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日本人の年収分布ってどうなの?初任給をもらう4月に考えてみる

ためる 内山 貴博

日本人の年収分布ってどうなの?初任給をもらう4月に考えてみる

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新社会人にとって4月は特別な1カ月になると思います。筆者も20年以上も前のことですが、ついこの前のことのように鮮明に思い出すことができます。入社式や配属された部署への初出勤、そして初めてのお給料。今までは学生アルバイトとして「趣味や友達との時間のため」、「欲しいものを買うため」といった動機付けだったかもしれませんが、社会人として責任が芽生える中で受け取る初任給。ぜひ将来のことを考える機会にしてください。

日本人の年代別の年収分布

日本企業の賃金水準はここ数十年、ほとんど変わっていないと言われています。筆者が2001年、21世紀最初の社会人として証券会社に入社した時の初任給は20万5000円でした。しっかり覚えています。

現在はどうでしょうか。「令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況(厚生労働省)」によると金融業・保険業(大学卒)の平均初任給は20万7300円となっています。20年以上経過していますが、わずか2000円程度の違いにとどまっています。全産業の初任給平均は下の図表1を見てください。

<図表1>

令和元年賃金構造基本統計調査結果(初任給)の概況(厚生労働省)より一部抜粋

産業(職種)間の格差割合は大卒で108.1~95.5です。つまり平均的な初任給よりも8%程度高い産業もあれば、5%程度低い産業もあることを意味しています。月額1万~2万円程度の差が生じることになります。

もちろん初任給が多いに越したことはありませんが、重要なのはその後です。初任給がやや低めでも2年目以降、急ピッチでベースアップしていく会社もあれば、初任給からそれほど増えない会社もあります。

初任給のみならず、会社の給与体系、一般的な年収推移、勤続年数や年齢による年収分布など、モデルケースを知っておくことはとても大切です。会社によっては、退職金や企業年金の説明会等でこのようなデータや資料を積極的に従業員へ開示しています。そういう機会があればぜひご自身の将来のためにもしっかり確認してください。

世帯の年収推移状況

長年水準がほとんど変わっていない初任給ですが、各世帯の年収はどうなっているでしょうか?図表2で分かるように、初任給同様、各世帯の年収もここ10年ほど大きな変化は見られません。

<図表2>

2021年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)を基に筆者作成

2020年時点での平均年収は564.3万円となっていますが、平均額は一部の年収の高い世帯の影響を受けやすくなります。実際は、全体の61.5%の世帯がこの平均値より下に分布しており、ちょうどデータの真ん中に位置づけられる中央値は440万円です。このようなデータは色々と出回っていますが、「年収450万円ぐらいが一般的な家計」と言われることが多く、今回の中央値もそれに近い値となりました。ただし、上記は年金で生活している高齢世帯なども含まれます。

初任給をもらった人の多くが待っている次のフェーズである「子育て世代」の場合は以下のようになっています。(図表3)

<図表3>

2021年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)を基に筆者作成

 2011年が697万円だったのに対し、2020年は813.5万円と100万円以上も上昇しています。こちらも平均値であるため、実態よりも高く表れている可能性がありますが、共働き夫婦が増えていることが上昇の要因としてあげられそうです。

世帯ベースであるため、夫婦がそれぞれ正社員として働くことができれば、いわゆる「Wインカム」状況となり、世帯収入はかなりアップすることになります。

雇用保険制度をはじめとする国の制度に加え、現在は各企業も育休が取りやすく、復職しやすい環境の整備に熱心に取り組んでいます。そういった共働きのしやすさが児童のいる世帯の収入を上げているようです。

このように世帯の状況によって収入は変わります。以下が年齢階級別(世帯主の年齢別)の収入(所得)の状況です。

2021年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省)を基に筆者作成


また仕事の内容、業種も給与に影響します。以下は全産業と一部の産業別の年収の平均値と中央値です。中央値の方がより実態に則していると思います。

<産業別年収の状況>

業種別の賃金(年収)の状況(厚生労働省HP)を基に筆者作成

お給料(年収)に関する状況を様々な観点から見てきました。昨今の物価上昇に伴い、少しずつ状況は変化しており、初任給をはじめ給与水準を大幅に見直す企業も出始めています。今後、一定の生活水準を維持するために物価等の状況に応じた給与水準に改定されることを望むばかりですが、それは企業の努力だけでは成り立ちません。社会の仕組み、日本経済の状況など様々な要因が絡むことになります。

「うちの会社、今年ボーナスが減るらしい・・・」
「給料が上がらないから転職しようかな」
と何気なく勤務先の給与や賞与について話したり、自身のキャリアについて考える機会も少なくないと思いますが、ぜひそんな時は近視眼的にならず、広い視野を持って向き合ってください。

