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米国のデフォルト騒ぎ。地元メディアの反応と今後の債務の行方は?

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

米国のデフォルト騒ぎ。地元メディアの反応と今後の債務の行方は?

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今年5月に開かれた「G7広島サミット」。その期間中に話題になったアメリカのデフォルト騒ぎですが、なぜあれほどの騒動になったのでしょうか。アメリカ現地から地元メデイアや専門家の反応も含めて報告します。

そもそも米で起こったデフォルト騒ぎとは?

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今年5月に広島で開催されたG7サミット。開催前から期間中にかけてアメリカで「大変な問題」が起きていたため、バイデン大統領のサミット参加はオンライン形式になる可能性が囁かれていました。大統領は結局、来日しサミットに参加したものの、その後に予定していたオーストラリアなどへの訪問を見送り、日程を短縮してアメリカに急いで帰国しました。

この「大変な問題」とは、いわゆる国の借金問題でした。国(政府)が借り入れ(借金)をできる資金の上限額は法律で定められていて、31兆4000億ドル(当時の為替相場で約4200兆円)でしたが、今年1月にこの上限に達したため、バイデン政権は上限額を引き上げようとしていました。しかしこの債務上限問題(デフォルト回避のための債務上限の引き上げか一時停止)を巡り、野党側を中心に強い反発があり、議会の承認が得られる見通しが立っていなかったのです。

議会の承認なくして上限の引き上げはできません。6月には政府の資金が足りず借金を返せなくなるデフォルト(債務不履行)に陥る恐れがあると、懸念されていました。

BBCの動画がわかりやすく解説しています

ちなみにアメリカでは、現政権である民主党と共和党の間であらゆる問題が争点となります。特に22年の中間選挙以降は、ねじれ議会となっています。債務の上限についても政治対立し、共和党は債務上限引き上げと、支出の大幅削減の組み合わせを提案しており、そうなると教育、住宅、社会福祉などの政策の予算削減が求められるとされていました。

結局デフォルト(債務不履行)は回避

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早ければ6月1日にもデフォルトに陥る可能性が浮上し、バイデン政権は「最重要課題」として問題に向き合っていました。しかし、いよいよ6月に入り、議会上院は債務上限の適用を2025年1月まで一時停止する法案を可決し、デフォルトは回避されたのです。最悪の事態が避けられ、世界の金融市場で安堵が広がりました。

米メディアの反応

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アメリカにとってデフォルト(債務不履行)は何としても回避せねばならない最重要な問題の1つでした。そもそも政府発行の国債は信頼性が高く安全な資産として知られているのに、デフォルトにでも陥ったならその信用はとたんに無くなり、アメリカの国としての威厳や信用も失ってしまいますから。

デフォルトになると、株式や為替など金融市場や経済に壊滅的な影響を与え、景気後退によって失業者が増えます。もはや一国だけの問題ではなく、世界金融危機という大混乱に陥る可能性があったため、関係性の強い日本にとっても「対岸の火事」ではありませんでした。

5月24日付のNPR(米主要メディアの1つ。本部ワシントンD.C.)は「アメリカのデフォルトが本当にまずい理由」という記事で、デフォルトに陥ったら具体的に市民生活がどうなるかを予測しました。

投資家から生活保護の受給者まで、さまざまな人の生活への影響が指摘されました。例えば、社会保障(年金)やメディケア & メディケイド(医療費などの恩恵)を受けて生活している人(退役軍人、低所得者、高齢者など)は、今後政府からの給付金を受け取れなくなる可能性がありました。また、学校や道路への資金が減ることで運営が不可能になったり、公務員への給料の支払いや政府と契約を結んでいる企業への支払いの遅れや停止の可能性もありました。

5月25日付のWABI(メイン州のローカルニュース)は、デフォルトに対して個人ができる「備え」を紹介しました。例えば、外食などを減らして支出を控えるだけでなく、政府からの支払いが遅れる可能性に備え、少なくとも3ヵ月分の生活費を確保せよ、ということ。またデフォルトになると金利に(さらに)大きく影響が出るため、そうなる前に高金利のクレジットカードや個人の借金、住宅ローン、自動車ローン、学生ローンを返済することを奨励しました。

デフォルトが回避しホッとしたのも束の間、6月16日付のニューヨークポストは、債務の上限の適用を一時停止したことで、国の借金がさらに増えていることを指摘しています、法案可決およびバイデン大統領の署名から2週間後には、史上初の32兆ドル(約4540兆円)を突破したということです。

ホワイトハウスと共和党のマッカーシー下院議長の交渉担当者が、今後10年間で1兆5000億ドル(約213兆円)の歳出削減に合意したものの、アメリカの国家総債務は2033年まで依然高く、50兆ドル(現在の為替相場で7000兆円)を超えると予測されています。また、政府がこのままのペースで支出し続けると、30年後の2053年には127兆ドル(現在の為替相場で1万8000兆円)という驚異的な額の見立ても!

「今回、債務上限の下で債務不履行を回避できたのはラッキーだったが、この国のより深刻な問題は、増大する債務そのものを野放しにしていることだ」。再び起こりうる金融危機について、専門家は警鐘を鳴らしています。