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日銀が保有する国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?

松田 学のみらいのお金と経済 松田 学

日銀が保有する国債が返済不要な債務になっているカラクリとは!?

最近、新聞などでも「デジタル人民元」という言葉がしばしば登場するようになりました。このコーナーではすでに何回かに分けてブロックチェーンの仕組みで発行される仮想通貨(暗号資産)について述べてきましたが、それは「仮想」という名のとおり、私たちが日常、使っている本物の通貨、つまり、国が法律によって通用力を与えている「法定通貨」とは異なるお金だという前提が、暗黙のうちにあったと思います。
ところが、中国はこの仮想通貨の技術基盤であるブロックチェーンを使って、デジタル人民元と呼ばれる法定通貨を、早ければ今年2020年のうちにも発行するのではないかと言われています。暗号通貨の世界にもいよいよ、法定通貨が本格的に誕生するのか…。


かたや昨年はフェイスブックがリブラ(Libra)を提起し、これも現実に発行されるのかどうか、各国の通貨当局がいま、その規制の枠組みについて議論しています。欧州でもデジタルユーロなど、法定暗号通貨の発行に当局が言及し始めています。
こうした暗号通貨での大きな動きが、これまでの通貨のあり方全体に大きな変革を引き起こす可能性が出てきました。
では、円を法定通貨として使っている私たち日本はどうするのか。
私は、政府が暗号通貨を発行することで、日銀が大量に持っている国債を「政府暗号通貨」というお金に変える「松田プラン」を提唱してきました。これがなぜ、喫緊の課題なのかは、その具体的な内容とともに、回を改めてご説明します。


また、私は政府暗号通貨のほかに、民間がブロックチェーンを使って自由に発行する多種多様なお金を「みらいのお金」として提案しています。これは、市場経済での競争を基本とする資本主義社会とはひと味異なる、人々の協働を軸とする社会、「協働型コモンズ」を実現する基盤になるものですが、これも回を改めたいと思います。
今回は、そちらに行く前に、これらの提案の意義について十分にご理解していただくために知っておいて頂きたいことがありますので、以下、そのお話をしたいと思います。
それは、そもそも「いまのお金」はどうやって生み出されているのか、というお話です。

いまのお金を増やしているのは日銀ではなく、市中の銀行

いま、安倍政権の「アベノミクス」のもとで、異次元の金融緩和と言って、日本経済で流通するお金の量を増やそうとする政策が続けられています。ここで多くの人々が誤解しているのは、市中のお金を増やしているのは中央銀行である日銀である、ということです。日銀がお札(一万円札などの日本銀行券)を大量に刷りまくっている、などとも言われます。
実は、これは正しくありません。
日本で私たちが使う法定通貨(日本円)は、現金(お札や硬貨)と銀行預金です。世の中でキャッシュレスが進んで電子マネーを使う人が増えても、それは、これら法定通貨と結びついていて、最終的には、銀行預金(場合によっては現金)で決済されます。
ちなみに、仮想通貨は「円」とは異なる独自の単位で取引されていて、「通貨」には分類されていませんし、法律で通用力が与えられているものではありません。


日本経済全体で、市中で流通している「市中マネー」の量は、マネーストック(あるいはマネーサプライ)などと呼ばれています。このマネーストックのほとんどが銀行預金です。
銀行預金にも、普通預金、当座預金、定期預金など、いろいろな種類があり、そのうちどこまでがマネーストックに入るのかは、定義にもよりますが、定期預金と違って、現金と同じように、いつでも支払いや送金に使えるのが普通預金や当座預金。これらをあわせて「要求払預金」が「お金」としてマネーストックに入ると考えると、わかりやすいと思います。
現金+要求払預金を「M1」と言いますが、ざっくり言って、現金が100兆円あまり、要求払預金が700兆円程度、あわせて日本経済のお金の総量は800兆円程度です。つまり、お金のほとんどは銀行預金です。


