今、気になる金融リテラシー。アメリカの金融教育ってどんな感じ?
日本では昨年から高校の家庭科の授業に資産形成の内容が盛り込まれました。最近では子ども向けのさまざまな金融サービスが拡大しつつあります。海を越え、アメリカの金融教育はどう行われているのでしょうか? 米国から最新事情を報告します。
日本では最近、子ども向けのさまざまな金融サービスが拡大し、金融教育や金融リテラシーが注目され始めました。例えば、スタートアップが子ども向けの小遣い管理アプリを作ったり、子どもが使えるデビットカードやプリペイドカードが発行されたりしています。また昨年から高校の家庭科の授業に、資産形成の内容が盛り込まれました。
一方アメリカですが、まず教育全般について言えることとして、この国の教育方針や教育内容は州ごとに、そして家庭ごとに異なります。同じ州でも学校が有名私立か公立かによっても変わってきます。子どもを学校に通学させず、自宅で学習させるホームスクール形態を採用する家庭(*1)もあるくらいですから、教育分野に関しては、日本以上に自由かつ個人主義が大きく反映されるところです。
(*1)全米家庭教育調査(NHES)によると、2019年の統計で、ホームスクールを選んだ幼稚園~12年生(5歳~17歳)の児童は全体の2.8%。そう多い数字とは言えないが、約30人に一人の計算。
それを前提に、アメリカの金融(ファイナンシャル)および金融リテラシー教育についてお伝えします。
「宵越しの銭を持たぬ」がデフォルト?
金融教育に関して、ニューヨークでは今春ある動きがありました。
市内の公立スタイベサント高校では4月、個人向けの金融リテラシーを包括的に教えるクラスが年間を通してスタートしました。人気を博していると、地元紙が報じています。
ニューヨーク市内の公立校では小学校の低学年から金融リテラシーの概念に触れる機会が作られ、高校の高学年に上がっていくにつれ、経済学の一環として金融リテラシーを教えています。スタイベサント高校ではこれまで、学期内で提供する金融関連の授業はあっても年間を通した本格的なクラスはなかったということです。生徒からの高い要望を受け、このような教育が始まったということで、州議会はすべての高校でも同様のコースの必修化を要求している模様です。
ただし、アメリカの金融教育や金融リテラシーが世界的に進んでいるのかと言えばそうとも言えず、全体的には「中程度」だと言えるでしょう。
アメリカは一般的に消費大国であり、この国の人々は「宵越しの銭を持たぬ」ことで知られています。もちろん十把一絡げで語ることはできず、先述の通り個人や家庭によっても異なります。ただ言えるのは、アメリカは日本と比べると貧富の差が激しく、金融教育や金融リテラシーの知識は一部の層で格段に高いというのは事実です。その一方で、この国には稼いだ分だけ使い切る人も多く、貯蓄が低いことでも知られています。ある記事でも「専門家がもっとも懸念しているのは、高校までに何らかの金融リテラシーを要求している州は50州中わずか 21州だけ」という現状もあります。
貯蓄が低いだけならまだしも、多くの人は負債を抱えています。ビジネスインサイダーによると、個人の平均的な負債総額は、各種ローン(住宅、自動車、学生)とクレジットカード負債などで5万9580ドル(約890万円)にも上るそうです。
景気後退に入り、また何らかの理由で働けなくなった場合に「もっと貯蓄しておくべきだった」と後悔する人は多いでしょう。だからこそ、専門家により、幼少期からの金融教育(ファイナンシャル教育)や金融リテラシーの重要さが叫ばれているのです。
アメリカの子どもは、何歳からお金について学んでいるか
具体的に「何歳から始めるべき」という「正解」はないものの、米CNBC局は専門家の意見を交え、クレジットカードなどを含む金融教育は「18歳(*2)になる前から始めるのが良い」と説いています。その理由として、「金融リテラシーを早い段階で教えていれば、この国の人々が直面している多くのお金の問題は回避できるから」というのが、専門家の見方です。
(*2) 18歳:独立した収入があったり連帯保証人がいたりすればクレジットカードを作ることが法律で認められている年齢。カード会社の規定にもよるが13~15歳で保護者のクレジットカードに追加することができるものもある。
