確定拠出年金はデメリットしかない?FPが向き不向きを解説!
2001年に確定拠出年金制度が導入されてから20年以上が経過しました。加入企業や加入者数は年々増えています。また企業型に加え、個人型の確定拠出年金もiDeCo(イデコ)という愛称で幅広く知られており、自営業者や企業年金制度のない会社に勤めている従業員など、こちらも加入者数は増加しているようです。
税制面をはじめ、確定拠出年金への加入メリットが強調される中、一部では「デメリットしかない」といった意見も見受けられます。本当に確定拠出年金はデメリットしかないのでしょうか?確定拠出年金の基本を整理することで確認していきたいと思います。
確定拠出年金の種類
公的年金制度が2階建てであるということをご存じの方も多いでしょう。基礎年金としての国民年金があり、その上乗せとして会社員や公務員を対象にした厚生年金があります。確定拠出年金はその公的年金を補完する「私的年金制度」の1つです。
少子高齢化が加速して年金保険料を払う働き手が減り、年金を受け取る人が増えるといった状況の今、公的年金が構造的に現在の制度を維持できるのか?と不安に思う声もあがっています。そういう背景もあり、確定拠出年金への注目度が高まっているのです。
従来は「確定拠出」ではなく、給付額が確定している「確定給付確定給付型(=DB)」の年金制度が主流でした。つまり、企業側が従業員の退職に備えて積立を行い、「40年勤めた人には2000万円を支給します」といった具合で運営されます。
一方で、「確定拠出型年金(=DC)」は「拠出額が確定している」制度のため、企業側が従業員のために掛金を拠出してくれているものの、受取額は運用成果次第となります。そして、その運用は従業員それぞれが指図することとなります。
現在は「選択制確定拠出年金」というタイプを導入する企業も増えています。給与とは別に掛金を拠出するのではなく、従来の給与の一部を拠出可能の手当とすることで、企業年金に拠出するかどうかを従業員自ら決めることができます。
「拠出可能の手当」の名前は会社によって様々ですが、ここでは「ライフプラン手当」とします。選択制確定拠出年金の場合は、以下のようにそれまでの給与が「給与とライフプラン手当」の2つに分かれることになります。
企業が導入する確定拠出年金を企業型確定拠出年金と言いますが、自営業や会社勤めの人も、一定のルールの下、個人で確定拠出年金に加入できます。この場合を個人型確定拠出年金と言います。2016年に愛称が公募され「iDeCo(イデコ)」と呼ばれるようになりました。
確定拠出年金のデメリットは?
「老後2000万円問題」もあり、老後資金準備としてメリットが多いと思われている確定拠出年金ですが、デメリットはないのでしょうか?
一定の投資知識が必要、手続きが煩雑な場合も
将来の大切なお金のことですので、個人でも仕組みを積極的に理解する必要があります。企業型の場合、会社が導入に向けた研修会を開催してくれるところもあるようです。しかし、実際、研修を受けても「よく分からない」という人は少なくなく、積立方法などを管理するウェブ上のサービスIDやパスワードが配布されても一度もログインしたことがないという人もいるほどです。
手続き自体は難しくなくても、不慣れな投資の仕組み等を理解し、積極的に取り組むこと自体がストレスとなる場合もあるでしょう。
また個人型のiDeCoの場合は、金融機関を1つ選んで取引を開始しますが、勤務状況によって掛金上限が異なるため、勤務先を介した手続きが必要です。こちらは始めるまでの手続き自体が煩雑と感じる人が多いようです。
60歳まで受け取れない
「デメリットしかない」という意見の最たるものが「60歳まで受け取れない」というものです。20代にとっては受け取り開始までまだあと30~40年あります。その過程で、結婚や子育て、海外旅行、転職、住宅購入など大きな支出が伴うイベントと直面する人も多いでしょう。
まとまったお金が必要な時に、それなりに貯まっていたとしても、必要なタイミングで使うことはできないのです。
