日本人観光客にあまり知られていないスマートなチップの渡し方とは?
日本にはなくてアメリカにあるものの一つに、チップの文化があります。観光や留学、出張などで日本からアメリカを訪れたなら、慣れないうちは戸惑うこともあるかもしれません。今回はそもそもチップとは何か?在住者が考えるチップ観と、日本人が知っているようで知らない「スマートな渡し方」をご紹介します。
アメリカで根深いチップ文化
アメリカにチップがあるのは周知の事実ですが、実は15年ほど前、一部の都市で「チップ不要論」が叫ばれ、小さなトレンドが生まれたことがありました。これは一部の店舗が始めたもので、チップを価格にインクルード(込みの料金)にし、面倒なチップ文化を無くそうという動きでした。
同じ潮流で、2009年に創業したウーバーも、当初は「チップ不要」が一つの売りでした。
しかしこのトレンドは根付くことはなく、ウーバーなど「チップ不要」を謳っていた企業や店が次々にチップ制を復活させました。結局このトレンドの顛末は、アメリカでチップ文化がいかに根深いかを物語ったのでした。
そもそもチップとは?
そもそもチップとは何でしょうか?
アメリカでよく使われるオンライン辞書、dictionary.comで定義を調べると、このように説明されています。
「サービスや仕事(スキルが必要ない単純作業)をした人が直接与えられる少額の金銭の贈りもの」
つまりチップとはサービスや単純作業に対して、感謝の気持ちが示された心づけということですね。「直接」というのは、チップが雇用主に搾取されず、その人のポケットマネーになるという意味です。
チップをもらう仕事は通常、レストランのサーバー(ウエイター、ウエイトレス)、バーテンダー、ホテルのスタッフ(タクシーを呼ぶスタッフ、ポーター、清掃スタッフ)、タクシー運転手、美容師、マッサージ師、ツアーガイド、配達員などで、どこかの会社や店に属している人です。
特にレストランのサーバーは(ポリシーは店ごとに異なりますが)通常は基本給がなく、チップ=給料(もしくはその大半)というスタイルが多いので、チップの支払いを忘れたり少額だったりする客は店の外まで追いかけられる、なんていう話も聞きます。
また最近では、レストランのサーバーだけチップを稼ぎ、キッチンスタッフ(シェフ、バスボーイ、皿洗いなど)にチップがないのは不公平だという声も上がり、「キッチン・サーチャージ」なるものを徴収する一部の高級店もあります。
紙幣のスマートな渡し方
以前、日本から訪れた団体客をある施設に案内した時のこと。ツアーが無事に終わり、私は心付けとしてガイドをしてくれたスタッフにチップを渡すよう参加者に伝えたところ、どうも紙幣の渡し方に慣れていないようで、紙幣を折り畳まずそのまま堂々と渡していました。この時に、チップは日本にない習慣だから馴染みがなく、スマートな渡し方を知らないのだと知りました。
チップでなくとも、正月のお年玉や金銭の返却などで、日本でも現金を渡すシチュエーションはあります。女性ならぽち袋を使って、中身の金額を隠す人は多いでしょう。
アメリカにもそのような袋がないわけではありません。この国はカード文化なので、女性であれば素敵なカードと一緒に封筒(もしくは事務的なただの封筒)に現金を入れ、渡したりすることはあります。(男性はそのような目的で封筒を使いません)
例えば、対美容師や配達員など日常的にチップを渡すシチュエーションでは、チップとして紙幣をそのまま直接手渡しします。ただしこれ見よがしに渡すのではなく、紙幣を3つか4つに細かく畳んで片手でそっと(ほかの人に見えないよう)渡すのがスマートな渡し方であり、相手への礼儀だと筆者は考えます。素敵なぽち袋にわざわざ入れる必要はありませんが、決して紙幣を伸ばしたまま堂々と渡さないのが暗黙のマナーとなっています。
レストランでは帰り際に紙幣をそっとテーブル担当者に渡すか、テーブルの上に置いて退店しても良いでしょう。(屋外の場合は風で吹き飛ばされないように、紙幣の上にコップなど重りを乗せておくと安心)
そのほか、ホテルの清掃員などに渡す場合は、サイドテーブルや枕元にチップを置いて外出すると良いでしょう。
クレカに含める渡し方も
チップの渡し方としてもう一つ、主流の方法があります。それはバーやレストランなどでクレジットカードやデビットカード払いをするときに渡されるレシートに数字を記入する方法です。そこにはチップ欄と合計欄が空白になっていますから、チップの額を直接書きましょう。
またテーブルで渡されるものとしてここ数年で増えているのは、レシートではなく小さな端末です。この場合、その端末に直接指でタップ(もしくはタイプ)してチップ額を選びます。(Apple PayやGoogle Payなどモバイル決済であっても、クレジットカード払いと同様に端末に入力します)
ちなみに大手コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーによると、アメリカのデジタルペイメントの利用率は2022年時点で89%に達し、標準的な決済方法の一つになっているという情報もあります。
チップのパーセンテージは?
ではチップは金額の何パーセントを支払えば良いのでしょうか。
エチケット講師の声やいくつかの情報をまとめると、アメリカでのチップは15~20%というのが定説です。
しかしコロナ禍以降はチップのパーセンテージの選択肢が18%からスタートし、20%、25%、30 %の幅になっていることも増えました。もちろん、サービスに満足しなかった場合は10%や15%などをマニュアルで選ぶことはできるようになっています。ただ、小さな端末を渡される際、担当の店員が目の前にいるので、慣れていない旅行者などは焦ってしまうでしょう。ここは焦る必要はなく、冷静にチップを選べば良いのです。
また18%からスタートし20%、25%...の幅も、あくまでも店側の「提案」なので、必ずしもその額のチップを支払う義務はありません。大切なのは自分が納得した心付けの額を贈るという気持ちでしょう。
ちなみにピュー研究所の調査結果に基づいた昨年のCNBC報道によると、アメリカ人がもっともチップを支払うシチュエーションは着席スタイルのレストランで、パンデミックで飲食業界が苦境に陥る中、人々はコミュニティの人々を助けるためにチップの支払いに寛大になりました。それで前述の18~25%の選択肢に移行したのです。
ただ最近では、チップが自動的にレシートに入力されている例もいくつか見られます。筆者もレストランやバーでレシートをよく見ると、そのような例が増えたと実感しています。そして「チップフレーション」や「チップファティーグ(チップ疲れ)」という言葉まで出てきています。チップフレーションというのはインフレーションから生まれた造語で、インフレの進行によりさらにチップに頼る企業や労働者が増えていることから生まれました。
一方で専門家によると、レストランでチップを払う人々の意欲が低下している動きも見られチップ廃止を求める声も根強いということです。実際の調査結果でも、客の半数以上が支払ったチップは15%もしくはそれ以下だったと報じられました。
またチップを払う目的は、サービスの質への対価ではなく、社会的な承認(エチケット、義務、ディナーを共にする人への見栄など)という意見も。つまり「チップを払う=承認を買っている」という感覚があるのだとか。
このようにやや複雑な事情や背景が見え隠れするアメリカのチップ文化。一方日本はチップ制がなくても提供されるサービスの基準が得てして高いですよね。チップに頼らなくても質の良いサービスを受けられる日本の素晴らしさを改めて認識したのでした。