ほかの主要メディアや大学のリサーチセンターなどの発表でも、「金融教育は何歳でも早すぎることはない」「3歳になった時点でお金について教え始めると良い」「3歳とか5歳くらいから」「最適な年齢というのはない。子が数を数え始めたら、またはお金について尋ねてきたらそのときが教えどき」と、さまざまな意見が専門家から出ています。
とは言え、3~5歳の幼児期と言えば、まだ数字を覚えたばかりの年頃かもしれません。先述のCNBCは、金融専門家の声を交え年代別にわかりやすく説明しています。
● 幼児期(3~5歳)
数字を覚えたばかりの年頃。遊んだり身近な人を観察したりすることでお金について理解できるようになる。親がクレジットカードを使っているのを見て、買い物にはお金が必要だと理解し始める。感情レベルにおいて忍耐力、決断力、集中力などライフスキルを身につけることで、後々家計の管理に役立つ。
お金の使い方は「支出、貯金、投資、贈呈(寄付)」などさまざまある中、この年代の子は親の舞台裏の活動(貯蓄や投資)より日常的な買い物風景に影響を受け「お金=支出(使うもの)」という認識を早い段階で持ち「消費」するようにプログラムされる(よって貯蓄と投資の方法を早い段階から積極的に教えることが必要とされる)。
● 幼児期中期(6~12歳)
現金を数えたり、支出計画を立てたり、節約したりなどのライフスキルを練習する機会が必要となる。クレジットカードを上手に使う大人に成長するために、「借金をし返済する」という考えを持つ前に「稼ぐ」という概念を根付かせることが大切。(デビットカードを子に教える金融リテラシーアプリ「Greenlight」(詳細は後述)共同創設者兼CEO、ティム・シーハン氏の声)
● 13~21歳
自分で経済的な決定を下し始める年頃。また18歳でクレジットカードを取得でき、将来のことも念頭に置き始める。クレジットカードの仕組みや利用規約を学ぶことで、金融リテラシーを構築することができるが、その前に、お金についての賢明な決定をするためのクリティカルシンキング(感情などに流されない物事の正しい判断)力を身につける必要がある。
子がクレジットカードを作ったら、親は「請求書を見ながら、返済とはどういう意味か、残高があり利息を支払ったらどうなるか、支払わなかった場合にどんな影響があるかについて話すことを推奨。
知識層向けにどのような金融教育がある?
まず子どもの貯金について。銀行によって異なりますが、大手チェイス銀行では6歳以上の児童向けに、保護者の口座と紐づけてデビットカード(*3)を作ることができます。
またチェイス銀行以外にも多くの銀行では、8歳や13歳などさまざまな年齢で、保護者の口座と紐づけながら、チェッキング(当座預金)口座を開設できます。また18歳になると新たに自分自身のチェッキング口座を開設することができます。
フォーブス誌は特集を組み、今年10月にオススメの「ティーン向け最良チェッキング口座」を紹介しています。
(*3)アメリカでは銀行口座を開くとカードを発行される。日本では多くの場合発行されている通帳について、アメリカ(および西欧諸国では)では通帳自体がない。つまり口座を作るとカードは発行されても通帳は発行されない。一部の銀行で子ども用に希望すれば作ってもらえるサービスも残っているようだが「ない」がデフォルトであり、オンライン上で貯金額は確認できるので、わざわざ作っている人はほとんどいないだろう。当地に長年住む筆者は、銀行で通帳を持っている人を見たことがない。
テクノロジーを利用した金融教育にも注目が集まっています。例えば、デビットカードを子に教える金融リテラシーアプリ「グリーンライト(Greenlight)」が親に支持されているようです。このアプリは日頃の「お手伝い」と紐づけ、労働対価で得た収入の貯金や投資を楽しく学べるもの。インサイダー誌にもお墨付きをもらっています。
ほかにも数々のオンライン授業で「個人の金融に関するクラス」があったり、本、ゲームやアクティビティ(定番ボードゲームのモノポリーやペイデイ、オンラインゲームのファイナンシャルフットボール)などを通じて、お金について学ぶ機会はたくさんあります。親がその気になればいくらでも金融教育を子にすることはできそうですが、いずれも子どもが「楽しく学ぶ」ことが金融教育を成功に導く秘訣のように思います。