資産の受け取り方で課税額が変わるので注意
税務面はメリットばかりと捉えられていますが、思わぬ税負担を強いられることも考えられます。
例えば分割で受け取る場合です。65歳から5年間分割で受け取る場合、このお金は公的年金と合わせて雑所得となります。計算上、一定の公的年金等控除がありますが、それを超えた部分は総合課税の対象となります。
総合課税とは他の所得と合算する課税方法です。65歳以降も働き続ければ、給与所得や事業所得があるかもしれません。不動産の賃料収入がある場合は不動産所得となります。これらは原則すべて総合課税の対象となるため、所得は全て合算され、税額が計算されます。
日本は所得の金額に応じて税率を変える「超過累進税率」で、所得が多ければ多いほど税率が高くなるため、確定拠出年金を分割で受け取ったがために、その期間中は税金が高くなるというケースも考えられます。
そのため、一般的には税制面で大きな控除のある退職所得扱いの「一時金」で受け取る方が良いとされていますが、その場合も、確定拠出年金とは別に退職金がある場合は同様のケースが考えられます。事前に税務面も含め、いつどのように受け取るのが良いのか計画を立てておく必要があります。税金の知識が無い方にとっては、こういう複雑な税金のことを考えること自体が面倒で、デメリットになるかもしれませんね。
手数料がかかる
特にiDeCoの場合、気になるのが手数料です。掛金納付の都度、事務委託先に支払う66円(月額)と国民年金基金連合会に支払う手数料が105円かかるため、利率が0%に近い元本確保型の商品を選んでいると、手数料が差し引かれた分だけ実質マイナスの運用となってしまいます。さらに金融機関によって異なりますが運営管理機関としての手数料も負担する必要があります。
企業型の場合、確定拠出年金の制度自体にかかる手数料は企業が担うため従業員が直接負担することはありません。ただし転職等でそれまで在籍していた会社から次の会社へ、またはiDeCoへ積立金を持ち運ぶポータビリティを行う際に手数料がかかります。iDeCoへの移換手数料は2829円です。企業型から企業型へ移換する場合の手数料の有無や金額は、移換元・移換先それぞれの定めによります。
また、企業型・個人型どちらにおいても、60歳以降に年金として受け取る際には手数料が生じます。1つ1つの手数料は数十円~数千円程度と、長期的な積立額に対してそれほど大きくはありませんが、さまざまな手続きや管理に対して手数料がかかることはデメリットの1つと言えそうです。
投資の上限額がある
上限額が最も低いのは公務員や企業年金のある会社で勤めている人で、年間14万4000円、月換算で1万2000円までが拠出限度額となります。公務員や企業年金のある会社では比較的安定的にかつ高水準の給与をもらっていて、節税への興味関心が高い方も多いのですが、上限額が低いため節税効果も限られてしまうといった点もあります。
特別法人税で課税される可能性も?
特別法人税とは、企業年金の年金積立金に対して税法上課税される税金です。確定拠出年金の場合は積立金の全額に、一律1.173%の特別法人税が課税されることになっていますが、令和5年度税制改正大綱で3年間の課税停止措置の延長が盛り込まれていますので、令和8年3月31日まで課税が凍結されています。今後、凍結解除となれば特別法人税がコストとして運用の足かせとなる可能性があります。
傷病手当金・失業手当等が減額される(選択制DCの場合)
選択制DCで掛金拠出を選んだ場合、その分給与が減額されます。月々の給与が減額となることで税金や健康保険料の負担が減るというメリットもありますが、一方でデメリットもあります。
それは、「減額後の給与が所得水準とみなされる」ことです。従来の給与が30万円の従業員が毎月3万円の拠出をする場合、「月給27万円」がベースとなるため、各種社会保険での補償制度なども月給27万円が基準となります。月給30万円と比べて健康保険の傷病手当金や雇用保険の失業手当等が減額されることになるのです。
確定拠出年金が向いていない人はどんな人?
