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老後の備えっていつから始める?各世代ごとの準備の仕方とは?

山崎俊輔のライフプラン3.0時代を生きるルール 山崎 俊輔

老後の備えっていつから始める?各世代ごとの準備の仕方とは?

今までの人生の倍以上生きてようやく老後がやってくる!

ライフプラン3.0世代が計画性をもってお金の問題と向き合い始めているのはとてもよい流れです。ソニー生命の「社会人1年目と2年目の意識調査2022」によれば、新社会人が2年目を迎えたとき、平均貯蓄額は62万円だったそうです。感覚的にいえばボーナスの半分以上と毎月数万円の貯金くらいで達成できるイメージでしょうか。

こうした平均は高額の回答者に引きずられて高くなりがちですが、貯蓄ゼロという人の割合が12.6%と少数派となっています。50万円以上とはいかなくても、貯蓄額10~30万円の範囲に25%、4人に1人が該当しており、新社会人の多くが、できる限りの範囲で貯蓄をしていることが分かります。

目の前の家計を黒字でやりくりし、将来の必要に備えてお金を貯め、また増やしていこうとすることの大切さは、学校の金融経済教育でも盛り込まれているところです。「旅行資金」「車を買うお金」「一人暮らしのための資金」「結婚資金」のような目的は比較的イメージがしやすく、リアリティをもってお金を貯めることができます。

しかし、難しくなってくるのはもっと先のことです。具体的に言えば自分の老後のためにお金を貯めるという取り組みは、あまりにも遠く、実感がわきにくいのでそのための計画も取り組みも後回しになりがちです。

それもそのはずです。22年間生きてきて新社会人になった人たちが老後を迎えるのはおそらく70歳か75歳のことで、今までの人生の2倍(44年)を生きてもまだまだたどりつかない遠い未来です。

結婚もピンとこない、子どもが生まれるかもまだ分からない、仕事のキャリアがどう伸びていくかも分からないのに、老後のことを考えるなんて、ライフプラン3.0世代がいかに計画的であっても、なかなか難しいことなのです。

老後はほぼ確実にやってきて、やっぱり「老後に2000万円」は必要になる

ときどき、「自分は長生きなんてしないと思うから、老後のことなんて知りません」という若い人がいます。あまりにも遠い将来のことなので、そう言いたくなる気持ちは分かりますが、これは確率としてはどうでしょうか。

厚生労働省の統計調査を見る限り、95%くらいの割合で老後を迎えることになります。若い芸能人の闘病にまつわるニュースや訃報を耳にするたび、老後が自分にもやってくると実感しにくいものですが、ほとんどの人が老後を迎えることになります。現在でもこんな感じですから、40~50年後の未来には今よりももっと高まることは間違いありません。

そして、男性なら20年、女性なら25年が平均的老後期間です(65歳時点での平均余命)。こちらもまだまだ長くなることは確実です。よく、人生100年の時代と言われますが、それくらいの長生きがありうると考えて、未来に備えていくのがライフプラン3.0世代のテーマです。

そうなってくると思い浮かぶのが「老後に2000万円」問題です。ライフプラン3.0世代は、やはりそれくらいのお金を貯めていかなければいけないのでしょうか。

実は無視できない国の年金制度の大きな役割

若い世代の多くが国の年金制度について不信感を抱いているでしょうし、あまり信用を置いていないと思います。しかしながら、実際の老後を考えてみると、公的年金が破たんする可能性は低く、現実として多くの高齢者の老後を支えていくのは事実です。

一時期勢いのあった年金破たん論は、今ではほとんどが根拠を失っています。例えば年金積立金の枯渇について主張する人は2020年代には底をつくと述べていましたが、現在公的年金全体で200兆円以上の運用資金(積立金)があります。これはアメリカに次ぐ世界2位の規模です(日本の人口は世界11位)。

短期的に株価が下がったときだけ、運用結果の悪化がニュースになりますが、それも株価が回復するたびに何度も取り戻してきており、今世紀に入ってからの運用成績の平均はプラス(過去20年間の平均で、年3.79%の収益率)となっています。

そもそも、国の社会保障制度の一部である以上、年金だけが破たんすることはありえません。年金制度が破たんしたら、憲法の生存権の保障にもとづき、すべての年金生活者は生活保護を受けることができますが、そのほうが財政的には不利です(生活保護は全額税金でまかなう)。

現在の公的年金制度は長期的な保険料収入と年金支払いをバランスさせるシミュレーションのもと、年金額が調整される仕組みとなっており、そこには将来の少子高齢化の進展は織り込み済みです。そのため、制度の破たんの心配はないのです。

むしろ、「老後の日常生活費のほとんどをまかなうに足りる収入が、死ぬまで定期的にもらえる保障がある」ところに、公的年金制度の強みがあります。銀行の預金通帳残高がゼロになったとしても、2カ月に一度公的年金が振り込まれますし、納めた保険料以上の年金をもらうほどの長生きになっても年金はもらい続けることができます。

夫婦で月22万円を女性の65歳時の平均余命である24.91年で掛け合わせれば、なんと6576万円も年金をもらうことになります。夫婦ともに長生きして30年もらえば7920万円です。実は公的年金にはそれくらいのインパクトがあります。
(この月22万円は夫婦のモデルであり、ひとりが厚生年金に加入していること、つまり正社員であることが条件です。共働きで夫婦とも厚生年金をもらえればもっと増える可能性もあります。)

