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マイナンバーが諸外国並みになるともっと便利な世の中になるワケ

松田 学のみらいのお金と経済 松田 学

マイナンバーが諸外国並みになるともっと便利な世の中になるワケ

本連載で何度かにわたって解説してきた「松田プラン」で重要な役割を果たすのが、政府発行「デジタル円」と結びつくことになるマイナンバー制度です。しかし、2016年から施行されたこの制度、国民への定着はいま一つ、今回の新型コロナ対策の給付金支給が遅くなってしまったのは、他国の個人番号制度に比べて日本のマイナンバー制度が、まだ十分に整備されていないからでした。

もう一つ、皆様がまだ十分に馴染んでいないのが暗号通貨(仮想通貨と言われるお金、正式には暗号資産)だと思います。「松田プラン」で想定しているのは、スマホを使ってデジタル円という暗号通貨で支払いやお金のやり取りができる世の中ですが、実際のところ、あまりイメージができないのではないでしょうか。

しかし、もしかすると、この「松田プラン」よりも前に、地方自治体などが発行する「地域通貨」として、暗号通貨で地域の商店街などで買い物をする人々が各地にたくさん現われるかもしれません。地域通貨の実現に向けた動きはすでに始まっています。ブロックチェーンを活用した地域通貨が誕生すれば、これを国の法定通貨のレベルで導入する「松田プラン」のメリットをもっと理解しやすくなるのではないかと思います。

マイナンバー制度と地域通貨。「松田プラン」を身近なものと感じていただけるこの2つの仕組みについて、今回はマイナンバーのほうを取り上げてお話したいと思います。

国からのお金が届かない・・・無様な日本の経済対策

新型コロナ対策関係で編成された2度にわたる補正予算で、今年度の国債発行額は100兆円も増えます。本連載前回でお話ししたように、「松田プラン」があれば、国債を日銀が買っている限り、それは将来の政府発行「デジタル円」に転換されますので問題はないのですが、現状では、せっかく大型の対策を打ってみても、その多くの施策で、実際にお金が届くのには多くの時間と手続きを要してしまっています。

ドイツでは申し込んだら翌日にお金が届いた事業者がいらっしゃるようですし、社会保障番号と個人口座が結びついている米国では、申し込まなくても家計への給付金が二週間以内に届いているようです。海外と比べて無様な姿をさらしてしまったのが、日本の家計や事業者への支援策。10万円の給付金も「アベノマスク」も届いたときには緊急事態宣言がもう終わっていた、いちばん必要なときには届いていなかった・・・。

これでは何のための対策・・・?何をやっているのか…?安倍総理も緊急事態宣言を解除する時の記者会見で、「10万円給付の遅れはIT化など十分に進んでいない点がある。例えばマイナンバーカードと銀行口座が結びついていれば、スピード感を持って対応できた。真剣に反省しなければならない。」と素直に認めざるを得ませんでした。コロナ対策では死者数の少なさに「日本モデル」を誇っていたのが安倍総理、しかし、こちらのほうは、どの国も決して真似したくない無様な「日本モデル」ではないでしょうか。

国債ってそもそも何?赤字国債を退治する「松田プラン」の意味

世界の「モデル」の一つは韓国の個人番号制度

この点、お隣の韓国はかなり事情が違うようです。このところどうも、日本に対して理不尽な言動を続けてきたのが文在寅政権の韓国。そんな韓国を見下したい気持ちの国民は多いようですが、こと新型コロナへの対応では、日本のほうがかなりお粗末です。

それはPCR検査のことではありません。むしろ韓国では検査のやり過ぎで擬陽性の人まで入院させ、医療崩壊の原因にもなっていたとも・・・。日本で無様なのは、まさに個人番号(マイナンバー制度)です。これは感染症対策と給付金支給の両面にわたっていえること。欧米諸国と比べても日本はいったい、今まで何をやってきたのか…?!

