「能」って難しい?? 能楽師・鷹尾さんに「能」について教えていただきました
監修・ライター
こんにちは!「暮らしをコンシェる?」木曜日担当の山口玲香です。
大人になればなるほど、日本の伝統文化について「もっと知りたい」「日本人ならば日本の伝統文化について、ちゃんと知っておかなくちゃ」そんな欲求が高まってきました。
その中でも「能」は難しそうなイメージが…。「能」ついて詳しく学ばないまま、気が付けばこんな大人になってしまって大慌てです!!
そこで今回は、福岡を拠点に能楽師としてご活躍の鷹尾維教(たかお・ゆきのり)さんに「能」について教えていただきました。
山口:そもそも「能」ってどういうものなんですか?
鷹尾:江戸時代くらいまでは「猿楽」といっていました。「猿楽」とはモノマネのこと。大陸から「散楽」つまり大道芸のようなものが入ってきて、それが形を変えて、神様への儀式になりました。その後、室町時代に観阿弥・世阿弥によって、劇として大成されたのが「能」の始まりと言われています。
山口:伝統芸能って難しそうなイメージがあるのですが?
鷹尾:伝統は難しいと思われるかもしれないけれど、「能」は世界で一番長く続いている演劇です。今は「現在」、1秒経ったらそれは「過去」になる。1分1秒、それが伝統になっていくんです。伝統は私たちが作らなくてはならないものだと思っています。
ご覧になる側はもっと自由に、もっと気楽に。構えて観ると、観えるものも観えなくなってしまいます。リラックスして観てください。
山口:「能」はどうやって観たらいいものなのですか?
鷹尾:ボ~ッと観てていいんですよ。寝ててもいいんです。半分寝てるような起きてるような、そんな夢の狭間で観てもらっても、全然いいんですよ。「能」には夢の中の話がたくさんありますからね。寝言とイビキと歯ぎしりはやめて欲しいけど(笑)
リラックスした状態で観ていると「ハッ!」とする一瞬があります。その一瞬を楽しんでほしいんです。だから「能」は動かない。動くために、動かないんです。
10回見ると、自分なりの見方・楽しみ方が発見できます。例えば、お囃子の音が好きだと感じたり、歩き方や声の出し方が気になったり、能装束の柄や配色、能面などいろいろなポイントがあります。全てを初見で観るのは無理ですから。
山口:なぜ能面をつけるようになったんですか?
鷹尾:簡単に言うと、生きている人間を演じる時、能面はかけない。女性の役やこの世のものではないものを演じるときは、かける。つまり能面をかけることによって、何か乗り移って違うものになるのが能楽師なんです。
舞台に出るたびに鏡の間で「この役にならせていただきます」という気持ちで能面をかけています。舞台で急に涙が出てきて、「何か降りてきたな」と思う瞬間があるんですよ。能楽師はシャーマンだと思っています。
300年くらい前の能面を使わせていただくこともあるんです。300年間で何人の能楽師がかけたと思いますか? その一人一人の思いや汗が染み込んでいるんです。能面をかけるということは、簡単なことではなく、特別な思いがあるんです。
山口:能って舞台も小道具もシンプルなので表現するのが難しそうですね?
鷹尾:例えば、能面をかけて少し俯けば、悲しい表情に。少し上を向けば、晴れ晴れとした表情に見えることがある。ほんの1㎝動かすことで表現しています。
扇はいろんな道具に変身します。腕を伸ばして両手で扇を抱えて、持ち上げるようにすれば盃になる。腕を伸ばして、角度を少し上げれば山をさし、少し下げれば水をさしているように見えるんです。
山口:限られた世界だからこそ、想像力を駆使して観ることが大切なんですね?
鷹尾:最近はVRなど、どんどん技術が進化していますが、それは受け身の体験ですよね? 作った人の意図を楽しむのは楽なんです。
能は積極的に「前に行こう、何かを観よう」としなければ面白くならない。想像の世界は、無限です。同じ曲を何度見ても、違う角度で観ることができるのが「能」なんです。今の時代とは逆行しているかもしれないですね(笑)
山口:能楽師はお家芸なんですか? 修行も大変そうですね。
鷹尾:誰でも明日から能楽師になれますよ。女性もなれます。ただし修行は大変です。
私は、1歳半から舞台に出て、芸歴51年。高校卒業してから入門して9年修行しました。師匠についてまわることが一番勉強になりました。師匠が他の人に教えていることを聞いて、自分が言われているんじゃないか?と気をつけることが大切なんです。
「気を付けて」とよく言いますが、この言葉は「自分の周りにバリアを張って、危険なものや違和感をどう対処するか」という意味があります。その「気」に注意を払い、対処するから自分が成長していくんです。舞台は生き物なので、その日その日で違います。
能楽師は舞台上でその「気」を読んでいます。演者も時代の流れで「気」を読めない若い人が増えてきている。裏を言ってしまうとね。
山口:無形文化財にも認定されている鷹尾さんですが、モチベーションを保つのは大変じゃありませんか?
