税理士は見た!日常やドラマのツッコミたくなる風景

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監修・ライター
税理士という仕事柄、ドラマを見ている時や、コンビニ、飲食店、スーパーなどで買い物をする日常生活の中で、税理士視点で気になることがあります。今回は税理士の視点から、税金に関する独り言を綴ってみたいと思います。
【ドラマ編】1億円の不動産が知らぬ間に名義変更されていた事件

ドラマを見ているとこんなシーンがありました。
ある男性が、交際する女性が所有している1億円の不動産の名義をこっそり自分の名義に移転させました。ドラマでは男性の顧問弁護士に名義変更を委ねていましたが、男性は変更の理由として「私の事業が成功したお祝いに、彼女からプレゼントしてもらった」と嘘をついて名義変更をさせていました。
まず浮かぶ疑問は…
ドラマを見ていて普通は流すところかもしれませんが、ついつい突っ込みたくなるポイントがあります。
1億円もする不動産を、そう簡単に本人の了解もなく移転することは出来ないのではないか。この分野は司法書士の仕事になりますが、私の実務経験上、仮に男性が不動産を所有する女性の実印を持ってきて「私に一任してくれている」と言っても、本人確認はきっとあるはずです。
税理士の視点で思うこと
①税金がとんでもないことに…
仮に1億円の不動産をもらったとすると、当然贈与税の対象となります。ちなみにこの場合の贈与税は約5040万円です。特例はありません。贈与税の税率は、4500万円を超える部分は55%となるため高額となります。どうやって納税するのだろう…と、ドラマとはいえ心配になります。
②男性が贈与税の申告をしなかったら…
贈与・売買などで不動産を移転した場合、その情報は税務署に把握されています。よってその確定申告を翌年の3月15日までに行っていない場合は後日税務署より連絡が来るため、確実に税務申告を行わなくてはなりません。修正申告の場合、本税に加えて、無申告加算税、延滞税などのペナルティが加算されるので注意したいところです。
③勝手に移転したことが女性に知られる時が来る
不動産を移転させた場合、元々の所有者の手元を離れるため、翌年の固定資産課税明細書(固定資産税の納税明細)に表示がされなくなります。多数の不動産を保有し、管理していない場合は分からないこともあるかもしれませんが、通常は明細を確認すると思われるため、その一覧に該当不動産が計上されていなければ不審に思い、移転の事実を知ることとなるでしょう。
なぜかドラマにならない税理士のお仕事

筆者はかれこれ30年前、高校3年生の頃から税理士を目指して勉強をしていましたが、税理士を主人公としたドラマに出会ったことがありません。ほとんどのドラマは、弁護士、検事、国税調査官、労働基準監督署、国税徴収官といった題材が多く、似たような会計的な職種で、公認会計士、一般企業の経理課の題材が過去にあったくらいです。最近はコンサルタント的なドラマも増えてきましたね。
過去に税理士が主役のドラマがあったか調べてみた
今回記事を書くにあたって、税理士が主人公となっているドラマが過去にないか調べてみました。2003年に愛川欽也さん主演の「税理士楠銀平の事件帳簿」というドラマが全2回で放映されていました。内容は第一話が「消えた遺言書」、第二話が「領収書は語る」でした。ドラマのあらすじを読んでみると、殺人事件が起こり、それを税理士である主人公が解決していくような筋書きでしたが、普段行っている税理士の仕事とは、少々違う世界の展開に思えました。
勘違いされやすい「税理士」の仕事
税理士の仕事は、実際に経営や申告で税理士に会わないと分かりにくいかもしれません。昔見た税理士の印象像アンケートに、「税理士は地味な仕事で、静かで電卓ばかり叩いている」という、筆者にとってはびっくりする内容が書かれてあったことを思い出します。もちろん電卓は叩いていますが決して地味ではなく、顧問先へ向かい現場をイメージしながら仕事を進めたり、様々な利害関係者から情報収集を行い、日々アグレッシブに仕事をしているつもりです。ただドラマとなると、視聴率を取るには少々描きにくい仕事内容なのかもしれません。
【日常編】閉店間際のスーパーで気になること