では、この銀行預金を供給しているのは誰でしょうか?皆さんがお札を銀行に預金すれば、預金が生まれますが、そのお札も元々は、誰かが生産活動をして生み出したお金で、たいていの場合、それは銀行に預金されていたもの。預金から引き出した現金がまた、預金されていくわけです。
では、そもそも生産活動をするためにはお金が必要ですが、そのお金は、どうやって生み出されるのでしょうか?少なくとも日銀ではありません。
それは、銀行が、生産活動をする企業や人にお金を貸すことによって生まれます。銀行がお金を貸すことを「信用創造」と言います。マネーストックは、日銀ではなく、銀行による「信用創造」によって生まれ、信用創造によって増えていくものなのです。
銀行からお金を借りた方ならどなたでもご存知だと思いますが、銀行がお金を貸すとき、預金通帳を作ってください、と言われます。その預金通帳に銀行が貸し付けるお金の額の数字が打ち込まれます。皆さんが使えるお金が、これで誕生します。


金本位制の時代には、お金を銀行に持って行って金(きん)と交換してもらえましたので、金の裏付けのないお金を好きなだけ生み出すことはできませんでした。いまは金などの裏付けがなくても、電子的に通帳に記帳すればお金は生まれますが、一応、預金の引き出しにそなえる準備のため、銀行は「準備預金」を日本銀行に積んでいます。
この準備預金は、銀行が日本銀行にもっている「日銀当座預金」に積んでいるお金ですが、銀行預金のうち一定比率は、準備預金としてこの口座に積まなければなりません。銀行の窓口で預金をおろせなくなると、信用問題になるからです。
準備預金の銀行預金に対する比率は「法定準備率」と呼ばれていますが、現状では極めて低い水準で、現実には、銀行が信用創造をする制約になるようなレベルではありません。

儲け無きところにおカネ無し、いまのお金は資本主義のお金

ならば、銀行はいくらでも好きなだけ、お金を貸すことでマネーストックを増やすことができるのか?といえば、そうでもありません。銀行は債務として、預金を預かり、預金者に金利を支払っています。この金利は銀行にとってコストです。銀行も商売ですから、コストを上回る収入がなければ、銀行業はできません。
そこで、銀行は、貸したお金に金利をつけて返してくれると判断できる先にしか、お金を貸せないことになります。金利収入が得られなければ、銀行は商売にならないからです。お金を借りた企業や個人は、借入期間の間に、元本だけでなく金利をつけて銀行にお金を返すために、お金儲けをしなければなりません。
つまり、「儲け無きところにおカネ無し」、カネ儲けができるところにお金が生まれる…。まさに、いまのお金は資本主義のお金です。資本主義社会では、人々は金利を返すために、金利に追われて一生を過ごす、などとも言われます。経済活動に欠かせないお金は、債務が発生することで生まれます。いまのお金は「金利付き債務貨幣」とも言われます。
私が提唱する「みらいのお金」は、いずれ回を改めて解説しますが、これとはまったく異なる仕組みで生まれるものです。

金融緩和で日銀はお札を刷りまくっている、というのは真っ赤なウソ

このように、お金を増やしているのが日銀ではなく、市中の銀行だとすれば、アベノミクスの異次元の金融緩和で黒田日銀総裁は、どうやってお金を増やそうとしてきたのでしょうか。少し難しい言葉ですが、そのメカニズムは「ポートフォリオ・リバランス」と言われます。
日銀がいまの金融緩和でお金を増やすために何をしているかと言うと、それは主として、日銀が金融市場で金融機関から国債を買うという手段で行われています。
日銀にも資産と負債を計上するバランスシートがあります。資産と負債とのつじつまが合っていなければなりません。日銀が国債を買うと、それは日銀の資産を増やします。
他方で、日銀は国債の購入代金を、さきほど触れた日銀当座預金に振り込みます。これは日銀の負債になります。日銀は国債を市場から買うことで、その金額だけ、資産と負債を両建てで増やしています。
日銀当座預金は、銀行が日銀に預けているお金ですから、銀行からみれば資産になります。ところが、その資産は基本的に金利を生みません。日銀当座預金の金利は、準備預金に相当する部分はゼロ、それ以外は、0.1%という、大変低い金利です。数年前から「マイナス金利」といって、一部はマイナス0.1%という金利になっています。


