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国の借金をお金に変える政府暗号通貨「松田プラン」とは

松田 学のみらいのお金と経済 松田 学

国の借金をお金に変える政府暗号通貨「松田プラン」とは

目次

 日本の財政は先進国最悪と言われます。2020年度末で、将来、税金で返さなければならない国の借金である普通国債の発行残高は900兆円を超えることになります。日本のGDP(国内総生産)は560兆円ぐらいですから、これは大変な額。一年間、国民全員が一生懸命働いて稼いだ金額の全額を借金返済に充てても遠く及びません。

どうやって借金を返すのか、国債は60年かけて返すのが日本のルールですから、子どもや孫たちの負担は大変ではないか、と、心配される方も多いと思います。

でも、そのすべてを税金で返さなくても済む方法があります。国債をお金に変えてしまうことで、現状でも、国の借金の半分以上を消してしまうことができないわけではありません。しかも、そのお金で、いまよりもっと便利な世の中が実現します。

そんなマジックがあるものか?何かまやかしがあるのではないか?と思われるかもしれません。でも、情報技術の進歩は、いままで考えられなかったことをどんどん実現していきます。そこから新しい発想が生まれます。

これまで、この連載では「仮想通貨」を中心にお金の話をしてきましたが、その基盤となっているブロックチェーンを活用して「法定通貨」を発行すればどうなるか。そして、その法定通貨を政府が発行すればどうなるか。一種の「コロンブスの卵」かもしれません。

今回はいよいよ、政府暗号通貨「松田プラン」の説明に入りたいと思います。

情報技術で世界の変化の始まりが始まる

今年2020年はどんな年になるのか…?こう尋ねられたとき、私は「世界の景色が変わり始める年になる」と答えています。なかでも、電子データが主導するかたちで、社会の大変革がお金から始まるかもしれません。日本は従来の発想を超えて、その備えを開始すべきだと考えています。

まず、今年から日本でも5Gの実装が始まります。これは従来の4Gと比べて、通信速度が100倍、「高速・大容量」、「超低遅延」、「多数同時接続」の3つの特性によって、IoT(モノのインターネット)を実現可能にするものです。日本政府の言う仮想電脳空間(バーチャル)と物理空間(フィジカル、リアル)とが一体化する「Society5.0」の基盤にもなるでしょう。

ただ、この5Gも現時点では、産業の現場からは、4Gではない5Gならではのメリットが見当たらないとの声が大勢です。むしろ、5Gで何をするのかを自ら考えるイノベーションの基盤ができる段階だと捉えるべきでしょう。ですから、変化の「始まりが始まる」と言っております。

ブロックチェーン革命もそうです。何もブロックチェーンにしなくても、クラウドで十分という声が、まだあちこちから聞こえてきます。そこでも問われているのは、ブロックチェーンのメリットそのものを創造するこれからのイノベーションです。

しかし、世界では、このブロックチェーンから新しい動きが胎動し始めています。中国がいよいよデジタル人民元を発行する可能性が現実味を帯びてきました。リブラ(Libra)の行方とも相まって、今年は既存の通貨システムやお金の概念そのものが変わり始める年になると思われます。

デジタル通貨で揺れ動く既存の通貨システム

最近では、中国だけでなく、世界の主要金融当局の7割がデジタル通貨発行について研究しているという話もあります。

昨年では、すでにフェイブックが提起するリブラが、各国の通貨当局に大きな衝撃を与えていました。スマホで手数料なしで一瞬で1ドル程度の少額でも世界中どこでも送金できる…。そうなれば、預金口座も開けない人々が多い新興国や途上国だけでなく、世界中の人々に便利さを十分に提供できてこなかった既存の通貨システムの側としては、言い訳のしようもないでしょう。

そのインパクトは、各国がこれまでの通貨で行ってきた経済政策に影響を与えるとか、国際金融情勢を不安定化させるといった経済面にとどまるものではないと思われます。通貨とは本来、国家主権そのものです。人々に日常生活で最も頻繁に国家の存在を意識させているものだといえます。

もし、20億人を超えるフェイスブックのユーザーたちがリブラを使い始めたら、国境を超えた「リブラ帝国」が誕生し、世界の政治体制まで揺り動かすことになると予想する人もいます。

