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海外投資家はなぜ日本株を買う?個人投資家はどう動くべきか

経済とお金のはなし 山下 耕太郎

海外投資家はなぜ日本株を買う?個人投資家はどう動くべきか

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2024年になって日経平均株価はバブル崩壊後の高値を更新しましたが、買いの主体は海外投資家です。一方、新NISAでは生涯投資枠が1800万円と大幅に拡大されたので、国内株式の買いが期待された個人投資家は株を売り越しています。この記事では、株価に影響を与える海外投資家の動向と、個人投資家はどのように対応すればいいのかについて解説します。

2024年は海外投資家が日本株を買い越し 

日経平均株価は2024年1月第3週に386円上昇し、終値で3万5963円とバブル経済崩壊後の最高値を更新しました。買いの主体は、海外投資家です。海外投資家は東京証券取引所の取引の約7割を占めているので、日本株に与える影響が大きくなります。

海外投資家は年初から3週連続で現物株を買い越しました。これは、日本企業への変革期待や、中国株からの資金移動が背景にあります。2023年はウォーレン・バフェット氏が日本株に強気姿勢を示したことも影響し、海外投資家は、2023年3月末から6月末まで12週連続で日本株を買い越しました。ただ、その後は海外勢の日本株買いが鳴りを潜め、持ち高を落とす動きが見られました。しかし、2024年に入り、日本市場を再評価する動きが広がっているのです。

海外投資家とは

投資家
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そもそも海外投資家とは、広義には海外から日本市場に投資を行う個人や法人(機関投資家)のことを指します。彼らの売買代金は、市場の約7割を占め、その動向がマーケット動向を左右するほどの影響力を持っています。

海外投資家の投資スタイルは大きく以下の5つに分かれます。

1.    ヘッジファンド

ヘッジファンドは、投資家の資金を集めて運用し、高いリターンを目指す投資ファンドです。多様な投資戦略を用い、株式、債券、デリバティブ(金融派生商品)などを取引します。リスク管理の一環として、価格変動リスクを「ヘッジ」することもあります。

価格変動リスクとは、金融商品の価格が変動することにより生じるリスクのことを指します。これは、株式、債券、外貨、商品など、価格が市場の需給バランスにより変動するあらゆる資産に関連しています。

ヘッジとは、このような価格変動リスクから資産を守るための戦略です。具体的には、ある資産の価格が下落した場合に損失を被るリスクを抑えるために、その資産と逆の動きをする別の資産を保有することで、価格変動リスクを相殺するのです。

2.    CTA(Commodity Trading Advisor)

CTA(Commodity Trading Advisor)は、商品投資顧問や商品取引アドバイザーとも訳され、ヘッジファンドの一種です。世界中から資金を集め、多額の資金を運用しています。

CTAは「Commodity(商品)」と名前にありますが、原油や金、穀物などの商品先物だけに投資しているわけではなく、為替や株式、指数先物、債券など幅広い金融商品に分散投資しています。

CTAの主な売買方法は相場の勢いに追随するトレンドフォロー型で、これをヘッジファンド業界では「マネージド・フューチャーズ」と呼ばれます。CTAは先物や為替、商品など様々な金融商品を取引しているため、株式市場だけでなく、世界の様々なマーケットに大きな影響を与えます。市場の動きを加速させる傾向があり(上昇すると買い増し、下落すると売り増しされる傾向になる)、これにより市場のボラティリティ(価格変動率)が高まることがあります。

3.    HFT(High-Frequency Trading) 

HFT(High Frequency Trading)は、超高速・高頻度取引とも呼ばれ、コンピュータアルゴリズムを駆使した金融取引の一種です。

4.    政府系ファンド

政府系ファンドとは、各国の政府が出資する投資機関が運営するファンドを指します。これらのファンドは、原油などの天然資源による収入や、貿易黒字で膨らんだ外貨準備などの国家資産を財源として、将来の世代に向けた資金の蓄え、財政赤字の補填などを目的として運用されています。

5.    年金基金

年金基金は、企業や団体が従業員の退職後の生活を支えるために設立されたものです。年金基金の積立金は、長期にわたって債券や株式など複数の資産に分散投資し、安定的に運用されます。

