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Nintendo Switch2はなぜこんなにも品薄なのか

経済とお金のはなし 工藤崇

Nintendo Switch2はなぜこんなにも品薄なのか

【画像出典元】「Shutterstock AI/Shutterstock.com」

インターネット上では「抽選に通った」「落ちた」の大合唱です。任天堂が2025年6月5日に発売した「Nintendo Switch2」は事前の予想通り購入客が殺到し、大きな話題になっています。ただ任天堂も世界的な企業です。十分な製造技術と投資金額があると予測されるなか、なぜ発売当初に「品薄」になるのでしょうか。その理由を分析します。

製造能力を大きく超える需要予測

需要と供給
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同社の製造体制に関するSNSのXなどの告知を見ると、前提として万全の製造体制を整えていることがわかります。ロイター通信によると2025年5月の発表時、任天堂は今年度の販売台数を1500万台と予測していました。これは2020年度に発売されたソニーのPS5の出荷台数、約780万台の約2倍にあたります。この比較からも同社がフル稼働で販売供給力を確保していることは間違いありません。

ゲーム機は限定製造です。1年を通じて次から次へ需要が維持されるものというよりは、ハードの発売や魅力的なソフトの発売時期において、短期的に需要が上昇します。限られたリソースのなかで、狂いのない製造計画が求められます。

また「言語」の問題があります。世界中で使われている英語版でSwitch2を作成しても、日本に運べば問題なく流通するものではありません。Switch2は日本専用である日本版のほか、英語版や中国語版など16言語に対応しています。各言語に基づいた販売計画が必要な点も、品薄の1つの背景と言えるでしょう。

そのなかで日本版を適切に供給するには、日本における需要を的確に分析する必要があります。4月23日に任天堂は古川社長の名前でXを更新し、第1回・第2回の抽選販売で多くの落選者が発生したことを謝罪しました。

製造工程と関税の問題

任天堂のXでは、「事前に多くの部材を調達し、生産を進めてきた」と古川社長自身が表明しています。この背景にあるのが関税問題です。Switch2の製造素材は公開されているものではありませんが、一般的にゲームのハードにはアクリルやシルク、プラスチックなどが使用されます。特にアクリルの原料は石油です。石油は多くの人がイメージする中東地域のほか、アメリカからの輸入分も大きなシェアを占めています。

高性能のゲーム機の心臓はGPUです。特にSwitch2は専用とされるカスタム型を採用していると報じられており、増産のコストはとても高いものです。またGPUを構成する半導体は海外で製造されたものを輸入しています。なおSwitch2の半導体は決算などで明らかにされていませんが、日本において半導体の主要輸入先は台湾がトップです。

2025年5月に発表された任天堂の決算短信(通期)を確認すると、2025年4月10日時点の関税が通期で適用されたとして業績が発表されています。短信ではそのほかの製造コストについては言及されていません。

アメリカとの貿易といえば最近のトランプ関税問題です。石油やプラスチックは相互関税の対象になるほか、完成したSwitch2を輸出する時にも関税がかかります。これは任天堂の経営において大きなネックです。とはいえ海外市場は同社にとって大切な事業基盤であり、関税問題の不透明さは製造体制の構築にも影響しているとみられます。

転売対策の重荷

また任天堂はフリマサイトへの不正な出品を防ぐため、運営会社3社と協力体制を築くことで合意しています。ただサイト事業者側にも温度感があります。全般的な出品禁止を決断したYahoo!オークションやYahoo!フリマに対し、他社は「無在庫・発売前の出品禁止」で対応しています。

発売時、任天堂は転売対策として、下記の購入条件を課しました。

引用:My NINTENDO STORE

転売をしていると推測される人が普段Switchをプレイしているとは思えないため、すべてではないとしても大きな抑制効果が見込めるものでしょう。

最新の情報では対策むなしく、発売日当日の5日には一部の通販サイトやフリマサイトで、希望小売価格を上回る価格で出品されるケースが相次ぎました。

なお、転売そのものは違法とは限らず、現行法では「業としての無許可営業」や「景品表示法違反」等に該当する場合を除いて、法的な規制は限定的です。ただし、任天堂が抽選制を敷いてまで正規販売を行っている商品の価格がつり上がる状況は、「ブランド毀損」に繋がりかねません。

子ども向けの人気商品が「お金を出せば買える」という状態になることには、企業倫理上の問題もあります。

経済メディアによると、今回のSwitch2が店頭で「普通に」購入できるようになるには、数週間から数カ月がかかるだろうと見込まれています。8月の夏休み商戦に間に合うかというところでしょうか。ただ関税の行き末などによって前後することも考えられます。

任天堂が担う世界への「ソフトパワー」 

ゲームのコントローラー
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本記事のテーマは品薄の状況を軸としましたが、見方を変えると任天堂という民間企業が、それだけ世界中で求められるものを提供しているという誇らしい状況です。

かつてハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は軍事力や経済力に寄らず、音楽や映画、アニメ、漫画などカルチャーによる国の存在感を「ソフトパワー」と表現しました。日本において、任天堂はゲームを提供する代表的企業として、ソフトパワーを牽引しています。

古都京都が輩出した一大企業が提供したソフトパワーが、これからも世界中の子どもたちを喜ばせ、あらたな生活インフラを構築することを祈念しています。