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日本のGDP伸び率がバブル並みに。でも本当に景気よくなってるの?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

日本のGDP伸び率がバブル並みに。でも本当に景気よくなってるの?

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内閣府が8月15日に発表したところによると、今年4~6月の国内総生産の伸び率は年率換算でプラス6.0%でした。バブル期以来の高い経済成長率となりましたが、日本の景気が良いと感じている人は少ないと思います。果たして、日本は景気が良いといえる状態なのでしょうか。そして、この経済成長を一過性のものとせず、継続させるためにはどういった対策を行えばいいのでしょうか。

バブル期以来の高成長率

2023年4~6月期の国内総生産(GDP)の伸び率が、プラス1.5%となったことが分かりました。内閣府が8月15日に発表したもので、年率換算ではプラス6.0%の高い伸び率となっています。GDPのプラス成長は、3四半期連続となりました。

GDPとは、「Gross Domestic Product」の頭文字をとった略語で、簡単に言えば、一定期間内に国内でどれだけ儲けが生み出されたかを示す指標です。これを見ることで、その国の経済規模や経済成長率を把握することができます。GDPの伸び率が高ければ高いほど、国内経済は成長していると考えられるわけです。

それでは、今回の年率換算でのプラス6.0%という伸び率はどのくらい高いものなのでしょうか。日本が最後に年率6.0%以上の高い成長率を見せたのは、1988年。バブル景気が国内で最も加熱した年です。1988年度の日本の実質経済成長率はプラス6.4%。1990年代初頭のバブル崩壊を受け、わずか5年後の1993年度にはマイナス0.5%にまで落ち込んでいます。それ以来、日本は年率6%もの経済成長を見せていません。ちなみに、コロナ前の2019年、日本の成長率はプラス0.8%でした。

また、世界的に見ても、日本の2023年4~6月期のGDPの伸び率は高い部類です。GDPランキング世界第一位のアメリカの同時期のGDPの伸び率は、内閣府の試算によると年率換算でプラス2.4%です。経済規模世界第二位の中国は年率換算でプラス3.2%。ユーロ圏20ヵ国は年率換算でプラス1.1%でした。

このように、過去の日本や世界各国のGDPの伸び率を比較してみると、日本は現在、好景気と言うことができますが、そういった実感を持っている人は少ないのではないでしょうか。GDPを細かく分析すると、その理由が明らかになってきます。

輸出が経済成長のけん引役に

輸出
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全体のけん引役となったのは、外需。つまり、輸出です。日本円はここ最近、世界の主要通貨に対して大きく下落しています。今年1月2日は1ドル=約131円でしたが、8月31日には1ドル=約146円にまで下落しています。対ユーロも同様で、今年に入ってから15%近く円が下落しています。このことで、日本の製品が世界の消費者にとって相対的に安くなり、輸出額を押し上げた格好です。特に、自動車業界で輸出額が増えており、日本自動車工業会によると、4~6月の乗用車の輸出は前年同期比で35%増えています。

外国人観光客による需要も、名目上は輸出に該当します。政府が4月29日に外国人観光客の水際対策を撤廃したことを受けて、外国人観光客が急激に増加しました。外国人観光客のインバウンド需要の増加もGDPの伸びに大きく寄与しています。

一方で、伸び悩んだのが国内需要です。民間最終消費支出(家計による消費財への支払いのこと)は、マイナス0.5%で、3四半期ぶりのマイナスとなりました。大企業を中心に賃上げする企業も少なくありませんが、このところの物価高には追いつかず、食料品、エネルギー、日用品といったものが特に落ち込んでいます。

今後のカギは個人消費を拡大できるかにある

オンラインで買い物
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内閣府が発表したGDPの速報値を分析してみると、今回のプラス6.0%という高い成長率はあくまで外需頼みだということがわかります。内需がけん引しての大幅なプラス成長であれば、「最近景気がいいな」と感じる国民も多くなるはずです。しかし、外需頼みであれば、観光業や宿泊業など一部の業界以外、経済成長を実感する国民は少ないと思います。

また、外需頼みはいつ潮目が変わるかわからないという危険性をはらみます。例えば、新型コロナウイルスのような感染症が再び全世界的に流行すれば、インバウンド需要はストップしてしまうでしょう。さらに、コロナ前まで訪日外国人観光客数でトップだった中国は、政治的な都合で日本への渡航を制限するということを過去に何度も行ってきました。つい最近も、中国は日本産水産物を全面禁輸する措置を講じています。また、今は円安で輸出が伸びていますが、為替相場がいつどう変わるかは誰にもわかりません。2010年代はじめのように、急激な円高により輸出額が激減するということも十分考えられます。

日本経済が安定的に成長していくために最も重要なのは、なんといっても、GDPの6割を占める個人消費を拡大していくことです。個人消費を拡大していくためには、国民一人ひとりの可処分所得を増やしていかなければなりません。そして可処分所得を増やすためには、各企業が賃上げしていくことが求められますが、「これ以上の賃上げは無理」という中小企業も少なくありません。であれば、出ていくものを減らすしかありません。物価高が緩和するまで一時的に消費税を減税する、食料品や日用品の消費税に限定して減税する、ガソリン税の一部を軽減する「トリガー条項」を発動する、など。日本が今後も持続的に経済成長していくために、政府は国民の可処分所得を少しでも上げるための対策をとるべきではないでしょうか。