お金

奨学金返済額や年数、平均どれくらい?きつい場合の対処法・支援はある?

かりる 白浜 仁子

奨学金返済額や年数、平均どれくらい?きつい場合の対処法・支援はある?

【画像出典元】「stock.adobe.com/Jokiewalker」

進学を希望している学生が、経済的な理由で進学を諦めずに済むように学費を借りたり、給付を受けたりできる「奨学金制度」。学びの継続や、将来への道を切り開くためにも必要なものです。

銀行で借りる教育ローンや国の教育ローンは、親などの保護者が借りて返済しますが、奨学金制度は、「学生自身」が借りるものなので、卒業したら自分で返済しなければなりません。いざ返済が始まると「思ったより大変、毎月の返済がきつい」と悩んでいる人もいると思います。そこで今回は、奨学金の返済について考えていきましょう。独立行政法人日本学生支援機構(JASSO、以下日本学生支援機構)を利用する人が大半ですので、こちらの利用割合や借入額(貸与額)、返済にかかる年数などを解説します。

奨学金返済、1割が延滞

奨学金はとてもありがたいものです。しかし、返済ができず延滞するケースも少なくなく、国も問題視しています。日本学生支援機構の「返還金の回収状況及び令和2年度業務実績の評価について」によると、令和2年度における返済を受けるべき額7785億円のうち回収できず延滞となった金額は789億円と、1割ほどあるようです。

返済できない理由としては、本人が低所得であることや失業、病気、親の生活支援をしているため余裕がない、他の借入金の返済がある、延滞額が増えたことでさらに返済困難に陥っているなど、さまざまです。

特にコロナ禍では、家計急変世帯への給付奨学金を準備したり、返済期限の猶予について特別な対応を行ったりしたことは記憶に新しいですが、その他にも多くの施策が実施されています。

例えば、家庭の経済的な事情によって進学を諦めなければならない人を減らすための「給付型奨学金」の拡充や、月の返済額が前年の所得に連動する「所得連動変換方式」が選択できるようになりました。これは、所得が少ない若いうちは返済負担を抑え、収入が増えるにしたがって返済額が増える返済方法のため生活設計が立てやすくなるメリットがあります。

また、専門家を学校に派遣する「スカラシップ・アドバイザー派遣事業」も実施されています。進学のために資金計画の説明・助言を事前に受けることで高校生や保護者の経済的な不安を軽減したり、安心して奨学金を利用するための知識を提供することが目的です。

その他にも、日本学生支援機構のホームページにある「進学資金シミュレーター」の活用もおすすめです。授業料や一人暮らしの生活費や不足額を確認でき、利用可能な奨学金を診断できるため、より具体的に必要資金を知ることができます。さらに「奨学金貸与・返還シミュレーション」で、具体的な返済回数や返済額をイメージすることも可能です。

漠然と奨学金の利用を考えるのではなく、早いうちから知識をつけて借入額や返済計画が立てられるように工夫がされているわけです。

参照:独立行政法人日本学生支援機構「奨学金貸与・返還シミュレーション

また、自治体による奨学金の返還支援の拡大や、企業の返還支援(代理返還)という嬉しい制度もできました。この部分は後ほど詳しく説明します。

2人に1人が利用、現在の奨学金利用者割合の推移

では、奨学金制度を利用している人はどのくらいいるのでしょうか?日本学生支援機構の「令和2年度学生生活調査結果」をもとに、大学(昼間部)、短期大学(昼間部)、修士課程において、何らかの奨学金を利用している人の割合を見ていきましょう。

=奨学金受給状況=

参照:独立行政法人日本学生支援機構「令和2年度学生生活調査結果」より抜粋

これによると、約半分の人が奨学金をもらいながら学生生活を送っていることが分かります。2人に1人が奨学金の返済をしている(していく)わけです。

大学の奨学金について利用率の推移を見ると、平成30年度は、平成28年度より1.4ポイント低下していますが、令和2年になると2.1ポイント上昇。修士課程でも同様の傾向があるようです。一方、短期大学では、ずっと上昇傾向。令和2年度以降は、新型コロナウイルス感染症が流行して経済がストップしたことで所得減や失業者が相次いでいますので、その後のデータが注目されます。

奨学金の借入額と返済年数の平均は

電卓と¥が書かれた積み木
【画像出典元】「stock.adobe.com/tamayura39」

それでは、奨学金を利用している人は、いくら借りて毎月いくら返済しているのでしょうか?多くの人が利用している日本学生支援機構の奨学金制度について概要を確認しながら見ていくことにしましょう。

まず、日本学生支援機構の奨学金は大きく2つに分類できます。一つは「もらう=給付型奨学金」。学力基準や家計条件が厳しい奨学金で、入学金や授業料の減額・免除も利用できます。

もう一つは「借りる=貸与型奨学金」で、無利子となる第一種奨学金と、有利子の第二種奨学金があります。所得や成績などの要件が第一種より緩い第二種奨学金を利用している人が多いようです。

では、有利子の場合の金利はどのくらいで、いつ決まるのでしょうか?一般にローンを組む時には、借りると同時に金利が分かるものですが、奨学金の場合は貸与終了後です。ただし、銀行で借りる教育ローンやカーローンに比べると随分と金利は低いので安心してください。

