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熱狂のワールドカップ、その裏側にあるのはやはり黒い思惑なのか?

経済とお金のはなし 中新 大地

熱狂のワールドカップ、その裏側にあるのはやはり黒い思惑なのか?

【画像出典元】「Eugene Onischenko/Shutterstock.com」

こんにちは、ライター/ランサーズ新しい働き方LABコミュニティマネージャーの中新大地です。

4年に1度開催されるサッカーの世界大会、FIFAワールドカップ。
世界人口の約半分が視聴する(2018年大会データ)とも言われるこの大会では、多くの人・情報・お金が動いています。

しかし、今回の2022年大会はこれまでの大会とは一線を画す、 “異常”とも呼べる状態になっていることをご存知でしょうか?

その裏にあるのは、純粋な「サッカーをより盛り上げたい」という熱意か、そうした想いと逆行する黒い思惑か。

現在進行形で盛り上がる大会に水を差したくはありませんが、知っておかなければならない問題が報道されているのも事実です。今回はスポーツが見せる別の顔について、わかりやすくご紹介します。

※本記事は、複数の報道によってもたらされた情報を集積して解説するものです。執筆者に、特定の国・個人・企業などを攻撃する意図はありません 

脱原油産出国へ、カタールがワールドカップにかける期待とは

ドーハのウォーターフロント
【画像出典元】「stock.adobe.com/BlueOrange Studio」

今回のテーマを論ずるためには、まずカタールがどういう国であるかを知らなくてはなりません。

カタールは、いわゆる原油の産出国として有名な中東の小国です。東京から首都のドーハまでは飛行機で12時間ほどの距離に位置し、面積は秋田県くらいとイメージするとわかりやすいです。周辺には同じく原油産出国として有名なサウジアラビアやイランなどの大国があります。

ただ、2021年1人あたりのGDPでいうと、6万8622ドル(約957万円)で世界8位。7位のアメリカの6万9422ドル(約968万円)と同程度となっています。ほかの中東国はトップ10入りしておらず、世界的にみてもかなり裕福な国であることがわかります。ちなみに日本はというと、3万9031ドル(約548万円)で世界27位です 。
※1ドル139.4円で計算

この富の根源となっているのが、冒頭で挙げた通り原油(石油)というわけですが、カタールはこの「原油産出国というレッテルを剥がしたい」と思っていると考えられます。今回のワールドカップ開催になぞらえると、「観光立国と国際社会で一定の地位を獲得することをねらっている」と考えればより自然です。

ワールドカップの開催には、招致にいたるまでのロビー活動のほか、試合を行うスタジアムの建設、選手や観光客を収容するための宿泊施設や、彼らを現地へ運ぶためのインフラの整備などが欠かせません。

これらを世界の舞台で高い品質で提供できることをアピールできれば、周囲の原油産出国に先駆けて原油以外にも魅力があることをアピールできますし、国際社会における認知度と発言力の向上も果たせるわけです。

浪費・労働・人権問題、疑問視されるカタールの動き

ワールドカップに大きな期待を寄せるカタールですが、その動きを疑問視する国・企業は少なくないようです。前述した通り、ワールドカップの日程を滞りなく進めていくには、それなりのキャパシティを持つスタジアムが複数必要です。

カタールはそのスタジアムを8つ用意したのですが、なんとそのうち7つが新設。しかも、収容人数はどれも約4万人前後と立派なものばかりで、決勝トーナメントなどが行われるルサイル・ アイコニック・スタジアムにいたっては約8万人。

秋田県にこのようなスタジアムが8つもあるのは、(例に挙げた秋田県の方には悪いですが)「多すぎる」というのが正直なところ。

また、スタジアムのほかにも、周辺にはショッピング・リゾート・ビジネスなどが行える計画都市や地下鉄の建設も行われており、大会の開催費用はなんと約32兆円。2014年のブラジル大会は約2兆2000億円、2018年のロシア大会は約1兆3000億円、2021年の東京オリンピックが約1兆4200億円であったことを考えると、途方もない金額であることがわかります。

「カタールはワールドカップを口実に、都市計画を強引に進めている」「開催費用には相当な無駄遣いが含まれているのではないか」とする声もあります。

このほかにも、大会の準備を急速に進めた結果、あちこちの建設現場で多くの移民労働者が劣悪かつ不当に安い報酬で働かされている上に死亡者が続出しているとする、人権擁護団体ヒューマンライツウォッチの報告もあります。

さらには中東の国に根強く残る女性蔑視やLGBTへの厳しい取り締まり、大会を招致したFIFAの監督責任や汚職の疑い。暑いカタールでの開催を考慮した、冬季開催へのスケジュールの強引な調整など、複数の問題が山積するなか、大会が行われていることは事実です。

巨額の金と権力、そして発信力が絡むスポーツ界

コインと地球の模型
【画像出典元】「stock.adobe.com/gopixa」

これまで述べてきた通り、スポーツ界、特にサッカーにおいては非常に大きな金銭が動いています。放映権料の高騰によるリーグやクラブ収益の増加は、選手の移籍金を数百億円規模にまで押し上げました。その裏にはリーグやクラブだけでなく、代表チーム、そしてそれらに関わる国のさまざまな思惑や権力が動いている場合もあります 。

大会で活躍する選手には、素晴らしいプレーだけでなく、広告塔としての発信力も期待されるようになりました。また、大会そのものにも高い注目がされているため、多くの企業がスポンサーとして名乗りをあげています。ちなみに今回のカタール大会では、仮想通貨関連企業のクリプトドットコムが公式スポンサーになったことが、大きな話題となりました。

これからの企業経営や国際社会での成長過程において、スポーツ業界は無視できない超一大産業となっています。

「The Beautiful Game」、サッカーは美しいスポーツだが…

サッカー界で時折投げかけられるスローガンである「The Beautiful Game」の通り、そこで繰り広げられるさまざまな素晴らしいプレーや人間模様には賞賛を送らざるを得ません。それがワールドカップという大舞台であればなおさらです。そもそもスポーツというものは、政治や宗教などとは切り離して考えられるべきものです。

しかしながら、さまざまな問題と思惑渦巻くカタール開催のワールドカップ。その陰にある人々の苦しみを無視することは難しいです。

9月にはイングランドやオランダなどワールドカップに出場する8カ国のサッカー連盟が、差別反対を示す虹色のキャプテンマークを着用できるよう、FIFAに要望書を提出しました。
デンマーク代表が着用するユニフォームを手がけるスポーツブランド「ヒュンメル(hummel)」は、カタールで起こっているとされる労働・人権問題に反対する形で、ブランドロゴと代表エンブレムを目立たない無地にすることを発表しています。

こうした動きや視点は国や企業だけでなく、個人の間にも広がりつつあります。
今回のワールドカップをきっかけに、現代社会で起きている問題に目を向けたり、信頼できる機関などが行っている募金活動に参加してみるのも良いのではないでしょうか。