「学び直し」。長い人生で「もうひとつのキャリア」を作るには?
目次
100歳人生の時代は「1つのキャリア」で終わらせられない
人生70年と言われた時代から、人生100年時代に変わりつつあります。このとき「社会人になるまでの時間」はあまり変化がありません。
高卒ないし大卒で社会人になる、つまり18~22年ほどの「学び期間」で私たちは社会に出て働き始めます。大学院に進む人が増えてはいるもののまだ多数派ではありません。
一方で、「働く時間」は長くなる傾向があります。人生70年時代には60歳定年のイメージでしたが、今は65歳が一般的なリタイア年齢であり、70歳現役社会への移行がスタートしています。早晩、75歳まで働ける社会になることでしょう。
もちろん、「リタイア後の自由な時間」も伸びています。人生70年時代には老後はたった10年でした。今は基本的に20~25年の老後の時間があります。引退年齢が引きあがったとしても寿命も伸びるので、おそらく「20~25年の老後」という構図はあまり変わらないことでしょう。
やはり大きな変化は、働く時間が長くなるということで、ひとつの備え方は経済的自由を確保しての早期リタイアになります(前回のFIREなど参照)。
もうひとつの備え方は「長く働く時代に、働き続けられるビジネススキルを持ち続ける」ということです。
今は存在しない「仕事」に、あなたはつくことができるか
250年前と150年前を比べると、私たちの仕事には大きな変化はありませんでした。求められるスキルも親と子で激変することはなかったのです。
今は20年で仕事のトレンドが大きく変化する時代になっています。例えば機械化や自動化は、その当時の花形職種を消滅させてきました。
皆さんは、「手書き原稿を入力して清書するだけの仕事」とか「バスの入り口で切符の精算と安全確認をするだけの仕事」があった、と言われてもピンとこないかもしれません。
前者はタイピストとして戦前から戦後にかけて、女性の憧れの仕事のひとつでした。後者はバスの切符切りですが、バスには運転手と切符切りの2人が乗車していたのです。ところが料金支払いが自動化されたので「ワンマンバス」になっています。
あなたが、その仕事がどんなに好きで、どんなに熟練していようとも「仕事の口」がなくなれば、違う仕事をみつけるしかありません。
70年前、日本の主力産業であった繊維業(タオルとか被服の工場)、造船業(船を作る工場)はたくさんの雇用を抱えてきましたが、今では縮小し、今治の高級タオルのような形で競争力を維持したところだけが生き残りに成功しています。
そして、「今はない仕事」が新たに誕生していきます。ニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビッドソンさんは、「2011年に小学校に入学した子どもの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」と述べて、社会に驚きを与えました。
一見すると荒唐無稽のように思えますが、YouTuberなどはまさに「今までなかったお金の稼ぎ方」です。20年前にはあり得なかった働き方がこれからも生まれていくことでしょう。
知識やスキルのアップデートを常に心がける
ライフプラン3.0の時代に必要となってくるのは、知識やビジネススキルをアップデートしていく意識をしっかり持つことです。
1995年に社会人であった人たちは、会社が研修を行ってくれたので、なんとかWindows95の使い方を覚え、WordやExcelを学ぶ機会を得られました。業務に必要な知識を、会社が業務命令として学ばせてくれるのは助かることです。
しかしこれからの時代は、「会社がお膳立て」をしてくれてビジネススキルをアップデートするケースは減少していき、「自分で自覚的に学び」アップデートする必要が高まっていくでしょう。
まずは「今のスキルを高める」というアプローチを考えてみてください。より専門性があり高度な知識を必要とするあなたが必要とされているなら、今のスキルを極めていくことで働き続けることができます。国家資格なども業務上必要なら取得を目指していきます。
ただし、自分の持っているビジネススキルや知識が汎用化していくことはないか、客観的に見ていくことが大切です。生涯を通じて学び続けることを、最近では「リカレント教育」といいます。
たとえば、かつてはごく一部の人しか行えなかったプログラミング知識は、多くの若者が習得していく時代になります。プログラミングで稼ぎ続けるなら、あなたの知識の専門性を高め、高度化をはかっていく必要があるわけです。
知識やスキルの陳腐化するスピードはこれからもっと加速していくことでしょう。常に危機感を抱いていくくらいが適切かもしれません。
「学び直し」に時間とコストをかける選択も
もうひとつ、そもそものビジネススキル自体をゼロから習得し直す、というアプローチも考えられます。
時代の変化があって、今まで持っていたスキルをそのまま使えなくなった場合、新しい能力を身につけていくことも求められる時代です。
欧州の例では、工場労働者が工場の海外移転に伴い仕事を失うことになったので、IT系スキルを身につけられるよう、国家的に職業訓練を行ったケースがあるそうです。
ひとつの働き方が縮小したとき、伸び代のある働き方にシフトすることができれば、私たちの稼ぎを維持することができます。
しかし、「学び直し」には時間とお金がかかります。会社や国がお金を払ってくれることはあまりないので、基本的には自分でお金を払う「学び直し」が必要になります(雇用保険の教育訓練給付金制度を活用することもできます。無職の場合は、職業訓練に手厚い支援があるケースも)。
求められるキャリアデザインとマネープラン
「学び直し」にお金と時間をかけて、新しいフィールドに飛び込んでみることは勇気がいりますが、未来は稼げなくなる仕事に見切りをつけて、これからしっかり稼げる仕事をできるようにする、と考えてみると、その費用はムダになるどころか、十分に元が取れることになります。
今までは「社会人になったら勉強なんかしない」という人が多数派でした。これはまさにライフプラン1.0ないし2.0の価値観です。
ライフプラン3.0の時代には、長いビジネスキャリアを踏まえて、「20~40歳代を稼ぐ仕事」「学び直して50~60歳代を稼ぐ仕事」のように複数の仕事と向かい合っていくようになるでしょう。
今はまだピンとこない、という人が多いはずです。しかし、「そうなるかもしれない」というイメージだけはちょっと考えておきたいものです。
そして、マネープラン上もそのための「余裕」を作っておけるといいでしょう。実際にチャレンジするかは人生の決断ですが、「お金がないから、その決断は選択できない」というのは、自分の未来を狭めてしまうことです。
例えば「1~2年仕事を休んで学び直すだけの経済的余裕」や「その間、ビジネススクールなどで集中的に学ぶための学費」などを確保してみることを考えてみましょう。お金を貯めることだけなら、具体的なキャリアビジョンがなくてもスタートできるはずです。
もしかしたらそのお金が、あなたの人生の大転機を支えて、未来数十年の稼ぐ力を生み出してくれることになるかもしれないのです。