これまで「仮想」通貨だった暗号通貨を、世界の先陣を切って「法定」通貨へと導入する中国では、ブロックチェーン技術の開発はすさまじいものがあるようです。ビットコインがブロックチェーンのバージョン1だとすれば、現在はインテリジェンス(諜報)の機能を備えたバージョン6まで開発済みとの噂まであります。

実は、この連載でも説明してきたブロックチェーンについては、2つの使われ方があります。一つが、ビットコインのように「パブリックチェーン」として使う方法で、これだと、中央に管理者が存在しないP2Pの分散型の仕組みになります。

もう一つが、ブロックチェーンを、中央に管理者を置いて使う方法で、「プライベートチェーン」と呼ばれます。この方法で通貨を発行すると、発行元が、たとえば日本のマイナンバー制度などとは比較にならない精度の高いユーザー情報を得ることになります。

デジタル人民元について、中国当局は表向き、国内での銀行間の決済システムなどへの使用にとどまるなどとしていますが、いずれ中国が主宰する国際秩序ともいえる「一帯一路」構想にデジタル人民元が乗ることが予想されないわけではありません。そうなると、これが米ドルを脅かす基軸通貨になる可能性も指摘されています。

そもそも、現在の米ドル基軸通貨体制からの脱却は、中国の長年の悲願です。最近の米中新冷戦による世界の分断が、国際通貨の面でも起こりかねません。

「債務トラップ」で知られる中国の手法は、相手国に人民元建てで貸し付け、ドル建てで返済を迫るというものだとされます。そもそも暗号通貨は、貿易金融や国際決済の上で最もメリットが大きいものです。すでに日本では中国系電子マネーアプリが普及しています。中国の方々を「おもてなし」する日本で、中国当局が人民に対する監視の手段としても普及させたいデジタル人民元や、これと接続する電子マネーを日本人が使用したらどうなってしまうのか…。

やはり、日本として通貨主権と国民の個人情報を守り、情報技術がフル動員されている「ハイブリッド戦」からも国を守る必要があると思います。そのためには、独自のデジタル法定通貨の発行が急務だと考えます。すでに、自民党からも「デジタル円」発行の声が出ています。

財政再建はストック(国債残高)の処理で

 私は、この「デジタル円」を法定通貨として、日本銀行ではなく政府が発行する「政府暗号通貨」のかたちで発行することを提案しています。

政府には本来、通貨発行権があります。よく、政府紙幣を発行すべきだという議論が聞かれますし、現に日本政府はさまざまな記念硬貨を発行してきました。

その形態が紙や硬貨ではないだけで、デジタル通貨のかたちで政府が通貨発行権を活用すればよいというのが「松田プラン」の考え方です。そうすれば、国債が政府暗号通貨に姿を変えることが可能になる…このメカニズムを以下、ご説明いたします。

ここでの説明は、本連載の前回の私の記事「日銀が保有する国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?」をご参照いただければ、よりわかりやすいかもしれません↓

https://mymo-ibank.com/money/3344

 国債発行残高が累積して先進国最悪となっている日本の財政は、私が財務省などで得てきた知見からみても、もはや、通常のフロー(毎年のお金の流れ)の対策では不可能な状況にあると思います。つまり、財政再建の方法は、支出を削るか、増税をするか、経済成長を高めて税収を増やすといった3つのフローのルートでの対策しかないとされてきましたが、それだけでは無理だということです。

そこで、私が着目しているのが、フローではなく、ストックの対策です。ストックとは、資産や負債の残高です。一般の企業もそうですが、それはバランスシート(貸借対照表)で表されています。左側には資産、右側には負債と資本金を計上し、左側の金額の合計と右側の金額の合計が一致するようにバランスシートが組まれています。右側が左側よりも多いと、債務超過になります。企業として財務状況が健全ではない状態です。

「松田プラン」は、政府の負債というストック、つまり国債そのものを消滅させていくことで、抜本的な財政健全化を図ろうとすることを眼目の一つとしています。

国(政府)の場合は資本金がありませんので、資産より負債の金額が多いと、その差額が債務超過ということになります。2018年3月末の国のバランスシートでは、資産の額が671兆円、国債など負債の額が1,239兆円で、債務超過の額、つまり、それらの差である「純負債」は568兆円です。国債発行残高がたとえ900兆円であろうとも、その一部は資産によって裏付けられているので、本当の債務は、この純債務(=純負債)の金額でみるべきだとも言われています。