韓国が世界的にも新型コロナの抑制に成功してきた国の一つとなった最大の要因は、同国の徹底した個人番号制度です。例えば、日本でも帰国者を成田空港で待機させましたが、逃げた人もいたのに対し、韓国は帰国時に登録した場所から動かないよう、スマホにアプリを入れて居場所を管理、クレジットカードもマイナンバーと紐づけられ、街の中に出ていくとピーピー、無視すると刑務所行き、これで第二波を封じ込めたそうです。

現在では韓国でも、心配だから、という人にはPCR検査はしておらず、感染者と接触した人に絞るようになっていますが、それができるのもIT管理と個人番号制の威力。

かつて1968年に青瓦台への襲撃事件があった際に、北朝鮮の兵隊がソウルに侵入、そこで韓国で徹底されたのが住民登録証。欧州もそうですが、カード保持は義務です。スウェーデンのように持っていないと処罰される欧州諸国もあります。写真や指紋、簡単に出生地や国籍も分かる番号が記載された韓国版マイナンバーカードに紐付けられるものは・・・、

・・・すべての指の指紋、パスポート、出入国記録、クレジットカード(利用店情報を含む)、医療保険、診察券、お薬手帳、健康診断、国民年金、住民票、戸籍、徴兵の記録、運転免許証、自動車登録、不動産登記、所得、納税、福祉制度の利用、銀行口座、携帯電話(位置情報を含む)、インターネットの契約と接続、有料放送加入、高校・大学の出欠確認・成績証明・卒業証明・・・、ほとんどすべてにわたる個人情報です。

キャッシュレスの比率が90%以上の韓国では、どこで何を買ったか全部わかりますし、どこに行ったかわかるので浮気もできない?ほど・・・。日本では「アベノマスク」の配布に何カ月も要しましたが、韓国ではマスクも医療関係システムと連動しており、その活用により一週間で国民にきれいに配ったとのこと。診察券など個別の病院にはなく、視力を測っていれば運転免許証更新手続きは不要。しかも、プッシュ型であり、何事も、あなたはこれを申請できるんではないですかと知らせてくれるし、税金の過払いなどは申請しなくても自動的に振り込まれたりする、誰かが死亡すると遺産の一覧表が来て、あなたの取り分と相続税はいくらとの通知が来る・・・。

欧州諸国も事情はほぼ同じの個人番号徹底ぶり

韓国だけではありません。私が衆議院議員として視察した欧州諸国でも、税金の確定申告は5分で済む、政府が税額計算をしてくれるので、あとはサインするだけ・・・エストニアを始め、そんな国もいくつかありました。これは韓国もそうです。毎年、確定申告で大変な思いをする日本とは大違い。

特に、エストニアのIT立国は徹底しています。15歳以上のすべての国民にIDカードを配布、オンライン認証や電子署名などは言うまでもなく、国民のほぼすべての営みにこのIDカードが必要です。新会社の設立手続きは20~30分で済み、銀行取引の99%はインターネットで、国政選挙でも世界に先駆けて本格的な電子投票を実施しています。

デンマークでは、個人の健康情報が個人番号と結びついているため、病院間での情報共有で安心と効率が実現されていますが、このような国は、ごく当たり前となってきています。

例えば同国では、電子カルテなどの医療情報は医療機関の間で情報共有されます。どの国民にも必ず「かかりつけ医」がおり、ファミリードクターが最初に診察しなければ、病院等では受診できない仕組みが徹底しており、当然のことながら、そのようなシステムを支えるのは個人の医療情報が医療システム全体で共有されていること。

もし、これを日本でも導入できたら、全国どこにいても過去の自分の病歴や既往症に応じた、無駄のない的確な医療サービスを安心して受けられるようになるでしょう。当然のことながら、重複検査、重複診療、重複投薬はなくなり、医療のムダの削減、効率化、ひいては消費税率の引上げの抑制にもつながるかもしれません。

ちなみにデンマークでは、個人番号が各人の電子健康記録だけでなく、すべての国民の遺伝子情報を登録したバイオバンクとも結びついています。これによって、将来的には各国民それぞれの遺伝子の特性に合わせたテーラーメイドの医療や健康増進策によって、健康寿命を延伸させるという話も、私が視察で同国を訪れた際に聞きました。

日本のマイナンバーは韓国に見習うべきなのか

日本で2016年から施行されたマイナンバー制度は、私も衆議院議員としてその立法に携わったものですが、国民の反発を恐れ、納税、社会保険、防災の3分野に限定し、「小さく生んで大きく育てる」形で導入されたものでした。対象は韓国のほんの一部に過ぎません。では、日本では韓国が対象としているもののうち、今後、どこまで入れるべきなのか…?

