お金

国立より私立大学の方が学費が安くなる?給付型の学内奨学金制度とは

かりる 内山 貴博

国立より私立大学の方が学費が安くなる?給付型の学内奨学金制度とは

【画像出典元】「stock.adobe.com/Krakenimages.com」

人生の三大支出といわれるのが「教育費・住居費・老後資金」です。そのうちの1つ、教育費をどのようにやりくりするか。これがライフプラン全般に大きな影響を及ぼします。今回は、この教育費を支援してくれる奨学金給付制度について見ていきましょう。

国立大学・私立大学にかかる学費はいくら?

近年は高校卒業後すぐに就職する人はそれほど多くなく、8割ほどの高校生が大学や短大、専門学校などの進学を希望しています。また大学に限ってみてもその進学率は5割を超えています。
大学入学者選抜関連基礎資料集より

大学の授業料や入学料は年々上昇傾向にあります。以下は国立大学、私立大学それぞれの入学料と年間授業料を平成元年と令和元年で比較したものです。私立大学の入学料はやや下がっていますが、それ以外は大幅に上昇していることが分かります。

文部科学省「国公私立大学の授業料等の推移」より筆者作成

およそ30年の間に、国立大学も私立大学も、授業料が1.5倍以上上昇しています。それに伴って賃金も上昇していればいいのですが、厚生労働省の賃金参照データを見ると、その間の賃金水準はほとんど変わっていません。つまり「多くの学生が大学への進学を希望する中、その授業料は高くなる傾向にある。一方、賃金水準があがっていないため家計における教育費の負担割合が増している」といえるでしょう。その結果、今回のテーマでもあります「奨学金」に頼る人が増えることになるのです。

日本学生支援機構の調査によると、平成16年度時点では、4.4人に1人が同機構の奨学金制度を利用し、大学に進学していました。しかし令和元年時点では、2.7人に1人の割合に増えています。さらに、日本学生支援機構の学生生活調査報告(令和2年度)によれば、日本学生支援機構以外の各種奨学金制度を含めると、約半数の学生が何らかの奨学金制度に頼っているということも分かっています。

筆者も私立大学で非常勤講師を担っていますが、学内での奨学金説明会には多くの学生が参加しており、休憩中に学生同士で奨学金の話をしているシーンにもよく遭遇します。このように現在は大学に進学することと奨学金はセットとして捉えておく必要があり、できるだけ有利で最適な奨学金制度と付き合うことも重要です。

日本学生支援機構には貸与型奨学金と給付型奨学金の2つがあります。給付型奨学金は返還する必要が無いものの、世帯の収入状況や学生の成績などやや基準が高いため、学生の多くは貸与型奨学金を利用しています。「どうしても返還義務の無い給付型奨学金」が良いという場合は、現在、独自に給付型奨学金を用意している私立大学もありますので、希望する学部、地域などから給付型奨学金制度のある私立大学を選択肢に加えるというのも1つの進学プランとなりそうです。

意外と充実している、私立大学の給付型奨学金制度

奨学金
【画像出典元】「eamesBot/Shutterstock.com」

私立大学のひとつ、早稲田大学には、およそ150種類の独自の奨学金があるようです。東京の憧れの大学とあって進学したい気持ちはあるものの、学費、そして下宿代が気になる。という地方の学生も多いと思いますが、そんな地方学生向けの給付型奨学金制度もあります。

都の西北奨学金」制度は首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外の学生が対象となります。「都の西北」なので、九州や東北など遠方、地方からの進学を支援するのが大きな目的となっています。政治経済学部や法学部などの学生には年間45万円、学費の高い理系の先進理工学部の学生には年間70万円が原則4年間給付されます。父母の所得も給与収入(課税前)で800万円未満となっていることもあり、収入基準もそれほど厳しくありません。人数制限があるため採用されるかどうかは書類選考等の結果次第となりますが、採用されれば大きな負担軽減につながります。

慶応大学にも同様の制度がありますが、同大学の場合は、経済的理由で受験することが難しいという地方の学生向けの制度となっています。奨学生候補者としての採否結果は一般選抜出願前に決定します。採用されれば、出願・受験前に「合格すれば給付型の奨学金を受給できる」ことが約束されるため、受験勉強の追い込みにもより気持ちが入りそうですね。

奨学金額は年間60万円(医学部は90万円、薬学部は80万円)、入学初年度にはそれとは別に入学金相当額(20万円)の給付もあります。さらに2年生以降、学業成績が特に優秀と認められた人は奨学金が増額される制度もあります。給付型奨学金があることで、入学前の受験勉強のみならず、入学後の勉強も一段と身が入りそうですね。

その他、ほとんどの私立大学が様々な給付型の奨学金を用意しています。やはり学業成績優秀者や一定のTOEICスコアを持っている場合など、優秀な学生向けに授業料の全額や半額が免除となる給付型奨学金と同様の制度を用意している私立大学は多いです。

