裁量労働とフレックスは何が違う?どちらも残業代は出る?
目次
転職をする人が増えてきました。求人情報等では、「裁量労働制」や「フレックスタイム制」、そして「みなし残業」という単語を目にします。これらは、働き方にどのような違いがあるのでしょうか?実は、雇用形態や労働時間の取り扱いの違いもさることながら、残業代の考え方もそれぞれです。これらの違いや特徴を見ていきましょう。
裁量労働制・フレックスタイム制とはどんな働き方?
「裁量労働制」とは、その名の通り、仕事の取り組み方を労働者自身の裁量に委ねる制度です。あらかじめ労使で規定した時間を働いたものとみなして給与が支払われることから、みなし労働時間制とも言われます。働く時間は必ずしもその通りでなくて良いため、業務の進捗具合によって、今日は5時間しか働かなかった、という日があっても問題ありません。時間の使い方は自由になりますが、しっかり自己管理をしながら業務を進める力が求められます。
ただ、裁量労働制で働きたいと思っても全ての人が選択できるものでもありません。業務内容を国が定めており、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」のいずれかに当てはまる業務に従事する労働者が対象です。2つの裁量労働制の範囲を見ていきましょう。
「専門業務型裁量労働制」
まず、「専門業務型裁量労働制」です。これは、業務を行うにあたって、その手段や方法、時間配分などを労働者に任せた方が合理的であると国が定めた19の業務に限定されます。対象となる業務に従事する労働者に適用できます。適用には、労働者と会社(使用者)の合意による労使協定の締結が必要です。
<専門業務型裁量労働制19の業務>労働基準法第28条の3
・新商品もしくは新技術の研究開発または人文科学もしくは自然科学に関する研究の業務
・情報処理システムの分析または設計の業務
・新聞もしくは出版の事業における記事やラジオやテレビ制作のための取材もしくは編集の業務
・衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
・放送番組や映画等の制作事業におけるプロデューサーまたはディレクターの業務
・コピーライター業務
・システムコンサルタント業務
・インテリアコーディネーター業務
・ゲームソフトの創作業務
・証券アナリスト業務
・金融商品の開発業務
・大学における教授研究の業務
・公認会計士の業務
・弁護士の業務
・建築士の業務
・不動産鑑定士の業務
・弁理士の業務
・税理士の業務
・中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制
次に「企画業務型裁量労働制」について見ていきましょう。企画業務型裁量労働制は、労働基準法第28条の4で定められており、本社や本店、または、企業等の事業に大きな影響を及ぼす事業場で働くことが要件です。
事業の企画、立案、調査、分析に関わる業務や事業運営に関する業務などで、業務の性質上、労働者の裁量に任せる必要があるといった場合に裁量労働制を取り入れることができます。本社から具体的な指示を受けずに独自に事業計画を立てるような支社・支店なども対象です。対象業務が限定されていませんが、労働者と会社(使用者)によって労働条件が審議される労使委員会の決議などが必要です。
専門業務型裁量労働制も企画業務型裁量労働制も、業務内容の時期的な濃淡があったり、勤務時間を固定的に定めない方が力量を発揮してもらいやすかったりする仕事ということが分かります。
フレックスタイム制は労働時間を自分で決められる
一方、フレックスタイム制とは、どういうものでしょうか。フレックスタイム制とは、労働者が、始業時刻と終業時刻、労働時間を自分で決められる制度です。裁量労働制のように職種や業務内容に制限もありません。自由に出勤時間を決められることから、家庭の都合に合わせて働く時間を調整でき、仕事とプライベートのバランスを取りやすくなります。たとえば、保育園への送り迎えのために出勤時間を遅らせる、歯科医に行くために早めに退勤する、通勤時の混雑を避けるために出勤時間や退勤時間を調整するなどです。時間に囚われずに働けるため、働き方の選択肢が増え、仕事に対するモチベーションにもつながります。
裁量労働制とフレックスタイム制、「コアタイム」があるのは?
裁量労働制とフレックスタイム制は、どちらも働く時間に自由度がありますが、その違いは何でしょうか。
大きな違いは、労働時間と給与の扱い方です。裁量労働制はあらかじめ労使間で定めた「みなし労働時間」を働いた時間とするということであるのに対し、フレックスタイム制は、1カ月、2カ月というような一定の清算期間によって総労働時間が管理される点が異なります。また給与の支払額は、裁量労働制の場合では、実際の労働時間に関係なく決められた額が支給されますが、フレックスタイム制は、実際に働いた時間に対して支払われます。
一般的にフレックスタイム制は、「コアタイム」という必ず出社して勤務しなければならない時間が設定されています。その点も会社から勤務時間について指示を受けることがない裁量労働制とは異なります。
このように裁量労働制とフレックスタイム制は、労働時間の考え方、計算方法が似ているようで全く異なるものです。
裁量労働制、フレックスタイム制の残業代は出る?
