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エヌビディアが時価総額で世界一に、でもそもそも時価総額って何?

経済とお金のはなし 箕輪 健伸

エヌビディアが時価総額で世界一に、でもそもそも時価総額って何?

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6月下旬、株式市場関係で大きなニュースが報じられました。アメリカの大手半導体メーカー・NVIDIA(エヌビディア)がマイクロソフトを抜き、時価総額の世界ランキングでトップになったというものです。日本でもNHKをはじめ数多くの報道機関がこのことを取り上げましたが、「そもそも時価総額が何なのか分からない」という方や、「時価総額が高くなると何がいいの?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。そこでこの記事では、時価総額とは何か、時価総額が高くなることのメリットは何なのかといったことを解説します。

時価総額約3兆3000億ドルで、エヌビディアが世界一に

突然ですが、皆さんはNVIDIA(エヌビディア)という会社をご存じでしょうか。エヌビディアは、アメリカに本社を置く半導体メーカーで設立は1993年。コンピュータグラフィックスの進化に貢献し、AIとディープラーニングの分野ではデータ処理能力と学習効率の向上に大きく寄与したと言われています。特にAIの分野では、「1強」状態です。そんなエヌビディア、「最近になって初めて聞いた」という方も多いのではないでしょうか。

6月18日のニューヨーク株式市場でエヌビディアの株価が上昇し、時価総額は約3兆3300億ドル(約525兆円)となり、マイクロソフトを抜いて初めて時価総額世界一位になりました。ちなみに時価総額日本一のトヨタは約51兆円(6月26日時点)。単純に考えると、エヌビディアの時価総額はトヨタ10社分ということになります。

時価総額とは、企業の価値や規模を示す指標の一つで、以下の計算式で求められます。

思ったより単純ですね。時価総額は企業の価値や規模を客観的に判断できる指標のため、企業の買収検討時の購入金額を決める際、企業への投資可否を決定する際、就職活動・転職活動時に企業の将来性を判断する際など、さまざまな場面で活用されています。

時価総額が高くなることのメリットは?

「S&P500」と書かれた積み木
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時価総額は、日本でも世界でもトップや順位が入れ替わるたびに割と大きなニュースとして扱われますが、時価総額が高くなることにはどのようなメリットがあるのでしょうか。一番大きなメリットは、その企業の信頼度が高まる点でしょう。

先にもお伝えしたように、時価総額は企業の価値や規模を測る指標です。時価総額が高い企業は、取引先や投資家、金融機関などから信頼度が高まりやすくなります。その結果、資金調達の面にも好影響を与え、金融機関からの融資も受けやすくなるでしょう。また、求職者から「経営が安定しており、将来性がある」と判断されれば優秀な人材も獲得しやすくなります。

さらに、時価総額が高ければ高いほど、その企業は買収されにくくなり、経営基盤はより安定化します。たとえば、時価総額日本一のトヨタの経営権を確保するために、発行済株式の過半数を取得しようとすると、単純計算で25兆円以上もの巨額の現金が必要になるわけです。エヌビディアであれ、マイクロソフトであれ、アップルであれ、おいそれと出せる金額ではありません。

このように時価総額が高くなることには数々のメリットがあります。しかし、その一方、時価総額の増大、つまり株価上昇だけを最優先する「時価総額経営」にはデメリットもあります。それは、財務リスクが増加する可能性がある点です。

株価上昇だけを追い求める経営にはリスクも

Risk Management
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株価を引き上げるための代表的な手法の一つが、自社株買いです。自社株買いとは文字通り、自社の株を株式市場から買い戻すことを指します。自社株買いを行うことにより、株式市場に流通する株式が減少することになります。要は、投資家が買える株式の絶対数が減ることになるわけです。

モノの値段は需要と供給のバランスで決まります。自社株買いの実施前より株式の供給量は減るため、需要が変わらなければ必然的に株価は上昇するのです。また、自社株買いは買いやすいタイミング、つまり株価が比較的割安なタイミングで行われるため、その後の株価上昇を期待して投資家からの買い注文が入りやすくなります。結果的に、株価が上昇しやすくなるわけです。

ただし、自社株買いは巨額の現金が動くため、失敗した時の財務リスクは大きくなります。最近では、アメリカの航空機大手・ボーイング社の失敗が特に有名です。ボーイング社が株価上昇を狙って2014~2019年の間に行った自社株買いは総額で406億ドル。当時は1ドル=110円から120円だったため、1ドル=110円で計算しても約4兆5000億円もの資金を投入しています。

そのかいもあって、2014年初に140ドル程度だったボーイング社の株価は2019年3月1日には446ドルにまで上昇。ボーイング社の自社株買いは成功裏に終わったかのように見えました。ところがそんな矢先の新型コロナウイルスの流行。株価は急落し、4兆円を超える多額の現金を投入したにもかかわらず株価暴落により思ったようなリターンが受け取れず、ボーイング社は一時、債務超過に陥りました。

企業の価値を測る指標として株価は把握しているけれど、時価総額は重視していなかったという方も多いのではないでしょうか。株価とともに時価総額を把握することで、より正しく企業価値を測れるようになります。

時価総額を理解することは、投資を行う際のリスクを減らせることはもちろん、就職・転職時に企業の将来性を判断できるなど、投資家以外のさまざまな方にも多くのメリットがあることだと言えるでしょう。この機会にぜひ、注目してみてください。