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知らないと損をする!確定申告の悲劇を防ぐ、税理士の一問一答

税理士が伝えたい相続とお金のはなし 永瀬 慎太郎

知らないと損をする!確定申告の悲劇を防ぐ、税理士の一問一答

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年が明けると、そろそろ聞こえてくるのが確定申告の足音。今年の所得税の確定申告は令和7年2月17日~令和7年3月17日、還付申告は令和7年1月6日より税務署で受付が始まっています。今回は所得税の確定申告や所得税に関する素朴な疑問、そして申告漏れや税金の納め過ぎなどの「悲劇」を回避するために早めに知っておいた方が良い税金のルールをお伝えします。

Q.息子がアルバイトで104万円稼ぎました。扶養に入れるのでしょうか?

(相談内容)

大学に通う息子が飲食店でアルバイトをしています。12月は繁忙期で少し出勤時間が長くなったり、最低賃金がアップしたことによって今年の給与収入が104万円となったそうです。103万円を少し超えてしまいましたが、税金の計算上、扶養に入れる方法はありますか。

(回答)給与収入が103万円を1円でも超えると扶養には入れません

給与収入が103万円を1円でも超えると、息子さんは誰の扶養にも入れません。よく「給与収入が少し超えたくらいで、税務署は分かるのですか」というご質問を頂きますが、税務署と市町村役場は各個人の収入に関する情報を連携しているため、たとえ少額でも給与収入が103万円を超えていたら扶養控除の対象外となります。年末調整や確定申告で扶養に入れてしまった場合は、後日、税務署から扶養の修正申告をするように連絡がきます。

配偶者の場合は、給与収入が103万円を超えても配偶者特別控除という制度があり、扶養には入れませんが一定の所得控除があります。

Q.ワンストップ特例制度を使って6カ所にふるさと納税をしてしまいました

(相談内容)

私はサラリーマンで毎年ふるさと納税をしています。本業以外に所得もなく医療費控除などもないため確定申告はせず、確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」を使っていましたが、今回6カ所にふるさと納税の寄附をしてしまいました。確定申告が不要である「ワンストップ特例制度」を使う場合は、ふるさと納税の寄附先が5カ所以内と聞いています。どうしたら良いでしょうか。

(回答)寄附先が6カ所以上は確定申告を

ふるさと納税の寄附先が6カ所以上の場合、ワンストップ特例制度は使えないので確定申告をする必要があります。途中までワンストップ特例を使ってふるさと納税をした場合でも、6カ所分をまとめて確定申告で還付申告を行うことで6カ所分の所得税、住民税(特別徴収に充当)の還付を受けられます。ふるさと納税した分の税金は、所得税が還付されて住民税は翌年の特別徴収分から控除されます。

ワンストップ特例制度は、税金を戻してもらうためには本来確定申告が必要なところをサラリーマンが還付申告を行う手間を省くことによってふるさと納税を利用しやすいようにした制度です。ワンストップ特例制度を利用した場合、ふるさと納税による税金の還付は、その全額が翌年の給与から差し引かれる住民税と差し引きになり、確定申告をした時と同様の効果が得られます。
参考:総務省「ふるさと納税のしくみ

Q.投資用分譲マンションが赤字でも確定申告の必要があるのでしょうか?

(相談内容)

私はサラリーマンで、投資用分譲マンションを購入し不動産収入があります。一部自己資金と銀行から融資を受けて不動産を購入しましたが、いろいろな経費がかかったり、空室もあったりしたため今年は赤字になりそうです。赤字でも、所得税の確定申告はした方がよいのでしょうか。

(回答)赤字の場合、確定申告を行うことで得られるメリットがあります

赤字の場合は所得税法では所得金額が発生しないため、法的な申告義務はなく確定申告は不要です。しかし、別の視点から、赤字でも所得税の確定申告をすることをおすすめします。

■給与以外の所得が20万円超の所得がある場合は確定申告が必要
サラリーマンで給与以外の所得が20万円超の所得がある場合などは、確定申告の義務がありますが、20万円以下の場合には申告義務はありません。そうは言っても、不動産賃貸経営を営んでいて、その購入資金を銀行から借り入れている場合は、銀行へ経営状況の報告が必要な場合もありますので、そのためにも確定申告はしておきましょう。

■給与所得と赤字の相殺ができる
確定申告を行うことによって、不動産事業の赤字を給与所得と相殺することも可能です(一定の要件あり)。将来的に不動産事業で所得が発生しても、青色申告であれば青色申告特別控除という特例により税金が抑制される場合もあります。

今後、不動産投資を拡大したい場合は、銀行からの融資がさらに必要となることがあります。そうした時に毎年確定申告を行うことによって、収支状況、所得状況に客観性が担保されます。

Q.株取引で赤字になりました。税金の得策はありますか? 

