米国物価高の最新事情、NYから地方都市を訪れてわかったこと
日本では毎日のように商品価格や電気料金の値上げが伝えられ、家計を圧迫しています。しかしそれ以上に物価高なのが、ここアメリカです。新型コロナウイルスのパンデミック以降、歴史的なインフレが続き、食品、ガソリン、外食費などさまざまなモノの価格が高騰しました。夏休みを海外(アメリカやヨーロッパ)で過ごす人は、円安の影響も加わりWで影響を受けることでしょう。
ごく普通のサンドイッチが2500円!!
卵1パック(12個入り)が700円以上、レストランのランチのハンバーガーやサンドイッチのセット、ラーメンが2500円、メジャーリーグ球場のビールが1800円、観光客で賑わうファミリーレストランの朝のパンケーキセットが4000円...!
もしもアメリカで日本円が使えると仮定するならば、最近のモノの値段はだいたいこんなところです。観光やエンタメスポット、空港などは一般の価格帯より高めに設定されています。とは言っても、ビールが2000円近くもすれば、気分良く「お代わり!」なんて言ってられないでしょう。
日本でも価格の上昇は毎日のように伝えられていますが、数十円単位で上がっている商品はまだ良心的と言えます。前述のようなアメリカの“Nasty”な(エグい)価格設定を日本で見ることは、まだそれほど多くないでしょう。
アメリカはコロナ禍以降、特に2021年から22年にかけてインフレが進み、22年6月には9%台のインフレ率を記録しました。中でも卵価格の急騰は顕著です。22年秋ごろから鳥インフルエンザの影響もあり、1パックの価格がそれまでの2、3倍に跳ね上がりました(どの店でもエマージェンシーの張り紙が出されたほどです)。価格高騰は食品のみならず、ガソリンや外食費、生活用品などにも及んでいます。
価格の推移だけをチェックして、以前とそれほど値段の変化がなくても安心してはいられません。インフレ後は(商品の内容量を少なくなる)シュリンクフレーションや、(安い原材料に置き換えられる)スキンプフレーションの影響を受けた商品が増えました。ポテトチップスの内容量が以前より随分と少なく、袋を開けると空きスペースが目立ちます。某メーカーの食パン(米在住者ならどの商品かがわかるほどのメジャーブランド)は、パッケージデザインと価格は据え置きで、内容量が3分の2まで明らかに少なくなっています。
筆者はセール品をチェックしたりクーポンを利用したりする習慣はなかったのですが、最近はさすがに購買の習慣が変わりました。インフレ以降はセール品をこまめにチェックしたりポイントを利用したりするなどし、節約に努めているところです。
米国内のインフレ率は低下傾向
そんなインフレの影響を受けたアメリカですが、今年に入りインフレ率は低下傾向にあります。最新の数字でも、6月の年率は3%で12ヵ月連続で低下しています。
加えて、鳥インフルが春ごろにはいったん落ち着き、1パックの卵は2ドル(約280円)以下の安値品も、スーパーの店頭で見かけるようになりました(ただしこれほど安い商品は美味しさや鮮度がイマイチなこともあります)。価格は店舗やメーカーによって異なりますが、ニューヨーク市内の普通のスーパーでは5ドル前後のものが主流です。
米主要メディアの1つ、NPR(公共ラジオ放送)が、米小売最大手のチェーン店「ウォールマート」で価格の推移を記したレポート記事が話題になりました。米中貿易戦争の影響を調べるためで、記者は18年から同じ店舗に通い続け、価格をチェックし続けました。そして、多くの商品価格は上昇したものの、中にはコーンスターチやテレビ本体など、以前より低下したモノもあることがわかっています。
筆者は6月、ニューヨークのお隣、ニュージャージー州にあるウォールマートを訪れてみました。なぜわざわざニュージャージーなのかというと、同店は基本的に、車でしか行けないような郊外にしかないからです。しかしその分、店舗面積も駐車場も、想像を絶する“デカさ”です。「世界一の小売業」や「小売業の代表格」とも言われるほどですから、足を運ぶ価値は十分にあります。
この店を見ると、小売の売れ筋や価格帯のトレンド、つまり「アメリカの小売の今」が把握できます。値段は他店より安いものが多く、いつ訪れても客であふれています。
そんなウォールマートで卵価格をチェックしたら、18個入りが何と1.44ドル(約203円)の驚きの価格で売られていました(1個11.2円計算、日本の平均価格より安い!)。改めてウォールマートのすごさを実感したところです。
ただしそんな激安商品は全体のほんの一部であり、大都市の一般店に行けば、価格は高いまま。昨年暮れ以降は、価格の上昇は落ち着きつつあるといえど、一旦値上がりした価格はおいそれと低くなってはくれません。
地方都市なら少しは安いのではと期待するも...
もう1点、筆者は6月にユタ州ソルトレークシティを訪れる機会がありました。02年冬季五輪が開催された場所として有名で、近年はマイクロソフトやIBMなどが次々と拠点を構えるIT産業が活発な地方都市です。3月には東海岸のボストンを訪れましたが、ここでも相変わらずの物価高を実感していましたが、西部の地方都市なら少しは価格が抑えられているのでは...?
そんな淡い期待を抱いていたのですが、大きな勘違いでした。ホテル代もレストランの飲食代もカフェのコーヒーもペットボトル水も、価格はニューヨークやボストンと同じくらい高かったです(店によってはソルトレークシティの方が高いものも)。
空港と市内をつなぐTRAXというライトレールの運賃が、片道2.5ドル(約348円)と良心的な値段だったのが、唯一の救いでした。
NYの地下鉄、今夏「また」値上がり
ニューヨークではこの夏、地下鉄やバスが8年ぶりに値上がりしました。
これまでは、1回の乗車が2.75ドル(約390円)、月の乗り放題は127ドル(約1万7960円)だったのが、8月20日より1回の乗車が2.90ドル(約410円)、月の乗り放題は132ドル(約1万8670円)へ引き上げられました。
ちなみに、筆者がニューヨークに移り住んだ02年は、1回の乗車が1.50ドル、月の乗り放題は63ドルだったので、この約20年間で「2倍近く」も値上がりしたことになります。
インフレとは関係ないですが、土地代や賃料もグングン上がっているアメリカの各都市。筆者が20年前に移住した際初めて住んだニューヨークの寮の最新の価格表を調べると、家賃は「2倍」も高くなっていました。当時なけなしの貯金で渡米し何とか生活できた筆者でしたが、賃金水準がこの30年間ほとんど変わらない日本から行くとすると「今じゃもう無理!」と思い知らされるのでした。そしてこれからも続くアメリカ生活、無駄使いをせず、節約に努めていく日々となりそうです。