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政府表明の「異次元の少子化対策」を別の角度から考えてみたら…

経済とお金のはなし 竹中 英生

政府表明の「異次元の少子化対策」を別の角度から考えてみたら…

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2022年に生まれた子供の数は80万人を割り込み、少子化のペースが想定より10年早く進んでいることが明らかになりました。こうした状況を踏まえ、岸田総理は2023年1月4日の年頭記者会見で「異次元の少子化対策」を表明し、4月1日には新たに「こども家庭庁」が創設されました。

1997年(平成9年)には既に少子化が始まっており、人口も2008年の1億2808万人をピークに減少に転じていることから、少子化社会は26年間、人口減少は15年間続いているものの、いまだ有効な対策が講じられているとは言い難い状況にあります。

そこで今回は、少し別の角度から少子化対策について考えてみたいと思います。

少子化対策として両親との同居を選択肢として考えてみる

ソファに座る家族
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結婚や出産を控える(あるいは諦める)大きな理由の一つは、言うまでもなく経済的なものです。一般的に、出産や育児に伴い(おもに)女性側の所得は減少し、これまで積み上げてきたキャリアを放棄せざるを得ない状況になることも珍しくありません。

また、家族が増えるタイミングでローンを組んで自宅を購入することも考えられますし、自家用車もワンボックスカーに買い替える必要があるかもしれません。もちろん、社会人になるまでの教育費も必要です。こうした出産後の将来をほんの少し考えただけでも、多額の資金が必要なことは誰でも分かります。

これを、両親との同居で乗り切ることを、少子化対策として考えてみます。

同居によって節約できる費用

昔から「人生で一番高い出費は、家と車と保険」と言われています。そこで、まずこの3つの出費を両親との同居によってできる限り節約します。まずは結婚後~出産までの夫婦の生活費について考えてみましょう。

実家の空いている部屋を借りて同居するわけですから、部屋を借りるだけで両親に経済的な負担がかかることはありません。したがって、家賃は無料で同居をさせて頂きます。もちろんその代わりに、掃除やお手伝いなどは出来るだけ積極的に行った方が良いでしょう。

次に車ですが、これは買わないで借りるようにします。通勤は自家用車でなく公共交通機関を利用し、休日に車を使いたい時だけ両親が持っている自家用車を借りるようにしましょう。使った分のガソリンを補充して返すのは当然ですが、自動車税や保険代、車検代などの負担は必要なくなります。また、休日に両親が車を使う時は、カーシェアなどを利用する手もあります。

最後に保険ですが、これは掛け捨ての共済を選択します。共済は非営利事業ですから掛け金も月額数千円程度と安く、とりあえず一般的な保障もある程度以上のレベルまで受けられます。

ちなみにこれら以外にも、インターネットはWi-Fiを無料で使わせてもらい、新聞も読み終わったものを後で読ませてもらえば無料で済みます。NHKの受診料も、世帯が同じですから改めて支払う必要はありません。スマホ代は必要ですが、格安SIMに切り替えれば、2人で月額2000円程度に抑えることも十分に可能です。

こうすれば、必要になるのは水道光熱費と食費くらいです。2人分の水道光熱費と食費だけは同居させてもらうにあたり必要となりますが、普通に暮らして普通に食事をする程度であれば大人2人で5万円もあれば十分でしょう。もちろん、その代わりに食事の準備や家事の手伝いなどは出来るだけ積極的に行うようにしましょう。

かなり乱暴な計算ではありますが、以上をまとめると、同居の場合結婚後に必要なお金は月額6万円(食費・水道光熱費5万円、スマホ代2000円、ガソリン代5000円、その他3000円)程度となります。あとは2人のお小遣いだけですから、上手にやり繰りすれば、2人で月額10万円以内の生活費に抑えることもそれ程難しくないでしょう。これなら、男女2人のうちどちらかの給料だけで十分に賄えるはずです。

また、どちらか一方の給料は丸々使わないで済むはずですから、これは将来の出産・育児などに必要な費用として積み立てておきましょう。年に最低でも150万円は貯まるはずですから、3年から5年も貯めれば当面の教育費などで心配することはないはずです。

同居で待機児童を解消する

出産後も実家に同居すると考えると、現在問題となっている待機児童の問題も、ある程度解消することが可能です。保育所が空いていれば問題ありませんが、待機児童となってしまった場合には、しばらくの間祖父母に面倒を見てもらうようにします。

また、保育所や保育園への送り迎えが必要な場合は、祖父母に行ってもらえるようにお願いすると良いでしょう。

これらは祖父母側にも負担をかけるため必ずしもベストな方法とは言えませんが、それでも待機児童問題をある程度解消することはできます。

どちらの親と同居するのか

男性女性のどちら側の両親と同居するのかは一番の問題になると思いますが、一般的には女性側の両親との同居を選んだ方が良いでしょう。出産をするのは女性ですし、家事や育児なども今のところまだまだ女性の方に負担がかかる割合が多いのが現実です。したがって、女性の負担を軽くすることを優先し、女性の両親との同居を選択した方が良いでしょう。

また、本人たちだけでなく同居にかかる親側の負担なども考慮し、国や自治体が「同居控除」や「同居補助金」などの制度を創設して親側の支援を行うことも大切です。

経済対策だけで少子化は食い止められない

少子化対策の補助金
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少子化対策として補助金や助成金・税制上の優遇措置のような経済的支援を行い、また両親との同居によって生活コストを切り詰めたとしても、効果が現れる層は限定されています。なぜなら、少子化は経済的な理由だけではないからです。

経済的支援が有効なのは全体の6割程度

少子化対策として経済的支援が有効になるのは、おもに以下の層に限られます。

内閣府が発表している令和4年版の「少子化社会対策白書」によると、理想の子供数を持たない理由として約6割が経済的理由を挙げていることから、少子化対策として経済的支援が有効なのはおそらく全体の6割程度と考えられます。

したがって、残り4割に対しては、経済的支援を行ったとしても少子化対策の効果を得るのは難しいと考えておいた方が良いでしょう。

結婚しない・子供を産まない理由はさまざま

では、経済的理由ではなく結婚しない・子供を産まない理由は何かというと、これは実にさまざまです。令和4年版の「男女共同参画白書」によると、経済的な理由以外で結婚したいと思わない理由として以下のものが挙げられています。

また、国立社会保障・人口問題研究所の「第15回出生動向基本調査」によると、経済的理由以外で子供を産まない理由として以下のものが挙げられています。

このように、経済的な理由以外で結婚しない・子供を産まない理由は実にさまざまで、これら一つ一つに対して有効な手段を講じることは現実的にかなり難しいでしょう。個人の生き方や価値観が多様化した結果、結婚しない・子供を産まない理由も多様化していったのではないかと考えられます。

終わりに

経済的な理由で結婚や出産を諦めている層に対し、政府による経済的な支援や両親との同居によって支出を抑える方法は、一定以上の効果を上げられると考えられます。もちろんある程度の我慢は必要になりますが、上手にコントロールすれば、決して乗り越えられない壁ではありません。

しかし、この方法で解決できるのは、全体の6割程度です。したがって、少子化を解消するためには、残り4割に対しても何らかのアプローチが必要となるでしょう。先進国のほぼすべてで少子化が加速しており、いまだどの国も有効な対策が打ち出せているとは言えませんが、それでも辛抱強く模索していくことが必要となるはずです。