私自身は世界に冠たるアナログ国家の日本がそこまでできるとは思いませんが、この際、思い切って韓国の制度をすっぽり入れてはどうかと提案する日本の有識者もいます。韓国でも、さすがにここまで個人番号を徹底すれば、プライバシーの問題が出るなど、全く問題がないわけではありません。匿名性を高めるなどの改善もなされているようです。日本としては、たとえ原則として韓国のまま入れるとしても、これはやめようというのは入れなければよいと考えることはできるかもしれません。

いずれにせよ、日本も最初から「大きく」が理想だったはずです。あまりに「小さく」生んだことで生じた現在の最大の欠陥は、やはり預金口座とリンクしていないことでしょう。それがどれだけヒドいことになるか、今回、多くの国民が実感しました。

そもそも、国民も多くの自治体も、マイナンバーに対する理解が必ずしも十分ではなかったことが、その利便性の拡大を妨げてきた大きな原因です。例えば、マイナンバーを使いやすいようにと、行政で活かしていた市町村では、給付金の支給が早く行われていたようです。マイナンバーカードで申請をした人には、補正予算が成立してから、米国と同じく二週間以内に振り込まれていたという自治体の例もあります。

聞くところでは、労組の反対で活用が進まなかった自治体が多いとか・・・。政治的な要因で普及と定着が進んでこなかったとすれば、残念なことです。

私が衆議院議員のとき、マイナンバー法案審議の際に安倍総理への質疑で「マイナンバーの拡大で日本の将来像はどうなるか、総理の唱える『新しい国づくり』の具体像の一つとして国民にわかりやすく示してほしい」と申し上げましたが、総理からは明確な答弁がなく、残念な思いをしたものです。国民にきめ細やか、かつスピーディーに給付金を配れる社会、感染症対策と行動の自由とを両立できる社会・・・などとでも当時、答弁してくれていれば、日本はもっと早く、他の先進国並みの社会になっていたかも・・・?と思います。

あまり知られていないマイナンバーの仕組み

ここで、日本でマイナンバー制度の定着を妨げてきた誤解を解いておきたいと思います。
この制度はもともと、主として税の分野の公平・公正な課税・徴収という要請に応えるべく日本でも検討されるようになったものです。行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現のための社会基盤として、すでに多くの国々で定着している個人番号制度の日本への導入は、長年にわたる課題でした。

しかし、日本ではプライバシー保護への要請や、「監視国家」への懸念などから、「国民総背番号制」に対する国民の抵抗感が強く、前述のように3つの分野から恐る恐る「小さく」導入されることになったものです。もちろん、将来的には、諸外国のように対象となる分野を広げ、国民生活や経済活動にとって最も重要な社会基盤となるべきものです。

そうであるからこそ、個人情報の保護や、サイバー攻撃からの防御も含め、その安全性、信頼性について高い完成度が求められることになります。そのため、すでに現在においても、次のような仕組みが講じられています。

第一に、全体として一元管理ではなく、制度ごとの分散管理となっています。住民票記載の個人情報、年金の納付・受給記録、健康保険の履歴、所得や納税額といったそれぞれの情報は、あくまでそれぞれの情報を管理する官公庁が管理し、データベースが一元化されているものではありません。個人情報がひとつのデータベースで管理されることはなく、役所間のやり取りにはシステム内でのみ突き合わせが可能な暗号化された番号が用いられています。結果として、万一、1カ所で情報漏えいがあっても、役所間では遮断されることになります。マイナンバーから芋づる式に個人情報が抜き出せるということはありません。

換言すれば、マイナンバーに登録された個人情報のすべてをカードで一元的に把握できるのは本人のみです。現状では、自分がどれだけの税金や社会保険料を負担しているのか、その全体像を把握している方は極めて少ないと思います。自らの負担を知ってこそ目覚めるのが主権者としての意識。それが一覧できるようになるマイナンバーカードは、国への依存意識を減らして個人の自立を促す仕組みでもあるといえます。

第二に、個人が保有するマイナンバーが仮に何らかの形で外部に漏れたとしても、マイナンバーそのものでは行政手続きや個人情報の閲覧はできません。仮にカードを紛失したとしても、マイナンバーカードの場合は暗証番号の入力が必要です。マイナンバー通知カードの場合には、顔写真付き本人確認書類の提示が必要になります。

第三に、マイナンバーカードのICチップには税や年金の情報などのプライバシー性の高い情報は記録されません。情報の確認には暗証番号が必要で、一定回数間違えると使えなくなります。また、ICチップの情報を不正に読み取ろうとするとICチップそのものが壊れてしまうなど、高度なセキュリティ対策が施されています。