それでは、裁量労働制やフレックスタイム制で働く場合、残業代はどうなるのでしょうか。
裁量労働制の残業代の取り扱い
裁量労働制は、基本的に残業代は発生しません。それは、実際の労働の有無に関わらず働いたとみなす所定労働時間が定められているためです。しかし、所定労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合や、法定休日(週休2日など会社の休日)に働いたり、深夜労働をしたりした場合は、残業代、割増賃金が支払われるようになっています。
フレックスタイム制の残業代の取り扱い
一方、フレックスタイム制はどうでしょうか。こちらは、清算期間という一定の計算期間の枠内において決められた労働時間を超えて働いていた場合は、残業代が支払われるようになります。この清算期間は月単位で、最長3カ月となっており会社によって異なります。更に、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて働いた場合は、残業代として25%上乗せされた割増賃金も支払われます。
例えば、清算期間を1カ月単位と2カ月単位とする場合、法定労働時間の総枠は次のようになります。
(1カ月単位の法定労働時間の総枠)
清算期間31日・・177.1時間
清算期間30日・・171.4時間
清算期間29日・・165.7時間
清算期間28日・・160.0時間
(2カ月単位の法定労働時間の総枠)
清算期間62日・・354.2時間
清算期間61日・・348.5時間
清算期間60日・・342.8時間
清算期間59日・・337.1時間
「みなし残業」とは?裁量労働制とはどう違う?
「みなし残業」とは、あらかじめ一定の時間外労働を最初から考慮し給与が定められている労働契約です。裁量労働制で説明した「みなし労働時間」は、労働時間全体をあらかじめ働いたものとみなすものでした。一方で、「みなし残業」というのは、一定時間残業したものと最初からみなされるものです。
みなし残業の給与の内訳は、「基本給」「固定残業手当」というような形で分けて表記され、固定残業分の時間外労働をしなかったからと言って、給与が減額になることはありません。当然に、みなし残業時間を超えて働いた場合は、別途、残業代が上乗せされます。効率よく仕事し定時に退社できると、残業していなくても多く受け取れることになるため、労働者にとっては嬉しいことでもあります。
ちゃんと残業代が支払われているか確認を
裁量労働制の場合、残業代は発生しないことが大半ですが、休日や深夜労働をした場合は、残業代や割増賃金が発生します。裁量に任されることから、繁忙期には無理をしてしまうこともあるでしょう。休日や深夜労働は残業となりますので、忘れずに申し出るようにしましょう。
フレックスタイム制でも、残業代が発生しないと勘違いしてしまうケースや、時間管理が曖昧になり、残業代が加算されるにもかかわらず支払われていない、ということがあるかもしれません。給与明細を見て実際の残業時間が反映されているか確認するようにしましょう。
まとめ
今回は、「裁量労働制」や「フレックスタイム制」、そして「みなし残業制度」について見てきました。これまでの内容を簡単にまとめます。
・裁量労働制は、仕事を労働者の裁量に委ね、一定の時間の労働をしたものとみなして給与が支払われる制度
・フレックスタイム制は、就業時間や始業時間、労働時間を自分で決められる制度で、実際に働いた分が給与として支払われる
・みなし残業制は、あらかじめ一定の時間外労働を考慮し給与が定められている制度
・裁量労働制の場合、基本的に残業代はない
・フレックスタイム制の場合、清算期間で定められた労働時間を超えると残業代が支払われる
・みなし残業制も所定の残業時間を超えた場合は追加で残業代が支払われる
一昔前のような労働者は仕事優先とせざるを得ない環境(空気感)から、プライベートも充実させるワークライフバランスを重要視する時代へと変化しています。
こういった面からも選択肢が広がってきていますので、自分にあった働き方は何か、この機会に考えてみましょう。
残業代に関するQ&A
Q:割増賃金とはなんですか?残業代のことですか?
A:割増賃金とは、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過して働いた場合に残業代に上乗せされる賃金です。6時間勤務の人が7時間働いた場合は、残業代はつきますが、割増にはなりません。
Q:契約社員でも残業代は支給されますか?
A:支給されます。雇用形態は関係ありません。事業所に使用され賃金が支払われる場合は労働基準法が適用され守られます。