政府と日銀を連結した「統合政府」でみると

ここに「統合政府」の考え方を導入します。これは、政府と中央銀行(日銀)を、あたかも一つの会社のようにみなして、両者のバランスシートを連結させて財務状況を判断する方法です。これでみると、統合政府の純負債は、政府の純負債(568兆円)から100兆円以下にまで縮小します。なぜでしょうか。

統計の関係から時点は1年ズレますが、先に述べた2018年3月末時点での政府のバランスシートと、2019年3月末の日本銀行のバランスシートを連結すると、日銀が保有している470兆円の国債は、政府の日銀に対する負債であるとともに、日銀の政府に対する債権として資産に計上されています。バランスシートを連結すれば、両者は一つの会社のなかでの債権債務ですから、相殺されます。

つまり、政府だけでみれば純負債は568兆円でしたが、日銀との連結で、そこから470兆円差し引いた98兆円が純負債として残っているだけということになります。

では、470兆円の政府の債務は、統合政府全体では、どうなっているのでしょうか?それは、日銀当座預金という日銀の負債に姿を変えています。

つまり、アベノミクスのもとで行われている異次元の金融緩和で、日銀が保有する国債残高は、この金融緩和政策が始まる直前の2013年3月末の125兆円から、6年後の2019年3月末までの間に470兆円まで、345兆円増えています。これは日銀が民間から国債を買ってきたためで、日銀が国債を購入する代金は、民間の銀行が日本銀行に持っている日銀当座預金に振り込まれます。結果として、日銀当座預金は、この間、58兆円から394兆円へと、336兆円増えています。

この日銀当座預金394兆円は、日銀が返済しなければならないという意味での負債ではありません。基本的には、日銀が国債などの資産を金融機関に売却しなければ縮小しない性格のものであることは、前回の本連載で解説したとおりです。470兆円と394兆円の差額は、これも日銀の負債である日本銀行券(民間にすでに流通しているお札)に対応するかたちになっていますが、これも日銀が民間に対して返済しなければならない負債ではありません。

つまり、政府が民間に対して返済しなければならなかった国債は、日銀がこれを保有することで、民間に対して返済する必要のない帳簿上の負債に姿を変えているわけです。普通国債の発行残高の半分以上の470兆円もの国債が返済不要な借金になっている…、アベノミクスは思わぬところで、大変大きな財政再建効果を発揮しているともいえるでしょう。

財政再建を確定させる永久国債の考え方

ただ、この状態を放置しておくと、元に戻ってしまいます。日銀が保有する国債も満期を迎えれば、償還しなければならないからです。

その時点で政府は借換債のかたちで国債を発行して民間から資金を調達しますから、満期を迎えた日銀の国債は日銀のバランスシートから消え、その分、日銀当座預金も減り、日銀のバランスシートは縮小しますが、政府の負債は減らずに、民間に対して返済しなければならない国債が増えることになり、財政再建効果は元に戻ってしまいます。

そこで、せっかく実現している財政再建効果を持続させるために、満期を迎えた日銀保有国債は、政府が発行する償還期限を定めない永久国債に乗り換えていくことが考えられます。この永久国債は日銀から民間に売らないでくださいと、政府と日銀が協定(アコード)を結びます。そして、この永久国債に対して政府が日銀に支払う金利は、日銀が政府に納付することとすれば、政府は元本も金利も負担する必要がなくなります。

つまり、日銀が保有する国債は、満期を迎えるたびに、政府が民間に対して返済負担をする必要があるという意味での負債ではなくなります。

国債が消えるというのは、こういう意味です。日銀は永久国債から受け取る金利を政府に返しても、負債側は実質的なゼロ金利である日銀当座預金ですから、日銀が永久国債を保有することに伴う負担も実質的にはないことになります(この点は少し複雑な解説が必要ですが、ここでは省略します)。