お金を貸すなど、資産の運用で金利収入を得ることが商売の銀行にとっては、これは金利を生まない「ノン・パフォーミング・ローン」、つまり、不良債権のようなものです。これがあまりに増えるようだと、銀行の収益率が下がり、商売にならなくなります。
そこで、銀行は金利収入を得るために、企業や個人に対する貸し付けを増やすことを迫られることになります。銀行は自らのポートフォリオ、つまり運用資産の構成を、より高い金利がついている資産の比率を高めることで、日銀当座預金が増えることでいったん崩れたバランスを取り戻す「リバランス」をするだろう。その結果としてお金が増える。
つまり、お金の量を増やすための金融政策といっても、日銀が直接、お金を増やすのではなく、お金を生み出す主体である銀行が、お金を増やすような環境をつくるという、間接的な方法でお金を増やそうとしてきたわけです。


少なくとも、日銀が「量的緩和」の金融政策でお札を刷りまくっているというのがウソであることが、おわかりでしょう。現に、異次元の金融緩和が開始された直前の2013年3月末から、昨年2019年の3月末までの数字をみると、お札(一万円札などの「日本銀行券」)の量は約83兆円から約108兆円へと25兆円しか増えていません。
「しか」と言うのは、お札と同じく日銀の負債である日銀当座預金のほうは、約58兆円から約394兆円へと336兆円も増えているからです。こちらは6年間で7倍近くになっています。
ちなみに、日銀の資産のほうは、この6年間で、国債が約125兆円から約470兆円へと345兆円も増えています。日銀当座預金は国債購入代金で増えてきたのですから、両者はほぼ同額の増え方となることになります。

金融政策を理解するカギとなる「日銀当座預金」とは?

では、400兆円近くまで増えた日銀当座預金って何なの?日銀はこちらの方のお金はこんなに増やしているじゃない?という疑問がわくと思います。
日銀は「銀行の銀行」であり、「政府の銀行」です。皆さんが直接、口座を作って取り引きできる銀行ではありません。ですから、日銀当座預金は、企業や個人がお金として使えるお金ではありません。これを増やしても、それで皆さんのお金が増えるのではなく、あくまで日銀の帳簿上のお金です。


具体的には、日銀に口座を持っている銀行と銀行との間、あるいは、政府と銀行との間でのお金のやり取りを決済している口座が日銀当座預金です。
Aさんがa銀行に持っている口座から、Bさんがb銀行に持っている口座に100万円を振り込めば、a銀行の日銀当座預金からb銀行の日銀当座預金に100万円、移ります。これは日銀当座預金のなかでのお金のやり取りですから、これによって日銀当座預金の全体の額は増減しません。
Cさんが政府に100万円の税金をc銀行の口座から納めれば、c銀行の日銀当座預金から日銀の政府口座に100万円、移ります。政府が財政支出をするときには、どこかの銀行の預金口座にお金が振り込まれますから、日銀の政府口座から、その銀行にお金が振り込まれ、それと同時に、同額分、銀行の預金口座にお金が振り込まれます。
納税であれ、国債の発行であれ、民間から入ったお金は、何らかの形で財政支出に回されますから、結果として、日銀の政府口座と日銀当座預金との間の資金のやり取りはチャラになることになります。結果として、日銀当座預金は全体として増減しません。
もちろん、預金者が銀行から預金を引き出すとき、銀行に手持ちの現金が不足するときは、この当座預金(のうち準備預金)を銀行が取り崩すことで、日銀は銀行にお札を渡します。このとき、日銀の負債は、日銀当座預金が減り、その分、これも日銀の負債であるお札の供給が増えることになり、日銀の負債の構成が日銀当座預金から日本銀行券へと変わりますが、日銀の負債の金額は全体としては変わりません。
預金の取り付け騒ぎでも起こらない限り、現金を銀行に預け入れる額と銀行から現金を引き出す額は、そう大きく違わないでしょうから、日銀当座預金全体が大きく増減することはあまりないでしょう。


