お金

月1万5000円も医療保険を払う母が心配…老後の保険って必要?

うちの家計簿 世継 祐子

月1万5000円も医療保険を払う母が心配…老後の保険って必要?

【画像出典元】「stock.adobe.com/fizkes」

FPオフィス「フォルテシモ」へ依頼されたお客さまの家計簿を、mymoで診断する【うちの家計簿】。今回は、40代女性Aさんからのご相談。一人暮らしをしている70歳のお母さんの家計簿を診断します。

40代女性会社員Aさんの相談内容

父が亡くなって母が一人暮らしになりました。歩いていける距離に住んでおり、週に1回は一緒に食事をしています。数年前は生命保険料の支払いが5000円程度だったように思うのですが、今年、心配になっていろいろ追加したようで、現在は1万5000円程度支払っているようです。医療保険とがん保険に加入しているようですが、契約内容をよく分かっておらず、年金生活の中で必要な支出なのかと気になっています。最近は私が母のお金の管理を手伝っているので、老後の保険の考え方についてアドバイスいただければと思います。

Aさんのお母さんの家計簿は・・・?

1カ月あたりの年金額は12万6350円。自宅は持ち家で年金収入の範囲内で家計をやりくりされています。医療保険とがん保険で月額1万5000円程度支払っていらっしゃるようです。心配だから、と最近追加で保険に加入されたとのことですが、これからますます高齢になっていく中、保険のことをどのように考えたらいいか、というご相談です。

公的医療保険の種類

日本では国民皆保険制度といって、すべての国民が職業、年齢に応じて公的な医療保険制度に加入する仕組みになっています。

公的医療保険の種類

●医療保険
・組合管掌健康保険、協会けんぽ、共済組合、共済制度
→会社員、公務員、私学教職員とその家族が対象
・国民健康保険
→農業・漁業・自営業とその家族、自由業・無職の方が対象

●高齢者医療
・後期高齢者医療制度
→75歳以上の方、65歳から74歳で一定の障害がある方(本人の申請に基づき、広域連合の認定を受けた方)が対象

職業、年齢によって加入する公的医療保険が変わります。Aさんが加入している公的医療保険制度は「協会けんぽ」で、お母さんが加入されているのは「国民健康保険」です。

この国民全員が加入している公的医療保険制度ですが、自分がどの医療保険制度に加入しているかよく理解されていない方もいるので、しっかり確認をしておきましよう。
公的医療保険は、病気やけがで医療サービスを受けた場合や、出産、死亡時に給付対象となります。

老後は医療費の自己負担割合が変わる!

公的医療保険制度により、医療費は下記のグラフのように、70歳以上になると自分で負担する割合が減っていきます。

補足として、自治体によっては、義務教育終了までの期間等において、医療費の自己負担分に対する独自の助成制度があります。対象となる年齢や制度内容は自治体によって異なります。また70歳以上から74歳、75歳以上で現役並み所得者(課税所得が145万円以上で、年収が高齢者複数世帯で520万円以上、高齢者単身世帯で383万円以上目安)は3割負担となっています(2023年9月現在)。

Aさんのお母さんは現在70歳なので医療費の自己負担は2割。年齢を重ねると健康に不安を覚え、追加で保険に加入して、備えておきたくなる気持ちは分かりますが、70歳以降は公的医療がカバーしてくれる部分が増えることをしっかり理解しておくことがとても大切です。

令和4年10月1日から、現役並み所得者を除き、75歳以上の方等で一定以上所得がある方は、医療費の負担割合が1割から2割に変わりました。要件は以下の通りです。

また窓口負担割合が2割の方には、外来の負担増加額を月3000円までに抑える配慮措置があります。今後さらに制度が改正される可能性もありますし、自治体によって内容が異なる場合もあります。毎年しっかり公的医療保険の内容を確認しておきましょう。

公的医療保険で対象となるもの、民間の医療保険で対象となるもの

医療保険
【画像出典元】「stock.adobe.com/BillionPhotos.com」

医療保険というと医療全般で利用できるようにイメージするかもしれません。
公的医療保険では、Aさんのお母さんのように70歳以上の方が歯科で虫歯などの治療をした際、「国民健康保険証」により自己負担は医療費の2割負担で済みます。

一方で民間の医療保険では、入院を伴わない通院のみでの歯科治療は給付の対象とならず、医療費の「入院」「手術」を保障の対象とするものがほとんどです。一般的な医療保険で給付対象となる「通院」とは「入院」前後の一定期間内の通院を対象としたものがほとんどで、入院を伴わない医療費は対象となりません。同じ「医療保険」ですが保障の範囲や内容が違うことをしっかり理解しておきましょう。