鷹尾:稽古と練習の違いは何だと思いますか? 練習は決められたことをさせられること。稽古は、師匠に倣うときには完ぺきに100%以上のものしておかなくてはなりません。ですから稽古時間は決まってない。自分が納得するまで自主的に稽古する。全部教えてもらうのが当たり前だと思いがちですけどね。それは違うと思っています。
「能」を観たら、誰がやっていても「能」って凄い!と思って欲しくないんです。「これで満足するんですか?」と言いたくなることがあります。観る人がわからない人が多くなっているから、演者の質が落ちてきていると言えます。だから僕は努力しますよ。「気」が入った舞台じゃないと僕はやらない。足が折れても、立てなくなっても、飛ぶべきところでは僕は飛ぶ。それだけ「気」の入った舞台じゃないと絶対ダメです。
山口:観る側の私たちが目を養っていかなくてはいけないということですね?
鷹尾:「上手だな、この人は自分の波長に合うな」っていう能楽師が絶対いますよ。能楽師をセレクトするのは観る側なんです。全員に好きになってもらうのは無理だけど「良かったな!」と思ってもらえたら、また来てもらえます。そのために「また次頑張ろう! もっと好きになってもらおう!」と舞台を頑張っています。どんなことでも同じですよね?
山口:能楽師をセレクトできる、そのレベルまでいきたくなりました! アジアの玄関口として、世界に向けて、福岡にもこんな能楽師の方がいるって伝えていきたいと思います。
山口:これから能の世界はどうなっていくと思いますか?
鷹尾:能の世界にもいろいろな考えの方がいらっしゃるので、一緒に歩んでいくためには、牽引するというより、その考えをまとめていくことが大切だと思っています。
全国の能楽師は1000人ちょっと、福岡には50人程度いらっしゃいます。皆さん、ちゃんと収入を得て、生活していかなくてはなりません。今後、能楽師も育っていかなくてはいけません。そのためには、お客様にも育っていただき判断していただかないと、能は儀式としてしかやっていけなくなってしまいます。
山口:能について知っていただくために、ワークショップなども開催されていますよね?
鷹尾:外国でもワークショップを開催させていただいたことがありますが「遠くを見る仕草をしてください。」と言うと、みんな額に手を当てて遠くをみるしぐさをする。日本人も外国人も一緒の反応で面白かったですよ。日本人は構えちゃいますが、外国人は素直に反応してくれる。外国人だからこそ、先入観なく、日本人が感じられなかったことを感じてもらえることもある。「気」が伝わるんですね。
山口:10/28にも外国人の方にも楽しんでいただけるイベントがあるそうですね?
鷹尾:はい。まずは黒紋付を着た状態で「八島」を舞います。その後、能装束の着付けを見てもらい、その衣装で同じ舞を観てもらいます。ややこしいことを考える必要はないんです。
楽しいことは自分で勉強しますよね? まずは1回観て欲しい。1回観たら、10回観て欲しい。そしたら、何か観えますから。
鷹尾さん、たっぷりと「能」の世界について教えていただきありがとうございました。
難しいイメージだった「能」。
確かに歴史の分だけ奥が深いものですが、それを簡単に全て解ろうとすることがおこがましいことでした。まずは気軽に、私なりの「能」の楽しみ方を見つけるつもりで観に行ってみようと思います。
あなたも10/28のイベントにお出かけになって「能」の世界に触れてみませんか?
※THE 能 × ESCAPE「能遊美~NOH ASOBI」
■日時:10月28日(土)17:30開場
■場所:大濠公園能楽堂(福岡市中央区大濠公園1-5)
■入場無料 先着300名 ※下記HPからの応募が必要
http://rkb.jp/escape/
※能楽師 観世流シテ方:鷹尾維教氏 プロフィール
能楽師観世流シテ方。56 世梅若六郎、父・鷹尾祥史に師事。
1966 年 (02 歳) 初舞台 仕舞『猩々』。
1983 年 (19 歳) 56 世梅若六郎に入門。
1992 年 (28 歳) 独立 披露能『石橋』。
2001 年 (37 歳) 弟・章弘氏とともに『鷹の会』 ( 兄弟で能の研究と普及を目的とする会) 結成。能楽ワークショップや、福岡で初の薪能を行なうなど、現代空間を活かした公演も積極的に行なう。
九州能楽界の第一人者である鷹尾祥史の長男として、今後の九州能楽界を担う中心的存在。『緑申会 (ろくしんかい) 』主宰。