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老後資金のためではなく、FIREのために今やっておくべきコト

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

老後資金のためではなく、FIREのために今やっておくべきコト

一生働き続けるのはイヤ? ならばFIREを目指してみよう

大学を卒業したら、定年退職まで働き続けるのが当たり前……というのはライフプラン1.0や2.0時代のルールです。ライフプラン3.0の時代は多様性の時代です。一見すると当たり前のルールを何も考えずに受け入れるのはもったいないことかもしれません。

自分のリタイアしたい時は自分で決める、そんな時代がやってきています。アメリカのミレニアル世代(おおむね、今世紀になってから社会人になった世代)で今ブームとなっている取り組みにFIREというものがあります。

これは、Financial Independence, Retire Earlyを略したもので、経済的な独立を実現し、早期リタイアを目指すという取り組みを指します。

「そんなことは無理だ!」と最初から決めつけるのは古い世代の常識です。もしあなたが自分で自分のリタイア年齢を決められるようになりたいなら、経済的な独立を勝ち取るべく、アクションを起こしてみる必要があります。

仕事をしたくないなら、むしろ真剣に仕事をする必要がある?

仕事をする、ということは定期的な収入を得ることですが、同時に人生の多くの時間を仕事に割くということでもあります。起きている時間の半分くらいは仕事(と通勤時間)に費やされているのではないでしょうか。

また、仕事上のストレスとも向き合っていく必要があります。仕事そのものから生じるストレスがあったり、人間関係の摩擦から生じるストレスもあります。

定年退職という「当たり前」よりも5年あるいは10年早く引退することができれば、自由にいろんなことをする時間が手に入ります。

しかし早くリタイアするということは、リタイア後の収入がゼロでも、暮らしていけるだけの財産が必要になるということです。

例えば、65歳リタイアという当たり前ではなく、60歳でリタイアしたいのであれば、「老後に2000万円」プラス「60~65歳までの2000万円(年400万円で暮らすとして)」があれば、60歳ですっぱり仕事を引退することができます。

同じように、55歳でリタイアしたいのなら、さらに2000万円があれば引退できるということになります。アメリカのFIREでは1億円(400万円で毎年暮らして25年分相当を目標とすることが多い)を貯めて、40歳代でリタイアする人もいるそうです。

目標をどのあたりに置くかは人それぞれですが、もし早期リタイアを実現したいなら、むしろしっかり仕事をすることが必要です。そして、できるだけたくさんお金を稼ぐのです。

ライフプラン3.0の時代は転職の時代でもありますが、自分の能力をしっかり評価し、適正な報酬を与えてくれる会社で、思い切りあなたの能力を発揮してみたいところです。

早くリタイアしたいなら、ムダづかいをしている場合じゃない

早くリタイアする、ということは仕事をしないで過ごす時間のために、リタイアまでの期間にたくさんお金を貯めなければいけません。そのために必要となるのは「たくさん稼ぐ努力」をすることだけでは足りません。さらに「できるだけ低コストで暮らしていく努力」をすることです。

年収300万円台で必死に節約するより、年収が600~800万円台にキャリアアップして必死に節約したほうがたくさん貯められるのはいうまでもありません。

同時に、年収がアップしたときには、「年収増の多くを、貯蓄増に結びつける」意識をします。よくあるのは、キャリアアップで増えた年収分、生活水準の向上に回してしまうことです。

どこまで徹底的に節約をし、貯蓄ペースを高めていくかは人それぞれです。一度止めてみると、その支出がなくても困らない、というものは結構たくさんあります。しっかり削ってみてください。

また、日々の買い物や日常生活の支出を精査してみると、割高な支出、実は無用な支出が潜んでいるものです。私たちは消費を美徳とするライフプラン1.0の時代から遠く離れ、必要なものを必要なだけ消費するステージにいます。これは家計のムダを省き支出を抑えることにもつながります。

どこを削ればいいか分からない、という人はスマホに家計簿アプリをインストールして家計を見える化してみましょう。日々のちょっとしたムダづかいだったり、自動引き落としされている利用のない支出などがみつかれば、それはあなたの将来を支える貯蓄へ変えることができるのです。

本気でFIREを目指したいなら、年収の25%以上をためていく覚悟が欲しいところです(それ以外のライフプランにも貯蓄が必要なので、実際の貯蓄率はもっと高くなります)。

ボーナスはできるだけ多く貯蓄に回します。毎月の生活でもできるだけ多くを貯められるように家計を引き締めます。

目の前は苦しいかもしれませんが、未来の自由のための努力と考えることができれば、きっと乗り越えることができるはずです。

ただし注意点もひとつ。あまりにも生活コストを削りすぎると、未来の豊かさは得られても、毎日の生活がほとんど無感動になってしまいます。これはやりすぎです。

お金を使って豊かさをどこまで買うのか、自分なりの落とし所を考えてみてください。

投資にもトライ!  経済の成長があなたの早期リタイアを実現する力に

そして、投資です。毎月貯めることができたお金を銀行の定期預金に置いておくだけではなく、その一部を投資にも回してみます。

資産の半分(あるいはそれ以上)を投資信託などで増やしたとすれば、中長期的には銀行預金を上回る利回りが期待できます。そして高い利回りの獲得はFIREのゴールへたどりつく時間がぐっと縮まるのです。

