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「タイパ」重視の消費、結果コスパが悪くなってもアリなの!?

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

「タイパ」重視の消費、結果コスパが悪くなってもアリなの!?

Z世代の常識「タイパ」 未来の辞書にも載るかも?

タイパ、という言葉、ライフプラン3.0世代の人なら一度は使ったことがあるのではないでしょうか。

コストパフォーマンスの略であるコスパに対し、タイムパフォーマンスの略として使われる「タイパ」が広く認知度を高めつつあります。

三省堂が「今年の新語2022」の大賞としてタイパを発表したことが話題となりました。そこでは新明解国語辞典、大辞林などに収録した場合の語彙解説例も載せられています。

これはタイパという言葉が一過性のものではなく、将来的には辞書に載ってもおかしくない、という判断を示したということです。

三省堂「今年の新語2022」

早送り動画再生や飲み会拒否は悪いことなのか

タイパの使用例としてよく使われるのが、大学のオンライン講義や配信動画を1.5倍再生するとか、従来と同じことを短時間でこなす方法です。

あるいは、ダラダラと行われる上司との飲み会は、誘われても遠慮なく断るようなライフスタイルもタイパの例として紹介されます。

私は合理的な判断としての「ムダな時間を削る」というのは尊重されてしかるべきだと思います。映画を1.0倍で見る方が情緒がある(制作者の意図に沿う)といっても倍速や15秒飛ばしができる時代に自宅でどう見るかは自由です(そもそも視聴を止めてしまうことだってできるわけです)。

また、意味のない「おつきあい」を避けるのもおかしなことではありません。先輩が全額ご馳走してくれるのならともかく(1980年代まではそういう先輩がしばしばいた)、自分のお金と時間を使って楽しくない宴席に参加する必要はないでしょう。接待ゴルフなどもそうです。

ただし、仕事は数字だけで成立するものではないのがちょっとややこしいところです。社内で気持ちよい人間関係を維持したほうが自分も快適であったりするので、たまーに数千円払うくらいの「つきあい」はむしろタイパが悪くないかもしれません。そのあたりのバランスは考えてみるといいでしょう。

(たとえば私は、夏の暑気払いと年末年始の忘年会か新年会の2回は参加することにしています。そうすると相手側も「今日は来てくれた!」となるので、結果としてわずか2回の宴席で1年気持ちよく過ごせることになり、タイパが高い飲み会となっています)

タイパの話題、一歩進めて「お金の問題」としても考えてみよう

さて、動画再生速度の問題は単なる時間節約の問題ですが、飲み会などは「時間とお金」のトレードオフをどうするかという問題でもあります。お金を払ってつまらない時間を強いられるからこそ断りを入れるわけです。

タイパはお金の問題とリンクしたほうが頭の整理が進むと私は考えています。タイパは時間の節約ばかり取り上げられますが、逆もありえます。

例えば、楽しみにしていたアニメ映画が封切りされたら最初の週末に映画館に行くのもタイパの一種です。

これは正規料金を払い、1倍速の再生で時間も拘束されているので、一見するとタイパが悪いように思いますが、「人より早く、満足や感動を買った」と考えれば価値の高い行動であり、タイパが高いと言えます。

(それほど興味がなければ、1年待って動画配信まで視聴を遅らせる選択もまた、タイパです)

幸福(ウェルビーイング)学では、モノの消費(物欲)にお金を使うより、行動や感動の消費にお金を使うほうが幸福度が高まるそうです。友だちや恋人とディズニーランドやUSJへ行くのも「楽しい時間と記憶」に価値を認めているからこそムダとは考えず、お金を払っているわけです(いやいやながらつきあう場合は、同じ遊園地でもタイパは低くなる)。

さて、タイパ重視派の行動を「お金とタイパ」の関係で考えてみると以下のような傾向があると思います。

・自分の時間を多く生み出すことにはお金を使う

・感動を買うことにはお金を使う

・言い換えれば無感動にはお金を徹底的にケチる

タイパはコスパとセットで考えることで、お金の問題に指針を示すことができます。単に時間を節約するだけがタイパではありません。使った時間とお金で、自分に十分な感動や喜びを与えてくれるのかを考えるのがタイパの本質だと思います。

あなたにとっての「タイパ」、一度考えてみると自分なりのお金を使うルールが見えてくるはずです。

ただし、「時間」は自分やお金を育てる力でもある

そしてもうひとつ、タイパとお金の問題を考えるとき忘れて欲しくないことがあります。それは「時間」は自分やお金を育てるために必要な力でもある、ということです。

私たち個人が人間としてあるいは社会人として成長していくためには時間が必要です。あなた自身の成長のためには時間が必要なことも忘れないでください。いきなり自分のビジネススキルが2倍になることはありません。

ただし資格取得などは短い時間で合格できたほうが効率的ですからタイパを工夫する出番です。効率的に勉強してたくさんの資格をとるのはアリでしょう。

資産運用においても「時間」がカギとなります。企業や経済の成長には時間がかかるからです。新製品は一朝一夕にできるわけではありませんし、試作品が市場に到達するまでは何年もかかります。Apple社のiPhone、トヨタ自動車のプリウスが世に出るまでには何百回もの失敗とやり直しがあったのです。

実際、Appleが何度も倒産しかけていたのは有名な話ですし、Amazonもこんなビジネスモデルはあり得ないと何度も批判されていたものです。今ではこの2社とそのビジネスモデルは世界に欠かせないものとなっています。そこには企業の成長を見守るだけの時間が必要でした。

タイパと資産運用を考えるとき、短期的に大きく増やすという発想が考えられますが、短期的な増やし方は企業の実態を伴わないマネーゲームになってしまいます。

ここは「今はすぐ必要としない余裕資金を企業や経済成長に使ってもらって、増やす時間をあげる」という感覚を持って欲しいと思います。NISAやiDeCoを活用した長期投資を心がけてみてください。

注意したいタイパ 「お金を先に借りる」こと

ところで、インターネットでタイパについて検索をしていると、「先に欲しいものをゲットして、お金は後で支払うのもアリ」というページにヒットすることがあります。

どうしても欲しい高額のものを、お金が貯まるまで待っていたら時間がかかるが、お金を借りてしまえばすぐに喜びや感動が手に入る、ということのようですが、これはタイパとしてはちょっと注意が必要です。

確かにすぐに目的のものが手に入った代わり、あなたは商品の値札以上の支払いをすることになります。クレジットカードの分割払いやリボ払い、キャッシングなどを用いれば利息が生じるからです。

何か欲しいものがあったとき、「お金を貯める時間」もその満足の一部だと考えてみてください。毎月1万円ずつ貯金をして1年後に12万円で友だちと旅行に行くとしたら、旅行当日の喜びはもちろんですが、コツコツ貯めている1年間も「1年後には楽しい旅行が待っている!」という期待感を生み出します。仕事をがんばるモチベーションアップにもなります。これもまたタイパとして価値があるものだと思います。

これが全額キャッシングで旅行に行くとどうなるでしょうか。行ったあとの数日は楽しかったものの、実際にかかった費用以上のお金を返す日々がその後続くことになります。1万円ずつ返済したとしたら13カ月ないし14カ月かかるでしょう(金利によります)。返済の日々は生活を切り詰める必要がありますから、ただただ苦しいものです。

将来の夢に向かってお金をコツコツ貯めることもあなたのタイパだと考えてみてください。きっとそのほうが全体としての満足度は高いものとなるはずです。