各国政府はなぜTikTokを規制する?その背景にあるものとは
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こんにちは、コピーライター/ランサーズ新しい働き方LABコミュニティマネージャーの中新大地です。
TwitterやFacebook、YouTubeなど、個人がSNSを使って自由に情報発信ができるようになった現代。サービスが増えるにつれて、その表現方法もさまざまになりました。
なかでも10代を中心に人気を集めているのが、音楽やダンスとともにテキストやエフェクトを追加した、ショート動画をシェアできる「TikTok」です。
しかし、そんなポップなSNSであるTikTokに、各国政府からの厳しい規制が検討・実施されているといいます。今回はその背景にある疑惑や各国の動きについてご紹介します。
※本記事は、複数の報道によってもたらされた情報を集積して解説するものです。執筆者に、特定の国・企業・個人などを攻撃する意図はありません
圧倒的な拡散力と中毒性、TikTokに募る不安と疑惑
元々TikTokは、2016年にByteDanceが中国でリリースした「抖音」というアプリを、世界向けにリニューアルしたものです。現在のユーザー数は2021年時点で約16億人となっており、これはTwitterの約3億8000万人をゆうに超え、YouTubeの約22億人に迫るものです。
また、TikTokはショート動画をシェアできるSNSとして知られており、その手軽さが売りです。しかしそのユーザー数の多さや手軽さが故に、真偽の確認が不十分な風説の流布や圧倒的なスピードで広がる炎上や中傷、依存性の高さが不安視されています。
また、ByteDanceによる相次ぐ外国企業買収への反感、中国当局の介入による個人情報や機密情報の抜き取りなどが噂されるなどの問題も抱えています。
各国で進むTikTok規制、その方法と中国の反応
こうした事態を受け、複数の国でTikTokの規制が進んでいます。
もっとも、ByteDanceは2017年に米動画アプリ「Musical.ly」を買収した際に高まった反感に対し、TikTokを中国事業から切り離すといった米側への歩み寄りを見せています。これは、TikTokに中国当局が介入しないことのアピールでもありました。
しかし、2021年7月には、貿易摩擦や情報の保護、安全保障上の脅威などを背景に、トランプ前大統領が米国でのTikTok利用禁止を提唱。
ところが一転、約1年後の2021年6月にはバイデン大統領が、その主張を撤回するに至っています。
紆余曲折あったTikTokへの姿勢ですが、現在では再び規制の流れが強まっており、それは米国のみならず世界にも広がりつつあります。日本では政府関係者の端末での利用を禁止。EUでも欧州委員会職員の端末での利用禁止が公にされています。
米国に至っては政府関係者への規制に留まりません。2023年2月には、マイケル・ベネット上院議員がTikTokをアプリストアから排除するよう、AppleとGoogleに要請を出し、民間人の利用も禁止される可能性が出ています。
ByteDanceは、米国の動きに『性急な法案の前進に失望』と発表したほか、中国政府も『国家権力の乱用と他国企業への不当な抑圧』などと反応。対立は深まるばかりです。
TikTokアプリ内では、2023年3月に世界中の18歳未満のユーザーに対して、1日あたりの利用時間を60分にするなどの機能を追加。若者の保護を謳うことで、全面的な禁止を回避したい動きを見せていますが、状況は芳しくありません。
高まる米中の緊張、ロシアとウクライナの問題も背景に?
再び強まるTikTokへの世界からの厳しい目は、単一の企業と国の対立としてみるよりも、米国と中国の国家間の対立、もっと広く言えば米国を中心とした西側諸国と、ロシアや中国陣営との対立と見ることもできるでしょう。
ロシアのウクライナ侵攻やサイバー戦、あるいはそれらに対する西側諸国のウクライナ支援。米国やカナダ、日本にも飛来したとされる偵察気球の問題など、世界の平和を脅かす事態が続いています。特にサイバー戦に関しては、かつてSFの世界で語られていたようなことが大規模に仕掛けられるようになりました。電力施設への攻撃によるインフラの機能停止、政府関連施設や病院が持つデータ・Webサイトへのハッキングや破壊行為。
現代の戦争は、目に見えないところでも、確かに起こっているのです。
こうした経緯を踏まえると、TikTokを「若者が歌って踊るポップなSNS」と簡単に片付けるわけにはいきません。政府関係者の機密情報はもちろん、国民の個人情報からもプライバシーや資産を侵害・悪用される可能性があります。各国政府としては、自国の主権や国民の安全を脅かす芽は、早いうちに摘み取っておきたいというわけです。
分散型SNSがソーシャルの新しい形をもたらす?
TwitterにしてもFacebookにしても、今回取り上げたTikTokにしても、その背景には特定の国や企業などの中央管理者の存在が見え隠れします。
こうした「中央集権型SNS」に対して、ブロックチェーン技術を活用した「分散型SNS」が自由で公平な新しいSNSとして注目を集めています。代表的なものでは、Twitterの元CEOジャック・ドーシー氏が開発を支援する「Bluesky」、ドイツ人プログラマーのオイゲン・ロチコ氏が手がけた「Mastdon」などがあります。分散型SNSではユーザー間でお互いの投稿や情報を共有・管理することが可能で、 特定の国・企業に介入されることはありません。
前述のMastodonに関して言えば、投稿機能やフォロー機能などの面では、Twitterとほぼ変わりがありません。ただ、決定的に違うのはユーザー自身がインスタンスと呼ばれるサーバーを立ち上げられることです。このインスタンスは、趣味、職業、居住地域などさまざまな事柄で分けられたコミュニティのようなもので、誰もが自分にとって居心地の良い場所をつくることもできますし、他の人がつくったインスタンスを訪れることもできます。こうした自由度の高さはTwitterなどの中央集権型SNSにはないものです。
良くも悪くも多くの人々を魅了するSNSは、まだまだ進化の過程にあります。懸念点があることは事実ですが、できることなら国や人種などの垣根を越えて、純粋に交流を楽しめる場であって欲しいものです。