赤字
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(相談内容)

私は証券会社の口座を開設し、株取引を行っています。今年は売買で最終的に300万円も赤字となってしまいました。「特定口座の源泉徴収あり」を選択しているので、毎年株式で所得が出ても、確定申告は不要です。来年は頑張って取り戻したいのですが、何か税金での特例などあるのでしょうか。

(回答)株式の赤字は期限内に確定申告で3年間繰り越すことが可能です

株式の赤字は期限内に確定申告をすることにより、3年間繰り越すことが可能です。そうすれば、来年仮に300万円の利益が出ても、来年も確定申告することにより株式の利益は前年分の株式の赤字と差し引きされるため税金がかかりません。

株取引と言っても、FX取引など一部の取引における赤字は繰り越しできませんのでご注意ください。

参考:国税庁「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除

Q.生命保険の満期金受け取りは確定申告が必要でしょうか?

(相談内容)

生命保険の保険契約が満期となり、120万円の入金がありました。保険会社からの明細によると、この保険により所得金額が120万円発生しているので確定申告が必要と書いてありました。日中は多忙のため申告に行けそうにありません。申告をしなくても大丈夫でしょうか。

(回答)保険の満期金は一時所得として確定申告が必要です

保険の満期による所得は、一時所得として確定申告が必要です。保険の満期、解約返戻金の払い戻し、契約者変更などの情報は、保険会社から税務署へ「支払調書」が送られ内容が共有されています。申告をしていない場合は、後日税務署より連絡があるので、申告を行ってください。

■満期金を受け取っても申告不要なケース
生命保険の満期や解約返戻金の受取金額から今まで掛けた保険料などを差し引いた所得金額が50万円以下の場合は、非課税となり申告は不要です。
参考HP:国税庁「給与所得者に生命保険の満期返戻金などの一時所得があった場合

株で大儲け後にふるさと納税、その後の悲劇とは… 

落ち込む女性
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株取引をしており、特定口座を開設して「源泉徴収あり」を選択している方には気を付けて頂きたいポイントがあります。お得と思って起こしたアクションが、とんでもないことになってしまったケースをご紹介します。

株取引で利益が出ている中、ふるさと納税のために確定申告をしたケース

私の妻は株取引をしている専業主婦です。株でかなり所得が出ていますが「特定口座の源泉徴収あり」を選択しているので、確定申告は不要です。ちなみに今年の株式取引での所得は400万円位あるそうです。妻は友人から「ふるさと納税をしたほうがお得」とアドバイスを受けたようでふるさと納税を行い、還付申告を行いました。ふるさと納税で届いた御礼品のお肉やお魚でお得な気分になりました。

このケースでは、奥様が確定申告不要の株式の所得を申告したことで、奥様は400万円の所得があることになったため、ご主人の扶養に入れなくなり、ご主人の所得税、住民税が増加しました。さらに、幼稚園に通う子供の園の利用料が1年間増加してしまいました。

■申告不要の株式取引のメリットとは
申告不要の株式の特定口座(源泉徴収あり)の所得は、その株式の所得はその特定口座内で納税が完結するため、確定申告しない限り本人の所得として認識されません。そのため、どれだけ株取引で所得が出ても所得金額は0円となり、住民税や所得税に影響を与えることがありません。

■確定申告することで起こる悲劇
一方で、確定申告することで以下の問題が生じる場合があります。

①奥様の所得金額(株取引の儲け)が48万円超である場合、ご主人の扶養に入れません。ご主人の所得が800万円の場合、所得税(23%)と住民税(10%)を合わせると奥様が、ご主人の扶養に入れないことによって、12万5400円の税負担が増加します。

②自営業をされている場合などで、国民健康保険や後期高齢者医療保険に加入している場合、奥様の所得が増加すると世帯全体の所得が増加し、保険料が上がることがあります。

③子供が幼稚園等に通っている場合、利用料が高くなる場合があります。幼稚園等によっては、世帯の所得金額により利用料を算定するためです。

まとめ

所得税の確定申告は、昔に比べると分かりやすい書籍や国税庁のホームページ、申告作成ツールが充実し便利になってきました。一方で、税制改正やそれぞれの制度が毎年複雑になってきているため、申告書を作成するのも一苦労かと思います。税金の世界は事前に知っておくことで、税金の納めすぎを抑制できることもあるので常日頃からアンテナを張っておくことをおすすめします。