中国大手不動産会社の経営危機が日本や世界経済にもたらす影響
監修・ライター
中国は世界第2位の経済大国で、政策や経済状況が世界各国に影響を与えます。最近、規制強化によって中国の不動産大手「恒大集団」が経営の危機となっています。こうした中国の問題が日本や世界の経済に与える影響について解説します。
恒大集団のデフォルト懸念が高まる
中国の不動産大手、恒大集団のデフォルト(債務不履行懸念)が高まっています。デフォルトとは、企業の破綻などによって企業の債券(社債)の元本や利息の支払いができなくなることです。
恒大集団は、中国の広東省深川市に本社を置く不動産開発大手です。2020年12月期の売上高は5072億元(約8兆6000億円)で、保有している土地は、東京23区のおよそ3分の1といわれています。
不動産業で成功した恒大集団は、さまざまな領域へと進出します。その代表がスポーツで、サッカークラブ「広州FC」はアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を2度制覇した名門です。さらに、ビジネスでは電気自動車(EV)開発、テーマパーク事業などにも手を広げています。
しかし、事業の多角化を進めた一方で社債発行や借り入れが膨らみ、財務の安定性を失っていたのです。そして2020年の夏、中国政府は大手不動産会社に対して負債比率などを守る財務指針「3つのレッドライン」を作成しました。その内容は「自己資本に対する負債比率が100%以下」「総資産に対する負債の比率が70%以下」「短期負債を上回る現金をもっていること」の3つです。要は、借金をあまりしてはいけませんという内容です。
しかし、恒大集団は「3つのレッドライン」のうち2つを守れないままでした。そして財務内容が悪化し、経営不安が起きたのです。
2008年のリーマンショックのような金融危機の再燃?
恒大集団の問題は、債務の巨大さです。取引先への未払い分も含めた負債総額は、1兆9665億元(約33兆4000億円)といわれ、中国の名目GDP(国内総生産)の約2%に相当します。処理に失敗すれば、中国の金融システムが揺るぎかねません。また、海外投資家にも200億ドル(約2兆2000億円)にもなる外債を発行しています。
そして、9月23日と29日に米ドル建ての外債の利払いを見送ったことから、デフォルト(債務不履行)懸念が高まったのです。
恒大集団が注目されているのは、もしデフォルトを起こしたら2008年のリーマンショックのような世界的な金融危機になるのではないかという懸念です。リーマンショックとは、2008年9月に米国の有力投資銀行であったリーマンブラザーズが破綻し、それを契機として広がった世界的な株価下落や不況のことをいいます。
リーマンショックは、日本の株価や経済にも大きな影響を与えました。リーマンショック前に約12,000円だった日経平均株価は、10月に6000円台まで下落。 そしてリーマンショックによる景気悪化により、上場企業を含む約15,000社の企業がリーマンショック後の1年のうちに倒産したといわれています。
恒大集団のデフォルトにより、過去のリーマンショックのような世界的な金融危機が起こるのではないかという懸念があるのです。ただ恒大集団は事業会社であり、金融機関であるリーマンブラザーズとは異なります。
そして、もし恒大集団がデフォルトを起こしても中国の不動産市況が悪化するだけで、世界的な金融危機が起こるとは見られていません。
しかし、恒大集団よりも財務状況が厳しい不動産会社も珍しくありません。恒大集団だけでなく、ほかの不動産会社もデフォルト懸念が強まれば、金融危機につながる恐れがあるのです。
中国での暗号資産禁止の影響
中国の習近平指導部は、「共同富裕(ともに豊かになる)」を掲げ、金融や不動産に規制をかけています。共同富裕とは貧富の格差を縮小し、社会全体が豊かになるという中国共産党が掲げるスローガンです。
そして、規制は暗号資産(仮想通貨)にも及んでいます。9月24日、中国人民銀行は国内での暗号資産関連の事業活動を全面的に禁止すると通知。海外に拠点を置く取引所の従業員も規制の対象になると警告し、暗号資産に対する監視を強めています。
中国政府は2017年に暗号資産交換所を閉鎖し、今年の5月にはマイニングを禁止していました。中国人民銀行の発表により、45,000ドル代前半だったビットコイン価格は9%程度下落し、41000ドル台まで下落しました。中国政府による規制が、マーケットにも大きな影響を及ぼすのです。
まとめ
習近平指導部は、中国国内の金融や不動産に対する規制を強めています。ただ、規制強化により金融危機が起こると、世界経済の大きな混乱を招きます。中国政府が、規制により経営難に陥った企業に対してどう対応するのかが大きな注目材料となるでしょう。