世界中の株式を対象とした投資信託に、長期・積立・分散投資を続けることができれば、平均的には年4%以上の運用収益が期待できます(金融庁つみたてNISA資料から)。

中長期的な世界の経済成長の力を、あなたの未来の資産形成の力に変えていくのが投資の役割です。無理のない範囲で投資を活用してみましょう。

iDeCoとつみたてNISAが、税制優遇のある資産形成制度として好適です。iDeCoは60歳まで解約できないという制限があるものの、60歳以降のための資金作りは必要ですし(いわゆる老後に2000万円)、掛金相当額が全額所得控除の対象となり所得税・住民税の負担軽減になるのは大きなメリットです。

所得水準にもよりますが、税金を払わなかった分をその年の利回りに換算すると20%以上になることもあります(iDeCo掛金1万円の節税効果が20%だった場合、本来手取り8000円にダウンするところをiDeCo口座に1万円入金したことになり、これは25%の利益を得たのと同じ価値がある)。運用益が非課税になるのもiDeCoの大きな魅力です(受取時には軽減税率で課税され、多くは非課税のまま受け取れる)。

また、NISAもフル活用したい制度です。一般NISA(年120万円、投資5年目の年末まで非課税)かつみたてNISA(年40万円、投資20年目の年末まで非課税)の2つの制度があります。毎年の非課税投資枠、累積投資額は一長一短あり、どちらを選ぶかは悩ましいところですが、いずれにしても、NISAをまずは活用することがFIREに向けたチャレンジの大前提です。

企業年金のない会社員の場合、iDeCoが月2.3万円ですから、つみたてNISAの月3.3万円とあわせてまずは満額の積立投資からスタートします。結婚しているなら、夫婦でダブルiDeCo、ダブルNISAの満額を目指してみましょう。

運用収益に期待するのはもちろんですが、毎月の積立額を増やしてくこともまたFIREに向けては欠かせない要素です。制度上の満額で満足せず、そこからは証券口座などに入金額を増やしていきます。投資信託を活用すれば自動引き落としが可能ですから、これを使っていくといいでしょう。

投資においては注意点がひとつあります。リスクを高めすぎると、想定外の市場動向に直面したとき大きな損失が生じることです。個別株での投資は市場の平均(インデックス)の値動きの2倍以上になることもしばしばですし、レバレッジをかけた投資(実際の資金の25倍相当額をトレードするFX取引など)では、裏目に出た値動きが資産をすべてなくすことにもつながります。

基本的には、インデックス運用を行う投資信託を活用し、低コストかつ市場の平均的騰落率を確実に手に入れる運用でいいと思います。こうすれば、毎日株価ウォッチをしなくてもよく、投資に関する負担も軽くなります(その分、仕事に専念できれば年収を増やせるかもしれません)。

業務時間中に頻繁な株式取引をするようなことはやめておきましょう。これは最初のステップである「しっかり稼ぐ」ことに集中できないからです(バレていないつもりでも、上司はサボっているあなたのことに気がついているものです)。

日本には「日本版FIRE」 早期リタイアの実現を目指してみよう

アメリカのFIRE本では、1億円の資産づくりという大きな目標が示されるため、実現のために行動を起こしにくいところがあります。

また、アメリカのケースのように40歳代でリタイアしようとすると、30歳前後で1000万円くらい稼ぐようなキャリア形成が必要で、かつその半分以上を貯めるような、かなり苦しい節約生活も必要になります(たとえば、30歳で年収1000万円になり、毎年500万円貯めれば、元本が10年で5000万円たまり、運用益があれば1億円に大きく近づく)。これでは、実行困難だと、くじけてしまう人も多いでしょう。

日本の場合、65歳からは公的年金が受けられること、50歳代まで働き続ければ退職金や公的年金の水準も一定程度確保できることなどを踏まえ、50歳代あるいは60歳時点での早期リタイアを考えてみるのがちょうどいいように思います。

そのために、できるだけ早い時点からiDeCoやNISAを活用して、資産形成をしてみてください。先ほどのiDeCoとつみたてNISA満額モデルも、35歳から60歳まで頑張ることができれば元本で1690万円、年4%の収益が確保できれば2896万円の資産になります。

これを夫婦で2口座積み立てれば5793万円になり、退職金を加えれば十分な資産となります。60歳リタイアをしても問題はありません(資産管理はもちろんしっかりと!)。

ひとりで取り組む場合は、一般NISA(年120万円)とiDeCoの組み合わせとします。これで夫婦のダブル口座と同等の資産形成をひとりで実現することができます。

そのうえで、「もっと本気でチャレンジしたい!」と思うなら、貯蓄額を一気に高め、投資にも積極的に取り組んでみてください。年間200万円を超える資産形成ができれば、10年あるいはそれ以上早いリタイアも夢ではなくなります。

日本でも50歳代での早期リタイアを実現した人たちがいます(興味があればぜひ調べてみてください)。

「早くリタイアするためにお金を貯めよう」、という意識は、「老後の不安に備えるためお金を貯めよう」というより高いモチベーションを作れるはずです。

あなたらしい人生を歩むために、FIREを目指してみませんか?

 

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