世帯」は、20代が43.2%、30代で31.1%、40代は35.5%もいます。2人以上世帯の貯蓄額の中央値は、20代が71万円、30代が240万円、40代が365万円でした。さらに、生活保護世帯は2000年以降急激に増えており、現在は160万世帯に上ります。
これらを合わせて考えてみると、日本社会はアメリカのように、お金を持っている人は株式投資などでその資産をさらに増やし、持っていない人はより貧困になっていくという社会になりかけていると言えるのではないでしょうか。アメリカは世界最大の経済大国であると同時に、世界有数の貧困大国でもあります。
円安でドルペースでの資産は目減り
さらに見逃せないのが、この10年ほどの間に円の価値が急速に落ちているということ。第二次安倍内閣が発足した当時の為替相場は1ドル80円ほどでした。昨年末時点では1ドル102~103円ほどでしたが、3月30日時点で、今は1ドル120円を突破しています。ここ最近は、ドルだけではなくほぼすべての通貨に対して、円の相場は下落傾向にあります。つまり、たった3%程度、日本円での預貯金が増えたところで、ドルベースで考えてみると預貯金は目減りしているわけです。
円の価値が落ちるとどのようなことが起きるのでしょうか。「海外旅行が行きにくくなるだけでしょ」と考える人も多いでしょうが、行き過ぎた円安は、我々一般庶民の生活を苦しめる原因となります。
たとえば、小麦価格の上昇を主な理由に、日清食品や明星食品、東洋水産といったカップ麺・袋麺の大手メーカーがこの春から10%ほどの値上げを発表しています。小麦価格の上昇は、ロシアのウクライナへの侵攻に端を発した世界情勢の悪化も関係していますが、円の価格が下落していることも無関係ではありません。1ドル100円と1ドル120円であれば、世界情勢が安定していたとしても、輸入する小麦価格は単純計算で20%割高になります。
日本は食料をはじめ、あらゆるモノを海外からの輸入に頼っています。そのため、円安になると、原材料費高騰を理由にさまざまな商品を値上げせざるを得なくなってしまうのです。
アメリカの中央銀行にあたる、連邦準備制度理事会(FRB)は3月16日、アメリカで急速に進むインフレへの対応策としてゼロ金利政策の解除と、政策金利を0.25%引き上げることを決定しました。対して、日本では従来からのゼロ金利政策を維持していくことが決まっています。この金利差により、円安はさらに加速していくことが懸念されています。
今後、もしかすると円での預貯金は、ドルなどの基軸通貨ベースで考えると徐々に、しかし確実に目減りしていくという事態に陥ってしまうかもしれません。そんな事態に陥ってしまっても対応できるように、日本円での預貯金のほかに、ドル建てでの預貯金や投資信託など自衛策を想定しておくことをおすすめします。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。