なぜ金資産は値崩れしない?過去最高を更新し続ける理由とこれから

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監修・ライター
2024年春にイランとイスラエルの紛争が激化してから、それまで上昇傾向を見せていた「有事の金」とも称される金価格が短期間で著しく、さらに上昇しています。戦争リスクと政策金利リスクが値動きの大きな理由となる金は、2020年代に入り著しく価格が上昇、金資産の売却を推進する買取業者も「注目の資産である金!」と一押しを続けています。
とはいえ資産運用の神髄は「みんなが注目するようになったら既に天井超え」という見立てです。大半の運用商品にその傾向が該当するなか、なぜ金は長期間にわたっても天井を迎えず、過去最高を更新し続けるのでしょうか。
2025年後半も続く金の上昇

下のチャートは1gのインゴット(金塊)を単位とした2020年1月から最新調査日までの金の日足、その下は2025年に入ってからのチャートです。
(2020年1月1日~2025年9月9日)

(2025年1月1日から2025年9月9日)

金の価格を測るには先物や金を含む投資信託を基準とする方法もありますが、もっとも素材としてボラティリティ(価格変動性)が高いのはインゴットでの計測です。インゴットにてチャートの変動を見ていきましょう。
株式投資をしている方なら、S&Pやオルカン(オールカントリー)などのインデックス型投資信託でよく目にする「右肩上がりのチャート」です。ただ、投資信託と金で大きく異なる点に、構成銘柄の変更があります。
投資信託にて預かっている運用会社は、市況を見ながら随時、構成銘柄を見直します。これによって価格の下がった銘柄は外され、逆に勢いを増した銘柄が組み込まれます。投資信託の購入者にとってはリスク回避となり、取捨選択をすることによって右肩上がりのチャートが実現されることも可能です。
言い換えれば、このようなチャートは構成銘柄の変更があって初めて実現できるもので、変えようがない金などの貴金属では「通常はあり得ない」チャートといえます。では、なぜ金は右肩上がりのチャートとなっているのでしょうか。
金と「織り込み済み」

記事の頭でお伝えしたイランとイスラエルの紛争は、「世界に派生するかもしれない」という意味でその時点の十分なリスクでした。専門家のなかには中東の紛争において、さまざまなパワーバランスが働くために世界大戦にはならないという慎重論も目立っていました。一方でXなどのSNSには「第三次世界大戦のきっかけになる」「アメリカが介入すると戦争が本格化する」といった有事推測派の意見も目立っていました。
基本に立ち返ると、金を購入して値上がりのきっかけとなるのは「後者」です。どちらかの国に水面下で国際社会からの圧力が増して反抗を控えると、金の日足(一日の動き)は下落します。それでも上記のように長期的なチャートで見ると、上昇一辺倒のチャートに映ります。中東やロシアによるウクライナへの侵攻は、長期化しています。また戦争リスクと同様にアメリカに代表される政策金利の変動リスクも、2020年から金の価格に強く影響しています。
では、引き続き2025年の後半に至っても「過去最高の価格」という立ち位置が崩れない金は、この先はどうなるのでしょうか。ポイントは、「織り込み済み」という言葉です。
世界における不確実性
2025年現在、貴金属の視点で見ると戦争リスクは一通り価格に反映されています。また金利リスクに関しても、2025年9月以降のFOMC(米連邦公開市場委員会)において利下げは確実視され、関心はどれだけ利下げをするかの下げ幅に移行しています。投資家が予想できる状態(=織り込み済み)になると、一般的に金など貴金属は重要視されず、ほかの資産に移行すると目されています。
では世の中において今、何が「不確実性」なのでしょうか。
まずはトランプ氏の関税施策です。大きく「かまして」個別に妥協するところからTACO(Trump Always Chickens Out)取引とも揶揄されますが、国際社会は大きな影響を受けています。特にこれからは関税施策に応じない姿勢を見せているインドなどとアメリカとの関係です。とはいえアメリカも絶対王政では無く、2026年秋の中間選挙に向けトランプ氏(=共和党)も選挙に勝てる体制の構築が求められます。関税を巡る駆け引きがどのように変わっていくかは、金の価格にも大きな影響をもたらすでしょう。中間選挙に向け、トランプ氏が更に過激な国内政策を打ち出す可能性は否定できません。
もうひとつは、反欧米の勢力結集です。先頃中国は、日本との戦争終結80年記念式典において、中国・ロシア・北朝鮮の首脳が北京に集まり、関心を集めました。連携を示す仮想敵国は日本だけではなく、欧米各国と見られています。ワシントン・ポスト紙によると、特に中国は数年先における台湾進攻を示唆しており、実行段階では金も大きく反応することは間違いありません。
包括的に世界を覆う不安感と、個別に織り込まれていないリスクを分析して、資産運用としての金の扱いを決めていくことが、個人投資家の皆様に求められています。
※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします