お金があれば憂い無しなのか?豪雪被害を喰らって分かったこと
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監修・ライター
還暦の年に天災がやってきた。年末の豪雪が故郷の実家を襲った。ワタシ(中村修治)が生まれ育った大正15年築の母屋は、1m以上の積雪に耐えられなかった。泣き出すおふくろ。容赦無く降り積もる雪。この自然災害に“お金”は、どんな役割を果たしたかを生レポートしたいと思う。
2021年12月28日20時頃
田舎のおふくろから泣きの電話が入る。
「屋根がなゴンって落ちたぁぁぁ(T ^ T)」電話の向こうのおふくろは泣いていた。滅多に直電なんてかけてこない87歳のおふくろは泣いていた。外は、もう暗闇。状況説明も覚束ない。
2021年12月27日の午後あたりから、Yahoo!ニュースで“滋賀県彦根”が話題に上っていた。彦根豪雪のニュースだ。あの関ヶ原にも近い。雪が降るのは、慣れっこだ。まぁ、降ったところで、いつものことだろうとタカをくくっていたが、そうは問屋が卸さなかった。こうしてワタシは、自然災害の被災者となっていくのであった。
翌日の29日は、4つ上の姉が正月の帰省をする予定だったので、まずは、その報告を待つことにした。
2021年12月29日正午頃
衝撃の現場写真が姉から送られてくる。
「こりゃ、あかんがなぁぁぁ!?」いきなり関西弁で感想が漏れた。想像以上の壊れっぷりだ。2階の窓のガラスも割れていると報告を受けた。裏側の屋根もキレイにへしゃげていると言うではないか。これ以上、雪が積もったら家自体が壊れるかもしれない!?避難も考えなきゃいけないかもだな!?
この家を直すのに、いくらの“お金”が必要になるのだ。火災保険には、ちゃんと入っていたのか!?おふくろは、あと何年、ここで暮らしたいと希望をするのか!?いろんなことが長男であるワタシの頭を駆け巡る。
事務所恒例の大掃除も放棄して帰省の準備をする。心細いおふくろをギュッと抱きしめて、あとは“お金”で解決する。そう決めた。力仕事も厭わない完全防備で田舎に向かった。
2021年12月30日正午頃
実家で預金や保険のチェックを開始!!
東海道本線の南彦根駅に到着したのは12月30日の正午ころ。いつもなら徒歩10分ほどで帰れるはずの道が雪に閉ざされていて、歩くのもひと苦労。約3倍ほどの時間をかけて実家に到着。
まだ屋根の上には、1m近い雪が積もっている。落ちかけた庇の残骸が、こちらを睨む。暗鬱な気持ちでおふくろ&姉貴と対面。玄関と座敷では、雨漏りも始まっていた。
まず始めたのは、預金通帳の確認と整理。火災保険等の中身の確認。“お金”の算段をつけたあとで、正月明けまでどうここで過ごすかの検討。年の瀬なので、役所もお休み。自衛で何とか知恵を出す。
火災保険の交渉をするには、この家を修理するのにどれくらいの費用が必要なのか!?その工事内容と見積もりの提出が必須である。知り合いのツテをたどって地元の工務店さんに連絡。年明け直ぐに、見積もりを出すように手配。さらに、建築に詳しい人に、この家で正月期間過ごしていても全壊して下敷きになるようなことはないのか!?と相談。
昔の家は、丈夫に出来ていて、積雪で壊れているのは建て増しの部分のみ。母屋の中央部まで積雪で壊れるような状態ではないので大丈夫だとお墨付きをいただき、親子3人で壊れた家の中で正月を迎えることを決めた。
2022年1月1日朝9時頃
あけまして決めました!!
庇が折れた箇所から家中で雨漏りがする。紅白歌合戦も見ないままに、この家をどうするのか!?87歳のおふくろはどうしたいのか!?イヤ、どうしたら安心して余生が暮らせるのか!?を話し込んだ。
そして、元旦の朝、おふくろが「しゃーないな!?この家には、住んでられんな!?老いては子に従えやな!?」と、嫁いで60年以上暮らした家を手放す決意をしてくれた。
その潔さにビックリ。
立派なものである。
褒めてやりたい!!!
そうなりゃ話は早い。
“お金”で解決できることが増えた。
2022年1月2日正午頃
お隣の若者たちが雪下ろしに!!
故郷を捨てる決意をしたのに、一向に、雪は解けない。正月のど真ん中。“お金”で解決できない問題だけが残った。こんなに青空が眩しくなったのに、鬱屈とした気持ちだけが晴れない。
するとどうでしょう!?正月で帰省していたお隣の若者たちが、雪下ろししましょうか!?とボランティアに来てくれた。コミュニティの力で解決だ。おふくろがご近所様に嫌われずに暮らして来た賜物だ。青空が目に染みる。若い力に頭が下がる。家は壊れてもご近所付き合いは壊れない。有り難い!
2022年1月4日~2月10日
粛々と実行あるのみ!!
生まれた故郷をまっさらにすることを決めたのは、たったの7日。その後は、粛々と事を運ぶだけである。これが津波だったらきっと数秒だ。判断する猶予があるだけ幸せだよなぁ。考えてみたら奇跡みたいに恵まれた決断だ。御先祖様のおかげである。寅年、還暦のスタートは、少々雨漏りがしている程度だ。
工務店さんの出してくれた工事内容と見積もりを保険会社に提出する。役所には、り災証明発行の手続きをしにいく。おふくろの転居先をちゃんと決定して、その契約を進める。“お金”が準備できた時点で解体工事のスケジュールの概要を決定する。大正15年から蓄積された家の中身を整理していく。ご近所への挨拶回りをきちんとこなす。転居届を提出する。年金のアレコレの手続きをする。我ながら、出来る息子である。
この動きを推進してくれる力は、借金ひとつ出てこないおふくろたちの健全な暮らしの跡である。ご先祖様が遺したものを守り続けて来た実直な歴史である。頭が下がる。お金あれば憂い無しである。
2022年2月11日
87歳の新生活スタート!!
2022年2月11日に、快晴の彦根から雪の心配のない都会へ転居。豪雪被害から45日目。たくさんのご近所さんに惜しまれてお別れ。“晴れの門出”だった。
2022年2月14日
解体工事スタート!!
バレンタインデーに解体工事スタート。親父が遺して、おふくろが大事に守って来た小さな庭も、たったの1日で失くなった。3月いっぱいには、故郷の家は、まっさらな土地になる予定である。
2022年2月15日
伊吹山は、今日も美しい!!
実家の勉強部屋からは、いつも伊吹山が拝めた。世界一の積雪記録を持つ山だ。その記録は、11m82㎝。南極や北極の極寒地でも8mくらいだと言うから異常だな。実家を離れてからの雪の思い出といえば、正月の帰省路の雪道の心配ばかり。雪景色は、遠くから眺めるのがいい。
こうして豪雪の重さに押しつぶされそうになったが、なんとか持ちこたえられた。確かに、お金だけでは、解決できないこともある。しかし、緊急事態において“お金”とは、心強い。余裕っていうのが“強さ”ってことかもしれないと実感をした。
しかし、おふくろの決意を後押しする愛情や時間、お隣とつながっているコミュニティ力、そんな“お金”では買えないものも大事であることも痛感した。
ホントに大事なことは、
人間から学ぶのではなく、
自然から学ぶものである。
今年、還暦、人生最後の厄年のスタートである。