日常生活の中でも、税理士目線で気になる風景があります。ある日少し早く仕事を終えた筆者は、夕食の食材を購入するためスーパーを訪れました。閉店15分前、ギリギリ間に合いました。豚肉の生姜焼きを作るための食材を買い込み、レジへと向かいました。レジは4台。うち3台は早くもレジ締めに取り掛かっています。稼働している残り1台のレジは長蛇の列です。
その列に並んで順番を待っていると、レジ締めをしているレジの方から「こちらへどうぞ」と声がかかり、私はそちらへ誘導されて精算を済ませ、レシートをもらいました。
ここで私が気になること
筆者はこの状況に出会うと、「レジペーパーの控えは保存されているのか」が気になります。売上金は受領して、お客様へレシートは渡されているが、保存用のペーパーは動いているのだろうか?もし動いていない場合、きちんと売上が計上されているかが心配になります。
税務署の事前の調査
気になる理由は、飲食店・小売店の税務調査に立ち会う時、税務署は50%超の確率で事前に数回買い物に来て、そのレシートを税務調査の時に資料として持って行くためです。特に閉店間際にレジを打たずに稼働している場合や、締めながらのレジにおいては、その時間帯の売上金が抜けてしまうことがあります。税務調査官が購入した時のレシートの売り上げが、税務調査時に計上されていない事実が判明した場合、重いペナルティが待っているのです。
最近では、POS管理が徹底しており、ほとんどの事業者は正しく処理を行っていると思いますが、たまに税務調査では問題となることがある調査項目のひとつです。
税務署はここを見ている!飲食店・小売店の風景

税務署は事前に、数回の買い物をしてレジに足跡を残した上で税務調査にやってきます。ちなみに、美容室、エクステ、ネイルについても女性調査官が事前調査でお客様として来店することもあります。税務署は飲食店、小売店に事前調査に客として訪問した時、次のような内容を観察して、事前の申告内容と照らし合わせています。
① 日常のレジの稼働状況(台数)
② 閉店間際のレジの状況
③ レジ打ちの様子(その事業者又は家族か。それとも身内ではないスタッフか)
④ 従業員の数(申告状況との整合性)
⑤ 客数(年間の売上の申告状況との整合性)
⑥ 客単価(特に飲食店の場合)
⑦ レシートの発行状況、領収書の発行状況
⑧ 飲食店の場合、予約などがあった時はどのように処理しているか(予約台帳)
⑨ テイクアウトの処理(レジを打っているか。売上が計上されているか)
税務署は抜いた売上金をどうやって見つけるのか?
事業の帳簿に売上金を計上しないで抜いた場合、その事実は分かるのでしょうか。
このようなご相談は毎年少なくありません。もちろんその事実は税務調査時に高確率で見つかり、修正申告となります。ではどのような事実から分かるのかを見てみましょう。
税務調査において抜いた売上金が判明する理由(抜粋)
① 多店舗と比べて利益率が低い
② 繁盛店なのにその実態と帳簿の数字が合っていない
③ おしぼりの数と申告された書類、事前調査の内容が合わない(税務調査官はおしぼり屋さんに事前に調査を行っています)
④ 社長(事業主)の生活ぶりとお金が一致しない(給与は年間360万円であるが、生活費がそれを大幅に超えているなど)
⑤ 事業からの利益が出ていないのに、子供が私立学校に通っている(その学費はどこから捻出されたのか)
⑥ 事業の資金繰りが厳しい状況というが、現金で高級車を購入している
まとめ
「税理士になりたい」という学生は極めて少数です。一方、弁護士になりたいという小学生は一定数いると聞いたことがあります。税理士がドラマで取り上げられると、少しは目指す人が増えるかもしれません。税理士は日常風景でさえもいろいろな視点から眺めることができる大変楽しい職業だと、改めて思う今日この頃なのです。