ただし、公的年金制度に期待できるのは、日常生活をやりくりできるくらいのお金です。6576万円もらっても7920万円もらっても、それはほとんどが日常生活費に消えてしまいます。

もっと、老後に何か楽しいことをやりたい人は、「老後に2000万円」のようなお金を別途確保しておく必要があります。

「老後に2000万円」のカギ 会社員なら退職金がこれを補う

2000万円というと人生最大の資産形成目標です。家を買うときの頭金でも多くて1000万円前後でしょう。子どもの学費もひとりあたり最大で1000万円くらいが目標になります。

あまりにも大きすぎる目標は、やる気を失わせることになり実行困難です。しかし、実は会社員として働くことは、この「老後に2000万円」の一部を自動的に準備する仕組みに加入している場合があります。

それは退職金(企業年金)です。会社で一定期間働いた場合、ルールに基づき退職時に給付が行われる制度で、8割以上の企業で採用されています。

例えば新卒から60歳まで勤め上げた場合、会社が1000万円の退職金を支給すると決まっていれば、老後の2000万円の半分は準備済みということになります。退職金や企業年金は、ある意味「老後のための強制貯金」を会社がしてくれているようなものです。

退職金あるいは企業年金制度の有無は、会社次第です。また給付水準も各社それぞれですから、「自分の会社の制度の有無」「標準モデルの退職金水準」などを確認しておきましょう。入社時の社内制度説明資料、あるいはイントラネット内の社内制度説明ページなどをチェックしてみてください。

ゼロから2000万円は大変ですが、退職金や企業年金に、iDeCoやつみたてNISAを活用して上乗せすれば「老後に2000万円」目標を達成し、あるいはそれ以上の資産形成を目指していくことが可能になります。

ただし、転職をすると、退職時にそこまでの勤続期間に応じた退職金を受け取ってしまうため、この資産形成が細切れとなることに注意が必要です(企業型の確定拠出年金制度の場合、iDeCoに資産を移して60歳以降まで受け取らないことができる)。

iDeCoは老後の準備に最適だが、スタートは30歳でもOK?

さて、ライフプラン3.0世代の老後準備の基本的な考え方を確認しておきます。

1.「日常生活費=公的年金収入」で基本的にやりくりできると考える

2.「老後のゆとりや豊かさの費用(老後に2000万円)=退職金や企業年金」と考え、それで不足する分を自力で準備すると考える

将来のために資産形成を行う制度としては、定期的な積立を行うことが有効です。

・iDeCo(個人型確定拠出年金)
・つみたてNISA(少額投資非課税制度)
・社内持ち株会
・財形貯蓄(一般、住宅、財形)
・積立定期預金
・積立投資信託

などがこれに当たります。いずれも「積立日(引き落とし日)」「積立金額」を決めて自動的にお金を貯めていく仕組みになります。

例えば35歳で積立を開始し、60歳まで毎月2.3万円(企業年金のない会社員のiDeCo積立枠上限)を積み立てたとします。これに年3.0%の運用益が上乗せされたとすると、1026万円になります。これなら退職金とあわせて「老後に2000万円」になり得ます。

月に2.3万円というと大変なようですが、月に1万円+ボーナスから7.8万円ずつと考えてみてもいいでしょう。もちろんボーナスから13.8万円ずつ出して毎月の負担ゼロという方法でもかまいません。

しかし、45歳から積立をはじめると同じ積立ペースでは間に合わなくなります。60歳まで毎月2.3万円では同じ運用成績で522万円までにしかならないからです。これは10年スタートが遅すぎたことが原因です。45歳スタートで1000万円を確保したければ、毎月4.5万円の積立が必要になります。これはちょっと大変です。

できれば老後の積立はなるべく早くからスタートする方がいいでしょう。実際には、引っ越し代、結婚資金、住宅購入費用に子どもの教育資金など、老後の準備以外のお金の準備がたくさんありますから、とにかく早く気がついてスタートする事と、できれば老後の虎の子として取り崩しを行わない口座を作っておくことが大切です。

iDeCoは税制優遇が強力(所得税や住民税の軽減、運用益は非課税)なので、老後資金準備としては第一に活用したいところです。ただし、60歳まで解約不可という制限もあり、いつから利用するかは難しいところです。

20歳代でiDeCoに加入しているのは、老後の備えだけ考えれば優等生ですが、家計が赤字になったときに取り崩しができないという側面もあるためです(別の見方をすれば、確実な老後の虎の子財産と考えることもできます)。

取り崩しができて税制優遇のある制度としてはNISA(少額投資非課税制度)になります。20歳代の資産形成(特に投資をする場合)はつみたてNISAの年40万円の枠組みを利用するところから始めてみましょう。

そのうえで、老後のことも考えるなら、上記例のように35歳くらいからiDeCoを考えてみるといいでしょう。できれば45歳までに加入することをお勧めします。つまり20歳代でつみたてNISAを始めておき、「アラフォー」の仲間入りをしたらiDeCoを検討し、「アラフィフ」になるまでには老後の積立をスタートさせておく、というイメージです。

ライフプラン3.0世代が、過去の世代と決定的に異なるのは「未来を見据えて計画的に備えるビジョン」を持っていることです。しかしなかなか老後のことだけはピンときませんよね。

アラサーからアラフォーに切り替わる頃、自分のキャリアや人生設計もおぼろげながら見えてきます。そのとき、少しでもいいので自分の老後のことも考えてみてください。