日本の場合は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がこれにあたります。日本の公的年金の積立金を運用している機関投資家です。ただ、GPIFは、信託銀行・生命保険会社・投資顧問会社の各運用機関に、年金資産の管理、運用を委託しており、各運用機関に対しては、GPIFが策定した「運用ガイドライン」を提示し、このガイドラインを遵守して運用を行うよう指示しています。

CTAやHFTなど短期的・投機的な運用を繰り返す投資家から、政府系ファンドや年金基金など長期的・堅実な運用をする傾向のある投資家まで、海外投資家の投資スタイルは様々です。一言で海外投資家と言っても短期・中期・長期のそれぞれの立場で売買タイミングは異なります。

海外投資家は大型株を中心に買う

株取引
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海外投資家は、大型株を買う傾向があります。その主な理由は、以下の3つです。

1.業績が安定している

大型株は通常、安定した業績と収益性を持つ企業の株です。これらの企業はしばしば経済の変動に対してある程度の耐性を持っているというメリットがあります。

2. 流動性が高い

大型株は市場での取引量が多く、売買が容易であるため、大きな資金を運用する海外投資家にとって魅力的です。

3. 株式市場への影響が大きい

大型株は市場全体の動きを左右する力を持っています。そのため、海外投資家はこれらの株の取引を通じて市場全体に影響を与えることができます。

海外投資家が日本株への買いを強めている理由は?

海外投資家が日本株への買いを強めている理由として、東京証券取引所によるPBR1倍割れ企業への改善要求や、ウォーレン・バフェット氏による総合商社株の買い増しなどが挙げられます。

1. PBR(株価純資産倍率)改革が進んでいる

「PBR(株価純資産倍率)」とは、企業の株価と1株あたりの純資産の比率を示す指標で、株価が割安か割高かを判断するための指標です。
東京証券取引所は、PBRが1倍を割っている企業に対し、改善に向けた方針や取り組みの具体例開示などを要請しました。この企業価値の向上を主導するPBR改革が、業績や株主還元の改善につながると海外投資家に評価された場合、日本株への投資が増える可能性があります。

2. ウォーレン・バフェット氏による総合商社株の買い増し

ウォーレン・バフェット氏はアメリカの偉大な投資家で、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズとともに世界三大投資家として知られ、全世界から彼の投資動向が注目されています。バフェット氏が日本の総合商社株の保有比率を高めたことで日本株が注目されました。また、2023年4月に日本を訪れ、日本株への追加投資を検討することを明らかにしています。

前述したように、海外投資家は大型株を狙う傾向があります。上記2つの理由から、特に大口の資金を持つ海外投資家は、低PBRで、市場の中心となる日本の大型株を狙っているというわけです。

今後は出遅れている中小型株に注目

株の値動きに注目する
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日経平均株価が上昇したにもかかわらず、中小型株市場は米国の金利上昇などにより割高感が強まり、軟調な展開が続いていました。しかし、今後は大型株から中小型株へ物色対象の移行が期待されます。

大型株の上昇による収益を元に、次に何に投資するかを考えた時、値動きの良い中小型株が注目されるからです。また、東証の改善要求により、TOPIX採用銘柄の中でPBR1倍割れの比率が高い中小型株は、株主還元の拡充などの改善が期待できます。

ただ、中小型株の買い主体は個人投資家です。個人投資家は1月第4週に現物株を7週ぶりに買い越し、買い越し額は2946億円でした。新NISAでは、投資信託だけでなく、個別株にも投資できます。投資初心者は幅広い銘柄に分散投資できる投資信託が適していますが、より高いリターンを期待したい投資家は、個別株への投資も考えてみましょう。JTやNTTといった業績が安定していて高配当の銘柄は、長期的な資産形成を目指す投資家にとって魅力的な選択肢になります。

また、より高いリターンを狙いたい時は、値動きの軽い中小型株に投資する方法もあります。
たとえば、個別株で成長投資枠の1200万円の枠を使い切り、残りの600万円をつみたて投資枠として投資信託に充てることもできるのです。

ただし、自身のリスク許容度や投資目的に合わせ、適切な投資対象を選ぶようにしてください。

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。