金融緩和の出口を円滑化させるために

さて、日銀はいずれ、インフレ率2%目標が達成された暁には、現在の異次元の金融緩和をやめて、日銀のバランスシートを縮小させていきたいと考えているでしょう。それはまだ、少し先の数年後になる見込みで、それまでは日銀は国債購入をやめずに、バランスシートはさらに拡大していくと予想されますが、いずれ、そうした「出口」に向かうときがくるはずです。

ただ、この「出口戦略」は容易なものではありません。中央銀行が出口戦略に向かうというだけで、金融市場では金利が急に上がる懸念があるからです。日銀と同じく、国債などの債券を市場から買うことで「量的金融緩和」を行っていた米国のFRB(連邦準備制度)も、出口への転換の際には極めて慎重でした。現在は再び、金融緩和に戻っています。

恐らく、「出口」で日銀が保有する国債を民間に売却するというのは、金利が急騰する懸念から、実際にはなかなか簡単に踏みきれない政策でしょう。

では、拡大したバランスシートはどうやって縮小するのか。

ここで出てくるのが「政府暗号通貨」です。

政府がこの政府暗号通貨で日銀が保有する永久国債(日銀が保有するそれ以外の国債でも構いません)を償還すれば、その分、日銀の資産は国債から政府暗号通貨へと置き換わります。政府暗号通貨は日銀が保有すれば、それは日銀の資産になります。(日銀が暗号通貨を発行すれば、それは日銀の負債となりますので、この点が日銀コインとは異なります。)

日銀が自らの資産となった政府暗号通貨を民間の銀行に売れば、国債を売ったときと同じように、その分、日銀の資産は縮小し、日銀の負債である日銀当座預金も同額、縮小します。こうして、日銀のバランスシートが縮小することになります。

国債を売って金融市場に混乱をもたらす懸念なく、いまの金融緩和政策が自然に出口を迎えることが可能になります。

財政規律もインフレも懸念は不要

政府が暗号通貨を自ら発行することになれば、それが打ち出の小槌となって、財政はどんどん膨らんで規律がなくなるし、お金の供給量が増えてインフレになる…そう懸念される方も多いでしょう。

ここで、政府暗号通貨の発行に次のような厳格なルールを設ければ、その懸念は払拭されます。すなわち、政府暗号通貨を一般の方々が手にするためには、その小売店である銀行の窓口で購入することとし、銀行は、それに応じて、卸売店である日銀から政府暗号通貨を購入し、日銀は、製造元である政府に対して、日銀が保有する(永久)国債を政府暗号通貨で償還するよう要求することにすればよいのです。

こうした場合に限って、日銀からの要請に応じて政府は暗号通貨を発行できるという厳格なルールを設けます。こうすれば、政府は発行したいときに暗号通貨を発行できるわけではなく、民間からの需要に応じた受け身のかたちでのみ、発行できることになります。

政府暗号通貨を購入する一般の方々や企業などは、購入金額を預金口座から引き落としたり、現金で購入したりすることになります。ですから、市中のお金の量(マネーストック、マネーサプライ)は、その構成が、預金通貨や現金から政府暗号通貨へと移るだけで、全体の量は、これによって変わるものではありません。ですから、インフレの懸念はありません。

政府暗号通貨の財源は、日銀が保有する国債であり、日銀当座預金であり、市中で流通する日本銀行券です。現在、上記の数字でみたように、それらがこれだけ巨額であれば、財源としては十分でしょう。

アベノミクスは、国債を消して財政再建をしてくれたことと、暗号通貨発行の財源を蓄えてくれたという二重の意味で、大きな成果をあげていると評価できることになります。

では、こうした財源を超えて、政府暗号通貨への需要が高まったときは…?そのときは、通貨供給量をコントロールする日銀の出番です。だからこそ、このオペレーションでは、発行元の政府と需要側の民間との間に、当初から日銀を介在させています。

逆に、政府暗号通貨への需要があまりなかったとしたら、このオペレーション自体に意味がないのではないかというご懸念もあるでしょう。

実は、人々が政府暗号通貨を買いたいと思うだけの十分な仕掛けがあります。それが、ブロックチェーンの特性である「スマートコントラクト」です。これにより、政府関係の手続きが支払いと一体となって、利便性の高い世の中を効率的に創り出すことになります。

「松田プラン」について、まだ知っておいていただきたい点はいろいろとありますが、次回以降に譲りたいと思います。

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