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アメリカの最新キャッシュレス事情。みんなどれで支払ってる?

N.Y.発、安部かすみの今気になる最新マネートピック 安部 かすみ(あべかすみ)

アメリカの最新キャッシュレス事情。みんなどれで支払ってる?

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日本でもここ5年ほどで、キャッシュレス決済が格段に浸透してきました。Apple Pay、Google Pay、PayPay、LINE Payなどさまざまなサービスが利用されています。クレジットカード文化が根強いアメリカでも、キャッシュレス決済は随分前から浸透しています。米現地から最新事情を報告します。

進むキャッシュレス決済

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筆者が日本滞在中の2019年、中国の上海を訪れ驚いたのは、キャッシュレス化の広まりでした。ホテルや小売店はもちろん、街中の庶民的な定食屋さんでさえも、人々がスマホでピッと気軽に支払っている姿を見て、電子決済大国を見せつけられた気がしました。

中国では現金に対する信用がそれほど高くないようで、それもキャッシュレス化を推し進める一つの要因になったと思います。アメリカでも昔から偽札が多く、100ドル札を使うとあからさまに光に当てて点検されます。当然、キャッシュレス化は以前よりかなり進んでいます。

そもそもクレジットカードの利用が開始されたのは1950年と歴史が長く、半世紀が経過し、近年はアプリを使ったキャッシュレス決済が大分広まりました。主にクレジットカード決済、デビットカード決済、モバイル決済、デジタルウォレット、バンキングの分野で活発に利用されています。

もともとこの国では、治安面から人々が現金、特に大金を持ち歩く習慣がなく、少額であってもクレジットカード、デビットカード、(一部で)小切手での支払いが可能です。新型コロナのパンデミックを境に「非接触=キャッシュレス化」はさらに進みました。

ニューヨーカーの足として利用されるMTA(メトロポリタン・トランスポーテーション・オーソリティー=市交通局)では、切符として利用されていたコイン型トークンが2003年春に廃止となり、それ以前より使われていたメトロカード(テレフォンカードのような黄色のカード)システムに移行しました。いずれも利用者が現金やクレジットカードを使って窓口や券売機で買っていたものです。

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ここでも近年キャッシュレス化が進み、いま大きく変換期を迎えようとしています。改札口には数年前より非接触型決済マシンが設置され、約30年にわたって市民に親しまれてきたメトロカードもいよいよ廃止されようとしているのです。具体的には2024年までに段階的に廃止され、OMNY(オムニ)*1 という決済システムへ「完全移行」する予定です。

*1
OMNY(オムニ):スマートフォン、ウェアラブルデバイス、クレジットカード、バンクカード(銀行カード)のいずれかによって利用できる非接触型決済システム

■地下鉄・バスでのOMNYの使い方(YouTube)

このようにキャッシュレス決済 *2 は、日進月歩のFinTech(フィンテック)によってインフラストラクチャが整備され、人々の生活に浸透しています。

*2
別名:オンライン決済、デジタル決済、モバイル決済、モバイルバンキング、デジタルウォレット、スマホ決済、コンタクトレス決済、非接触型決済などとも呼ばれる

アメリカで人気のデジタル決済は?

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アメリカには日本以上にさまざまな種類のキャッシュレス決済がありますが、筆者の周りではApple PayやGoogle Payが特に人気です。

CNNは今年3月、「編集者オススメのモバイル決済」を発表しています。記事の中で5社のモバイル決済アプリ【Apple Pay、Google Pay、Samsung Pay、Venmo (PayPalの子会社)、Cash App (Block、旧Square Cash)】が精査され、インストールやセットアップのし易さ、機能性、セキュリティ、料金、顧客サポートの面から、Apple PayとGoogle Payが「もっとも優良」に選ばれました。

テクノロジー系のニュースサイト、PCマガジンでも「今年のオススメモバイル決済アプリ」として、以下のサービスが選ばれています。
●アンドロイド利用者 Google Pay
●アイフォン利用者 Apple Pay
●そのほか、Cash App、Venmo/PayPal、Zelle(ゼル)、Samsung Pay

CNETも同様に「今年のオススメモバイル決済アプリ」として、以下のサービスを上げています。
●Apple Cash(デジタルカード)、Cash App、PayPal

日本でまだローンチしておらず利用できないサービス、Apple Cashとは、アメリカのアイフォンユーザーがウォレットやメッセージアプリでお金の送金、請求、受領ができるデジタルカード(決済機能)のことです。Apple Cardでの取引でキャッシュバックを受け取ったり、Apple Payで買い物をしたり、Apple Cashの残高を銀行口座に送金したりできます。

このほかにもWorldRemit、Stripe、LINE Payなど、さまざまなアプリやソフトウェアが、アメリカでは利用可能です。

Apple Payについて補足ですが、以前は現地で発行したクレジットカードを登録しなければ使うことができなかったのですが、今は日本で発行された一部のカードも使うことができるようになっているようです。海外のApple Payを利用できる国際ブランドは次の3つ(American Express、JCB、MasterCard。ただし例外あり、一部除く)です。

デジタル決済の今後

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デジタル決済の今後について、フォーブス誌は以前、このように述べています。

「テクノロジーに精通した若い世代により、さらに人気が高まるだろう。社会が今後さらにキャッシュレス化するかについては、そうならないという考えもある一方で、デジタル通貨やビットコインなどのフィンテック暗号通貨の増加により、現金が時代遅れになるという考えもある。ただ、現金での支払いを拒否する場所はほとんどないだろう」

カフェや小売店で、レジに取って変わり設置が広まった専用端末。チップ項目までがインストールされています。そしてモノやサービスの支払いはチップも含めて、クレジットカードやデビットカードに加え、デジタルウォレットでの支払いが主流になりつつあります。一時期、店によっては「No Cash」つまり現金が使えない店もありましたが、2020年11月19日より規制の対象となり、現金での支払い拒否は違法となりました。このようなことからも、「完全なるキャッシュレス化」が進む気配は特に見られません。

アメリカは伝統的なチップ文化 *3 ですが、その伝統もなくなる気配はありません。また街角では人々がストリートパフォーマーに心付けを渡す姿も見られます。店での決済同様に、このような心付けもデジタル決済するZ世代の姿があるのは事実ですが、だからと言って「完全キャッシュレス化」の時代がやって来るかと問われれば、まだやって来ないだろうというのが私の見立てです。

*3
レストランで帰り際に支払ったり、サービスを受けた時に感謝の気持ちを込めて紙幣をそっと手渡したり、ホテル滞在中に清掃スタッフのために枕元に現金を置いたりする。チップはレストランではクレジットカードなどで支払うこともできるが、それ以外では基本的に現金払いが多い