公的医療保険適用外の自己負担になるものとして「先進医療」「患者申出療養」にかかる費用、個室や少人数の病室に入院した時の「差額ベッド代」などがあります。「先進医療」「患者申出療養」についてはそれぞれの利用の流れ、制度、費用を理解した上で民間の保険を検討するようにすることが大切です。

Aさんのお母さんは心配だからと保険に加入されたものの、内容をよく理解されていないとのこと。内容が分からないと請求ができないことも考えられますので、再度確認し、さらに今後公的保険で、医療費の負担割合が軽減されることや、保障の範囲をしっかり理解した上で民間の保険を検討されることをお勧めします。

老後の保険の考え方

考える高齢の女性
【画像出典元】「Dean Drobot/Shutterstock.com」

がんになったら心配だとがん保険にも加入されたとのことですが、がんになったときに何が心配なのかを具体的に考えてみましょう。がんになること自体が心配であれば、早期発見が一番大切ですので、まずは有効な検診を定期的に受けることが大切でしょう。またがんになったときの医療費を心配している場合、一般的な治療費は公的医療保険の対象となり、自己負担割合が今後どの程度軽くなっていくかを事前にきちんと確認しておけば、必要以上に不安になることはないと思います。

「高額療養費制度」といって、1カ月あたりの医療費(自己負担分)が高額になった場合には、自己負担額が軽くなるよう限度額も設けられています。年齢、収入等によって自己負担限度額が異なりますので、現在の1カ月当たりの医療費上限額を確認しておくと安心です。

がんを含めた医療費をカバーする保険は、公的医療保険の自己負担割合が軽減されるのを念頭において民間の保険を選択し、貯蓄などの現金で対応できる支出かどうかも考えて検討することが大切です。

現在の月額保険料1万5630円をこれから90歳までの20年間加入し続けるとしたら、1万5630円×12カ月×20年で375万1200円もの支出となります。まずは現在加入している保険の保障内容を確認することをお勧めします。

人生100年時代、介護が必要になった際のデイサービスの費用や施設入所の費用などは医療保険の支払いの対象とはなりません。今後の生活の中で医療費以外にかかるお金を長期的かつ具体的に考え、お金の使い方を選択していくことが大切です。

家族(情報)登録制度、指定代理請求人を決める

高齢の女性を支える若い女性
【画像出典元】「stock.adobe.com/New Africa」

保険商品によっては、契約者が予め家族の連絡先を生命保険会社に登録しておく「家族(情報)登録制度」というものがあります。地震・水災・台風などの災害時や高齢のご契約者に連絡が取れない場合などに、生命保険会社が登録している家族へ確認などができる制度です。また、登録した家族が契約内容の照会や給付金請求書など、書類の取り寄せをできる生命保険会社もあります。

「家族(情報)登録制度」は、登録された家族が契約内容の照会を行うことは可能ですが、保険金請求を代わりにできるわけでありません。請求手続きを家族が代理で行う場合は「指定代理請求人」を指定しておく必要がありますので、契約内容確認時にあわせて、制度に登録済みか確認しておくことをお勧めします。

今後お母さんがご自身で保険を請求できないケースがあるかもしれません。Aさんはお母さんのお金管理もお手伝いしているとのことですので、お母さんの考えなども伺って制度を上手に利用していただければと思います。

アドバイスを受けたAさん談

健康保険の自己負担の割合については自分が3割負担なので母も3割負担だと思っていました。75歳以上は1割負担になるんですね。負担割合や健康保険の種類が年齢、職業などによって変わることは具体的に考えたこともなかったので、自分自身のためにもよかったです。

国民健康保険制度の内容を確認した上で、加入している民間の保険の内容も、母と一緒に説明を聞いてみようと思います。

家計簿診断を終えて

老後は医療費のことが気になる方も多いかもしれませんが、まずは公的な医療保険制度をしっかり理解した上で加入を検討されることをお勧めします。

また40歳以上の方は、公的な医療保険制度とあわせて、公的介護保険制度の内容も確認しておきたいですね。特に介護保険は利用したいと思ったときに自分では申請ができない場合も考えられます。利用や請求を手伝ってくださる方を具体的にイメージして一緒に制度を理解し、いざというときに活用できるようにしておくことが重要です。