日本学生支援機構の奨学金(基本月額部分)の場合、2023年10月時点で、利率固定方式では1.105%、約5年ごとに利率が見直される利率見直し方式では0.4%。増額部分の奨学金はそれより少し高くなります。

次に、奨学金の貸与額や返済についてみていきましょう。労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書2022年9月実施」によると、返済しなければならない「貸与型奨学金」のうち、有利子の奨学金の貸与額は100~200 万円未満が 19.5%、200~300 万円未満が 25.8%、300~400 万円未満が 17.0%で、平均は310万円となっています。

毎月の返済額の平均は 1.5 万円。14~15年かけて完済している人が多いようです。よって、大学を卒業してから15年後の37歳くらいで完済することになります。

参照:労働者福祉中央協議会の「奨学金や教育費負担に関するアンケート報告書2022年9月実施

一括返済と繰り上げ返済で気を付けたいポイント

このように、奨学金は長く返済が続くため、早くスッキリさせたいと思う人もいます。時には、結婚を考えている人から、結婚前に返済を終わらせたいという声を伺うこともあります。奨学金は、希望によって「一部繰り上げ」または「一括返済」をすることが可能です。返済期間を短くすることで家計にも余裕ができ、利子の負担が軽減されます。

注意点は、ライフプランを踏まえて、繰り上げ返済や一括返済を検討することです。できるだけ早く返済したいからといって、奨学金をまとめて返済してしまうと、その分手元の資金が少なくなり、困ることがあるかもしれません。

例えば、車の購入をする場合、キャッシュで買うことができないなら自動車ローンを利用しますが、金利は奨学金より高いのが通常です。この場合、奨学金は借りたままにして、車をキャッシュで購入する方が得策ということになります。例えば、奨学金300万円の一括返済を考えていたとして、2~3年後に200万円の車を買う予定があるのなら、100万円だけ奨学金を繰り上げ返済して、残りの200万円は車の費用として手元に置いておくというのも良さそうです。

また、結婚してマイホームを購入する場合も同様です。住宅購入時には、引っ越し費用や家具や家電の購入など、想定以上にお金がかかる場合があります。ヒヤヒヤしなくて良いようにしたいものです。このように奨学金の繰り上げや一括返済を考える場合は、自身のライフプランを考えながら検討しましょう。

毎月の返済が難しい場合の対応と支援制度

長い人生、必ずしも予定通りにはいきません。想定外のことが起こり、奨学金の返済が思い通りにいかないこともあるでしょう。家計の見直しや副業の検討、場合によっては転職も選択肢になるかもしれません。困ったら延滞する前に、両親や親せき、周りの人に相談しましょう。お金の専門家ファイナンシャルプランナー(FP)も強い味方になれるはずです。

返済が滞りそうな時の選択肢として、返済の猶予や減額も一つです。日本学生支援機構では、次のような制度があります。

「返還猶予制度」は、災害、傷害・疾病、失業など経済的理由から返済が困難な人が対象で、返済を一定期間待ってもらえます。最長10年まで適用でき、その間に延滞金は発生しません。給与所得300万円以下(給与以外の者は所得200万円以下)などの所得要件があります。

「減額返還制度」は、月々の返済額を1/2または、1/3に減らすことができる制度です。災害、傷害・疾病、その他経済的理由から返還が困難な人が対象で、最長15年まで適用されます。こちらも、給与所得325万円以下(給与以外の者は所得225万円以下)などの所得要件があります。毎月の返済額は減らせますが、免除されるものではありませんので、返済期間が長くなります。

延滞すると利用できない場合もあるので、困ったら早めに相談しましょう。

返済を補助してくれる企業も増えている

握手するビジネスマン
【画像出典元】「stock.adobe.com/Haru Works」

先程、国の施策として触れましたが、民間企業による「奨学金返還支援(代理返還制度)」についてもう少し説明します。この制度は、2021年4月から始まったもので、奨学金を借りている社員の返済額の一部、または全額を企業が機構に直接送金できる制度です。

これまでも、社員に返済分を支給する企業はありましたが、企業が直接、機構に返済できるようにすることでさらにメリットが得られるようになりました。企業が直接返済することで、その支援額が給与と区分されようになることです。それによって、従業員は会社が返済を補助してくれる額に税金や社会保険料が掛からなくなりました。

また、企業側も法人税が減免されるといったメリットが得られるようになっています。この制度によって、従業員は奨学金の負担が減り、企業にとっても良い人材を集めるきっかけになるという双方にとって恩恵が得られるものとなっています。

まとめ

今回は、奨学金の返済についてみてきました。簡単にまとめます。

奨学金の返済はじっくり付き合うものです。しっかりと計画を立てて返していきましょう。

奨学金に関するQ&A

Q:返還回数は自分で決められますか?

A:日本学生支援機構が定める「奨学金返還年数算出表」をもとに、貸与総額から計算した返還年数を12倍した回数となります。(定額返還方式の場合)

Q:社会人になった後に開始する奨学金返済月はいつですか?

A:奨学金の貸与が終了した月の翌月から数えて7か月目に返済がスタートします。3月に卒業すると、10月から返済することになります。