個人型のiDeCoや選択制DCなど、自分で加入を決めるケースでは、「節税になるから」「有利だと聞いたので」といった感じで、制度自体をよく理解せず加入してしまう人もいます。ここまで説明したようにデメリットもあるので、加入時に慎重に検討して欲しいケースを紹介します。
収入や貯金が少ない人
収入が少なく貯金も無い状況で「iDeCoで老後資金準備」というのはやや危険です。デメリットでも紹介したように掛金は60歳まで引き出すことができないため、まずは予期せぬ支出にも対応できるように、生活費の3カ月~半年分程度の貯金を確保してからの検討をおすすめします。
住宅購入や結婚・出産など大きなライフイベントを予定している人
大きなライフイベントを控えている人も慎重に検討してください。予想以上にお金が必要になることも考えられます。確定拠出年金は長期戦です。目先の大きなイベントが終了してからでも遅くありませんので、慌てなくて大丈夫です。
また、住宅購入直後も慎重に検討すべきです。多くの方が住宅ローンを組むため、しばらく住宅ローン控除という税額控除を適用することができます。そのおかげで所得税・住民税をほとんど負担しなくてよいという状況も考えられます。つまり、住宅ローン控除中にiDeCoに加入しても節税効果がさほど期待できないのです。
専業主婦(主夫)で所得税が非課税の人(払っていない人)
専業主婦(主夫)の方から「私がiDeCoに加入するメリットはありますか?」とよく聞かれます。扶養に入っている人は所得税や住民税負担がないため、掛金が全額所得控除となることはメリットになりにくいでしょう。ただし、必ずしも「向いていない」わけではありません。
iDeCo加入後、積極的にリスクを取って運用できるのであれば、加入する意義はあるでしょう。節税のメリットはなくとも、60歳までに資産が元本以上に大きく膨らむ可能性があるからです。
しかし、もし元本が減るリスクを取りたくない場合は必然的に元本確保型の商品を選ぶことになります。そうすると節税効果もない上に手数料もかかることになり、結果的にマイナスの運用になります。それならば別の手段でお金を貯めた方が良いということになります。
確定拠出年金のメリットは
「デメリットしかない」といった論調に対する検証という位置づけで1つ1つ確認してきましたが、やはり確定拠出年金にはメリットも多いのです。特に普通に投資信託の取引を行う場合と比べて、税務的なメリットが際立ちます。
1. 掛金が全額所得控除になる(個人型・企業型のマッチング拠出部分が該当)
小規模企業共済等掛金控除を例にすると、以下のように節税できます。
例(概算):掛金月額2万円(年間24万円)所得税10%、住民税10%の場合
→ 所得税2万4000円+住民税2万4000円=4万8000円の節税に
2.運用益が非課税になる
投資信託などの分配金や売却益は、本来なら20.315%課税されますが、確定拠出年金の場合は非課税になります。
3.受取時も退職金または年金として各種控除が適用される
一時金で受け取る場合:退職所得
分割の場合:雑所得(公的年金等控除)
例:30年拠出し、一時金で受け取る場合 → 退職所得控除として1500万円まで非課税
またこれまで「デメリット」として紹介してきた点も、見方を変えると「メリット」となります。例えば「60歳まで受け取れない」という点は、ある意味60歳まで強制的にお金を貯めることができるのです。すぐに中途解約できてしまう定期預金とは異なり、確定拠出年金は使いたくても使えません。老後資金を貯めるという大きな目的を果たす上では「メリット」にもなりそうです。
まとめ 本当に「デメリットしかない」の?
・「デメリットしかない」わけではありません
・加入者によってはデメリットや注意点が多いことも。慎重に検討を
・デメリットを理解した上で上手に付き合えばメリットの方が多い
結論として、「デメリットしかない」ということに対して、筆者としては「ノー」という見解を示したいと思います。もちろん、一定のデメリットはありますが、しっかり制度を理解すれば、上手に付き合っていくことができると思います。
あえて、最大のデメリットを挙げるのであれば、「確定給付型のタイプと比べ将来の受取額が確定していない」という点です。確定給付であれば、セカンドライフを描きやすいのですが、いくらもらえるか分からない状況だと心配の種になりそうです。もちろん、運用次第では「確定給付制度より随分と多い金額を老後資金として準備出来た!」という状況も期待できます。
デメリットをメリットに変えるには、やっぱり制度自体、そして資産運用のことをしっかり学ぶのが近道のようです。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。
確定拠出年金についてのQ&A
Q.国民年金を滞納していると確定拠出年金に加入できませんか?
A.現在滞納している人や免除をしてもらっている人は加入できません。国民年金や厚生年金に加入し、保険料を納付していることが条件の1つとなっているためです。ただし、過去に滞納時期があっても現在はきちんと納付しているのであれば加入できます。
Q.企業型DCのある会社を退職して自営業になった場合、移換の手続きをしなかったらどうなりますか?
A.退職後6カ月以内にiDeCoへ移換をしてください。もし6カ月を経過しても何も手続きをしなかったら「自動移換者」という位置づけで特定運営管理機関(国民年金基金連合会)で現金のままプールされ、さらに4カ月経過すると月52円の手数料が生じてしまいますので要注意です。