やや給付型の奨学金とは異なりますが、入学料のみ免除されるケースや施設料が全額免除となる制度を有している大学も多いです。例えば兄弟姉妹で同じ大学に進学した場合、2人目以降の費用を一定額軽減するという制度を用意している大学もあります。

「私立は高いから・・・」そんなイメージを払しょくするために、私立大学と国公立大学との差額分を給付するという奨学金制度を用意している大学もあります。私立大学と国公立大学の大きな差が施設料です。私立大学は一般的に最新の設備や若い学生が気に入るようなカフェテリアなどを備えているケースが多く、そういった施設に対する費用が上乗せされていることが国公立大学との差になっています。

その差額を給付してもらえることで、国公立大学と同じ負担でありながら、私立大学の充実した施設や環境で学べます。こういった奨学金を前提にすると、国公立大学志望だった人も「私立も検討しようかな」と選択肢を広げられるかもしれませんね。

私立で給付型奨学金を使った場合と、国立で奨学金を使わなかった場合、学費の差は?

ここで、先に紹介した早稲田大学(政経学部)の給付型奨学金の対象になったと仮定し、同じく国立大学で政治や経済系の学部で学んだ場合との、4年間でかかる費用を比較してみましょう。

大学HP等から確認できる内容をもとに筆者作成

早稲田(政経)は入学料が国立大学よりも安く、また1年目の負担を軽減する目的もあってか、1年目の授業料が2年目以降より低く抑えられています。言い換えると、2年目以降の授業料が高くなります。一方、国立大学は毎年同額の授業料となり、やはりその差は歴然で、早稲田(政経)の方が240万3500円も高くなりました。

ここから給付型奨学金分を考慮します。先に紹介したように早稲田大学の政治経済学部は年間45万円の返還不要の給付型奨学金制度があるため、同制度に該当し、4年間維持できた場合、4年間の合計が180万円となります。給付型奨学金を考慮すると、国立大学は4年間で約240万円であるのに対して、早稲田(政経)は約300万円と、その差は約60万円にまで縮まります。1年あたり15万円程度の差であればそれほど大きな負担にはならないかもしれませんね。やはり給付型奨学金は大変ありがたい制度です。

給付型奨学金をくれる団体情報

私立大学独自の給付型奨学金制度について紹介しましたが、それ以外にも、都道府県など地域特有の制度や、財団法人・一般企業が「若い人を応援する、学べない環境の人を助けたい」といった理由で様々な返還不要の奨学金制度を提供してくれています。「奨学金.net」で一覧が確認できますので、子供や孫に該当しそうなものはないか、早めに確認してみてください。

奨学金制度を利用する上での注意点(貸与型の場合) 

DEBT
【画像出典元】「stock.adobe.com/ELUTAS」

紹介したように私立大学独自の給付型奨学金はじめ、日本学生支援機構など給付型の奨学金を活用できれば良いのですが、条件や人数制限などもあるため、やはり返還義務のある貸与型奨学金を利用する人の方が多いと思われます。当然、返済しなければならないため、より一層、奨学金制度について理解しておく必要があります。大切なのは「社会人になって返済することをイメージしながら奨学金制度を活用する」ことです。

労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査」によると奨学金の毎月の返済額平均は1万6880円、返済期間の平均は14.7年となっています。22歳で社会人になっても30代半ばまで奨学金と向き合うことになります。大学生活の4年間よりも圧倒的に長いのです。

また、返済期間に収入が減るなどの理由で返済が困難となり滞納する人も一定数います。この滞納する人としない人には以下の調査で大きな違いがあることが分かっています。

まず、奨学金を借りる際の手続きについて「親が手続きをした」と回答している人は、無延滞者に比べ延滞者が倍以上の割合となっています。このように手続きに積極的に関わっていないこともあり、延滞者は奨学金の申込み前に返済義務があることを知らなかったと回答している人の割合も高いのです。

ここまででお分かりのように最初が肝心です。卒業後長く付き合うことを意識して、入学時点でしっかり「いくら返還しないといけないのか?」をしっかり見通しておくことで、在学中の勉学に励む気持ちも変わってくるはずです。

早めの教育費プランがカギ!

今回の記事のまとめです。

大学に進学する上で教育費の負担は小さくありません。中学校や高校までは何とかなっても、大学から一気に毎回の支払い金額がアップします。早めの準備、そして奨学金を活用する際は情報収集からはじめてください。各種手続きに期限等もありますので、とにかく早め早めに行動することを意識してください。

奨学金給付についてのQ&A

Q. 奨学金は世帯の収入基準や成績が関係しますが、入学後の成績も影響しますか?

A.はい、影響します。日本学生支援機構の奨学金、貸与型も給付型もいずれも入学後、学業不振の場合、支給が打ち止めとなる可能性があります。その他、学校独自の奨学金なども同様に一定の出席やGPA(平均得点)が求められる制度が多いです。

Q. 母子家庭で生活しています。奨学金を申し込む際の世帯収入に父からの養育費は含めるのでしょうか?

A.養育費も収入とみなされます。日本学生支援機構の場合、「援助・養育費の申告書」がありますので、この申告書を使って養育費の額を申告することになります。