初任給をきっかけに将来のライフプランを考えてみよう

ライフプラン
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これまで紹介してきましたように、初任給や年収などご自身がどのあたりに位置づけられるのか、分布状況などをみて色んな思いも芽生えたのではないでしょうか。

有名な話に「年収800万円程度が幸福のピーク」というものがあります。これはノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のアンガス・ディートン教授の研究結果からきています。同教授は年収と幸福度の関係について研究し、年収が7.5万ドル(研究当時のドル円レート換算で約800万円)を超えるとそれ以降は、年収と幸福度の相関(関係)があまり見られないというものです。その後、国内でも内閣府が『満足度・生活の質に関する調査』を行い、同様の結果を示唆しています。

「年収が多ければ多いほど幸せになれる」というわけではないようです。「幸福度」は人によって感じ方が異なりますので、すべてに同じ要因があてはまるわけではありませんが、ここからは考えられる要因を探ってみたいと思います。

忙しくなり趣味や家族との時間が減る

年収が多い人ほど忙しい傾向にあります。今回、初任給についても触れましたが、入社1年目は右も左も分からず、ある程度定時で帰宅できていたのが、2年目・3年目となると残業や出張、取引先との会食が増えるなど忙しくなる人も多いのです。

このように徐々に年収が増えていくことで仕事のやりがいや生活水準の向上に喜びを感じることがあっても、さらに忙しさが加速し「仕事ばかりの生活」になってしまうと、幸福度があまり上昇しないのかもしれません。「休日出勤や残業はしたくない。年収が減ってもいいので趣味や家族の時間を楽しみたい」と感じ出す1つの境目が年収800万円ぐらいになるのかもしれません。

年収に伴い責任も増える

年収800万円を超える会社員の場合は、大手企業勤務で社内においても重要なポストを任されている場合が多いと考えられます。部下もたくさんおり、その責任は増すばかり。それがストレスとなる人もいるのではないでしょうか。

税金や社会保険料の負担増

年収の増加に伴い、所得税をはじめとする税金や健康保険料なども負担が増します。つまりその分、手取り率が下がってしまうのです。それであればもう少し年収を抑えて自分の時間を満喫したい。こんな発想になっても不思議ではありません。

ちなみに厚生年金の保険料は標準報酬月額が65万円以上になるとそれ以上保険料は変わりません。つまり月額70万円でも80万円でも、将来もらう厚生年金の額が変わらないことになります。一方、65万円を超えても健康保険料はさらに上の等級があり保険料は上昇します(加入している保険組合等により異なる場合があります)。

いうなれば「将来の年金額は変わらず、掛け捨てとなる健康保険の保険料負担は増える」ちょうどこのあたりの境目が年収換算すると800万円程度です。それでも「高年収に憧れる」という人もいると思います。決して悪いことではありません。「しっかり稼ぎたい」と思っている方は、そのための努力や工夫をすることもとても大切だと思います。

その1つとして海外に目を向けることもできます。米国は2020年の大学卒業者の平均初任給(年収)は5万5260ドル、1ドル130円換算で700万円を超えます。(NASA,NAtionAlAssociAtion of Colleges And Employers調べ)日本の比ではありませんね。すごく魅力的に感じる人も多いでしょう。ただ、その分、物価も考慮する必要があります。額面では明らかに米国の方が高いですが、国内で就職した方がより豊かな生活ができるかもしれません。これも「年収800万円の幸福度」とリンクしますね。

自分らしいライフプランを

考える女性
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今回の要点をまとめます。

初任給や給与水準を知ることは「自分がこれからどうすべきなのか?どうしたいのか?」を考える良い機会になると思います。言い換えると「お金の優先順位」を考えることにもなります。例えば、年収が多い人が必ずしも貯蓄が多いとは限りません。また年収が少なくてもやり方次第で貯蓄を増やすことは可能です。

初任給を手にした新入社員の皆さん、将来に対する不安もあるかもしれませんが、ぜひワクワクしながらこれからのライフプランと向き合ってみてください。

年収についてのQ&A

Q.収入と手取りの差はどれくらいですか?

A.収入から税金や社会保険料を差し引いた額を可処分所得と言います。一般的に手取りと言われる額です。収入や各人の状況に左右されますが、収入の7~8割程度が手取りとなります。(給与天引きで積立等行う場合は考慮していません)

Q.転職するとお給料は下がることが多いのでしょうか?

A.一般的に若い人の転職はそれほど下がらず、むしろ上がることが多いです。一方で、職種にもよりますが30代や40代などある年齢を超えてからの転職は下がるケースが多いと言われています。ただ、今は転職する人も増え、人材不足の業界もあり、年齢にかかわらず転職により給料が増える人も多いようです。