日本だけ普及してはいけない理由はない

それでも、上記のような仕組みに対する国民の理解が進まず、個人情報が監視されることへのアレルギーのほうが先だってしまい、国民全員に対する付番はなされていても、国民が制度の利便性を実感するために必要なマイナンバーカードは、2020年4月時点で2,033万枚、普及率は16%にとどまっています。

これは、「特高警察」が象徴するように、国の統制が国民の私生活や言論にまで及んだ戦前戦中の不幸な時代のトラウマから日本国民が抜けきっていないからなのでしょうか・・・?これに対し、歴史上、戦争で国土が侵略されることが繰り返されてきた欧州諸国の場合、個人が国家にきちんと管理してもらう仕組みの必要性への理解が国民に定着しているのかもしれません。総じて平和を謳歌し、危機管理意識が薄かった日本では、そもそも国民の政府に対する信頼があまりなくても、大きな問題が生じなかったからなのか…。

私も政府に勤めていたことがありますが、誰か特定の個人の情報を詳細に把握しようなどという動機もヒマも役人にはありませんし、前述のように、それをしようとしたところで、その役人が所管する行政が必要とする範囲内にとどまります。確かに、プライバシーの秘密は大事な人権の一つではありますが、近年では日本でも、大震災が多発するようになって防災意識が高まっていますし、超高齢化も進展していますので、「見守られている」ことの価値が増しているように思われる面なきにしもあらず。国民の意識も変化しているように感じます。

私が大蔵省に入って間もない頃の1980年代前半のことですが、同省が提案したグリーンカード制度が政治からの反対で頓挫したことがありました。これは本人確認のために納税者番号を記載するカードのことで、預金などを名寄せし、課税の適正を図ろうとしたものでした。そのときの某有力政治家の「水清ければ魚棲まず」との言葉はいまでも忘れません。日本は透明できれいなことを好まないアングラ経済の国なのか・・・と。

これでは、どんな金持ちでも消費をする際には必ず負担することになる消費税が最も公平な税金だということになってしまいます。財務省がさらなる消費税率引上げを目論む動機の一つにもなってしまうかもしれません。多くの先進国で国民の利便性の基盤となっているのが個人番号制度。何かやましいことがある人以外は、マイナンバー制度の拡大に反対する理由などないはずです。

新型コロナ経済対策でのドタバタは、政府にとってはまたとない絶好のチャンス。すでにマイナンバーカードを2021年3月から健康保険証代わりに使えるようにすることが決まっていますが、さらに個人の預金口座とマイナンバーとの紐づけの義務化など、今回のことを契機に、一気に対象の拡大と制度の利便性向上へと政府は動き始めています。

スマホにマイナンバーアプリを入れて「デジタル円」へ

 この流れを加速することになるのが、スマホにマイナンバーのアプリを入れること。
そのネックになってきたのが、スマホアプリそのものの安全性の問題ですが、ITや情報セキュリティの分野で私と協働している学者たちが、ついにこの問題をクリアする技術基盤の開発に成功しました。現在、私たちは政府・与党との調整に入っており、近いうちに、この流れが現実化していくものと見込んでおります。

こうなると、マイナンバーが持つ利便性をユーザーがより強く実感することが出来、さまざまな領域へと、マイナンバー制度の対象が拡大していく可能性が拓けてきます。

ここに乗せることになるのが、マイナンバーと結びついた政府発行「デジタル円」。本連載で何回かにわたって述べてきた「松田プラン」は、金融緩和で日銀に増える国債をマイナンバーと結びつくデジタル円へと転換し、「スマホでなんでもワンストップ」の便利な世の中を実現するものです。

「松田プラン」が提案する「デジタル円」は、政府が管理する個人情報と結びつくことで、機能性と利便性の高い「みらいのお金」の一つになるもの。マイナンバーがスマホと結びついて利便性を高め、その対象が拡大していくことが、デジタル円の意味と価値を高めることになります。

そうなることで、国民の間にデジタル円に対する需要が高まれば、それに応じて日銀が保有する国債がより多く、デジタル円へと変換され、私たちが将来、国債の返済負担で苦しむ度合いも緩和されていくことになります。

この「松田プラン」を身近なものとしてイメージしていただく上で、次回は、もう一つ、「松田プラン」の基盤技術となるブロックチェーンが実際にお金として使われる事例としての地域通貨について述べてみたいと思います。