以上のような性格の日銀当座預金は、銀行がこれを取り崩して信用創造などの運用に回すというものではありません。よく「ブタ積み」という言葉が聞かれます。これは、日銀当座預金が積み上がっているのに、銀行がそのお金を信用創造に回さない、銀行は十分な貸付努力をしていない、ということを言い表すときに使われる言葉ですが、これも誤解です。
日銀はインフレ目標2%を達成するためにお金を一生懸命増やそうとしていますが、物価が上昇するためには、先にみたマネーストック、つまり、経済に回っているお金が増えなければなりません。ところが、異次元緩和が始まってから7年近く経ったいまも、2%目標達成の目途は、いまだに立っていません。

なぜなら、日銀が増やしたのは経済に回らない日銀当座預金であって、銀行しか増やすことができないマネーストックではないからです。銀行としては、金利を付けて返済してくれる先にしか信用創造ができませんから、もっと経済全体の需要が増えて採算が成り立つ事業が生まれてこないと、お金を貸して増やすということができないことになります。
日銀が直接、その量を動かせるお金をマネタリーベース(あるいはベースマネー)と言います。これは、お札(日本銀行券)の発行残高と日銀当座預金を合計したものと考えていただければと思います。つまり、日銀の負債の規模です。お札の量は市中からの需要によって決まりますので、日銀は国債などを売ったり買ったりして、日銀当座預金を増やしたり減らしたりすることで、マネタリーベースの規模をコントロールしています。


結局、日銀当座預金が全体として増えたり減ったりするのは、①日銀が国債などの資産を民間との間で売買したとき、②日銀の政府口座と銀行との間でお金のやり取りがあったとき、③預金者が銀行から預金を引き出して現金に換えた、あるいは現金を銀行に預金したとき(日銀の負債の中で日銀当座預金⇔銀行券という振替が起こる)という3つの場合に限られます。
このなかで、先にみたように、②と③では実際に日銀当座預金の全体の額が大きく増減しませんので、日銀当座預金が増減するのは①の場合だけと考えていただいてもよいでしょう。

日銀が保有する国債は返済不要な債務へと姿を変えている

よく考えてみると、この日銀当座預金とは、銀行に対する日銀の債務ではあっても、日銀の帳簿上の負債に過ぎず、返済義務のない負債だということになります。この負債がなぜ、2019年末時点で400兆円近くまで増えたかというと、日銀が国債を大量に買ったからです。
「統合政府」という考え方があります。これは、政府と日銀のバランスシートを連結して、一つの会社のバランスシートとしてみる見方です。統合政府でみれば、政府の負債である普通国債の発行残高は2020年度末で約900兆円ですが、そのうち半分以上の470兆円は日銀が持っていますので、それについては、政府の日銀に対する債務とは、日銀の政府に対する債権でもあり、一つの会社のなかで相殺されてチャラになります。


では、国債は日銀が持つことで、何に姿を変えているか、と言えば、それは統合政府の負債である日銀当座預金に姿を変えていることになります。この日銀当座預金は、返済不要な負債です。これは、政府が将来、民間に対して税金で返済しなければならない普通国債のうち半分以上が、返済不要の帳簿上の債務に転換していることを意味します。
言い換えれば、アベノミクスの成果のおかげで、国債の半分以上が事実上、消滅していることになります。これ以上の財政再建はないでしょう。
実は、私が提唱する政府暗号通貨とは、国の借金をお金に転換してしまうマジックを用いて発行されることになるものです。なぜ、そんなマジックができるのか?以上をお読みいただいた方にはご理解いただけることになると思います。詳しくはぜひ、次回をお楽しみに…。