お金

NHKが映らないTVが大売れ!もはや地上波は必要ない存在?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

NHKが映らないTVが大売れ!もはや地上波は必要ない存在?

【画像出典元】「Garfieldbigberm/Shutterstock.com」

大手ディスカウントストアのドン・キホーテから販売されたテレビが、品切れ店が続出するほど売れに売れていることをご存じでしょうか? 2021年12月、ドン・キホーテが「AndroidTV機能搭載フルHDチューナーレススマートテレビ」というテレビを発売しましたが、わずか1カ月で生産台数の6000台を完売しています。

これを受けて、ドン・キホーテは6000台を新たに追加生産。2月中旬から各店舗で再販されています。モノが売れない時代と言われている今、このテレビの何が消費者の心を掴んだのでしょうか?

ドン・キホーテのテレビ、「AndroidTV機能搭載フルHDチューナーレススマートテレビ」の一番のポイントは、“チューナーレス”。このテレビ、テレビチューナーが搭載されていません。「テレビなのにテレビ放送が見られないの?」と思った方が多いのではないでしょうか。その通りで、このテレビは、NHKをはじめ民放各局の地上波放送が一切映りません。そして、これこそがこのテレビが人気を得ている理由なのです。

NHKが映らないということは、NHKへの受信料支払い義務が発生しません。通常、テレビを家に置いておくだけで、NHKを見ようが見まいが年間1万数千~2万数千円のNHK受信料を支払わなければなりません。しかし、このテレビであればNHK受信料を支払う必要がありません。法律でそのように定められているからです。

放送法の第64条では、NHK受信料について次のように規定されています。
「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」

ドン・キホーテのテレビは「協会の放送=NHKの放送」が映りませんので、法律上、受信料の支払い義務はありません。なお、NHKはマスコミの取材に対して、このテレビには受信料の支払い義務が発生しないことを認めています。

ドン・キホーテのテレビは、地上波放送を受信できない代わりに、ネット動画に特化した仕様が特徴です。NetflixやAmazon Prime Video、DAZNといった動画配信プラットフォームの番組を視聴するために、Amazonの「Fire TV Stick」やGoogleの「Chromecast」といった外部機器を必要としません。

他社でもNHK受信料不要のテレビが発売

セール価格のたくさんのテレビ
【画像出典元】「stock.adobe.com/Pavel Losevsky」

ドン・キホーテのテレビの売れ方を見てかどうかは定かではありませんが、NHKはじめ地上波放送が映らない“テレビ”は他社でも発売される動きがあります。

スマートフォンやオーディオ機器の周辺機器を製造している株式会社STAYERホールディングスは、テレビチューナーを搭載していない「4K対応 43V型スマートテレビ」を今年5月から発売すると発表しました。ドン・キホーテのテレビ同様、インターネット配信に特化したテレビで、テレビチューナーの代わりにGoogleの「Chromecast」を内蔵しています。同社はNHKの受信料に関して、「TV本体にチューナー(受信設備)を内蔵していないため、地上波の月々の受信料を支払う必要はありません」としています。

NHKが映らないテレビへの潜在的な需要は非常に大きいと考えられています。2月17日、ヤマダ電機とAmazonが共同で、ネット動画を視聴できる「Fire TV」を搭載した「FUNAI Fire TVスマートテレビ」を販売すると発表しました。ところが、ネット上の反応はイマイチでした。テレビチューナーが搭載されている点を不満に思っているユーザーが少なくなかったのです。

ドン・キホーテのテレビに続いて、STAYERホールディングスのテレビも仮に「バカ売れ」となると、テレビの販売不振に頭を抱える大手メーカーも無視を続けるわけにはいかなくなるのではないでしょうか。実際過去には、SONYの株主総会で、ある株主から「NHKが映らないテレビを作ってほしい」との株主提案が行われたことがあります。ユーザーや株主の声を受けて、大手メーカーがチューナーレステレビの販売に踏み切る可能性は決して低くないでしょう。

テレビチューナーが搭載されていない“テレビ”が普及すると困るのはNHKだけではありません。NHKが映らないということは当然、民放各局のテレビも映りません。ただでさえ、テレビ局は視聴率低下、視聴者数減少による広告収入の減少にあえいでいますが、地上波放送を見る人のパイ自体がさらに小さくなる可能性があるのです。地上波放送を見る人が減ることは、さらなる広告収入の減少に直結します。

使いきれなかった予算が約2000億円も

積み上げられたたくさんの札束と男性
【画像出典元】「jesterpop/Shutterstock.com」

視聴者がNHKの受信料を支払いたくないと思う背景には、見ても見なくても同じ受信料を支払わなければならないことへの不満のほか、番組の質の低下、さらにNHKの金満ぶりもあると考えられます。

最新の財務諸表によると、NHKは1000億を超える現預金と3784億円の有価証券を持っており、使いきれなかった予算の「繰越剰余金」は、約2000億円にも達します。NHKの職員の平均年収は、35歳で661万円、課長クラスで913万円、部長クラスで1173万円と民間の平均年収を大きく引き離しています。

NHKの財務諸表が発表されると、ネット上では「使いきれない予算の分だけ受信料下げれば?」「コロナが落ち着くまで受信料を値下げすればいいのに」などの声が多数寄せられました。NHKも、そろそろ受信料のあり方を真摯に見つめなおす時期に差し掛かっているのではないでしょうか。国民の声を無視し続けているとNHKはもちろん、あおりを受けた民放各局も共倒れになってしまいかねません。